作品タイトル不明
第53話 こいつの味見といこうか
「っ……いたぜ! ニワトリスだ!」
「任せて」
「コケエエエッ!?」
「……っ、当たったけど急所は避けられたわ!」
「だがスピードは落ちている! 追いつけるぜ!」
「コケェ――」
僕たちはダンジョン『埋没遺跡』の地下5階まで来ていた。
地下1階と比べるとニワトリスに遭遇する確率が上がって、今も新たな一体を仕留めたところである。
「〈食材切り〉からの〈小物収納〉」
解体してから亜空間に収納しておく。
「はぁはぁ、これで六体目のニワトリスだな! それにこの地下5階でも問題なく戦えてるし、おれたち、めちゃくちゃ順調だぜ! さすがは未来の世界最強パーティだ!」
意気揚々と叫ぶアルクだけれど、さすがに息が上がっている。
なにせダンジョン初挑戦で、いきなり地下5階まで一気に潜ってきたのだ。
ちなみに、あまり時短し過ぎるのもよくないと思って、あえて〈歩行補助〉は使っていない。
使っていたらもうちょっと体力にも余裕があったかも?
「でも、さすがに疲れたわ」
「こ、ここまで、ハイペースで来ましたからね……」
クーヴァとコレッタも疲労を隠しきれない様子。
「大丈夫。もうすぐそこが安全地帯みたいだから」
やがて辿り着いたのは、ちょっと広めの空間だ。
安全地帯というのは魔物が出現しない特殊な一帯のことで、危険なダンジョンにあって、パーティが休息を取るのに最適な場所だった。
このダンジョンには5階ごとに安全地帯が存在しているらしく、そこが駆け出し冒険者にも優しいポイントだ。
アーゼルにあった『岩窟迷宮』も、同程度のレベルのダンジョンではあったけれど、こっちは安全地帯が10階ごとだったからね。
「ふぅ、まさにダンジョンオアシスだな! 心置きなく休むことができるぜ!」
「せっかく休む気満々のところ悪いけど、もっと手っ取り早く疲れを取り除いてあげるね」
「っ!? か、身体から疲れが吹き飛んでった!? な、何をしたんだ!?」
「これも生活魔法だよ。〈気分転換〉っていうんだけど」
「明らかに気分の問題じゃないでしょ……」
本来なら名前の通り気持ちをリフレッシュさせるだけの生活魔法なのだけれど、使用する魔力量を増やすことで身体の疲労を癒すこともできるのだ。
「汗を掻いたり返り血を浴びたりしてるから、ついでに〈汚れ落とし〉も使っておくね」
さらに身体も奇麗にしてから、
「それじゃあ腹ごしらえも兼ねて、こいつの味見といこうか」
亜空間からニワトリスの肉を取り出す。
選んだのは脂が少なくてヘルシーな胸肉だ。
「もしかしてここで料理する気なのか?」
「うん。料理は生活魔法が得意な分野の一つだからね。〈加熱〉っと」
ニワトリスの胸肉に、なるべく低温でじっくりと加熱していく。
こうすることで、単純に火で焼くよりもずっと柔らかくなるのだ。
一方で香ばしさを出すため、表面は〈火起こし〉による火で炙った。
「「「じゅるり……」」」
美味しそうなにおいが周囲に広がり、アルクたちが思わず涎を零す。
「せっかくだし、まずはこのまま食べてみようよ」
「「「いただきます!」」」
待ちきれないとばかりに、取り分けた胸肉に被りつく三人。
「う、美味い! しかも外はパリッとしてるのに、中はめちゃくちゃ柔らかいぞ!?」
「胸肉って、もっとパサパサしてるものよね……? ニワトリスの肉だからかしら? 普通の鶏肉とそう変わらないって聞いてたけど……」
「も、もしかしてライルさんの調理のお陰でしょうか……?」
僕も食べてみたけれど、確かに悪くない味だ。
魔物の肉なのにクセもぜんぜんなく、鶏肉と何の遜色もない。
「じゃあ今度は〈味付け〉」
〈味付け〉を使えば、こちらのイメージに応じて料理に味が付与される。
ピリッと辛いマスタード、それに甘い蜂蜜を合わせた味にしてみた。
「「「うまああああああああああああああいっ!?」」」
三人そろって絶叫する。
「急に信じられないくらい美味しくなったぞ!?」
「今度は何をしたの!?」
「〈味付け〉っていう生活魔法を使ったんだ。蜂蜜とマスタードをイメージしたんだけど、気に入ってくれたみたいでよかった」
用意した胸肉をあっという間に食べ尽くしてしまうと、アルクが威勢よく宣言した。
「お陰でやる気が漲ってきたぜ! 疲れも取れて腹ごしらえもできた! このまま地下6階に挑戦しちまおう!」
「それはやめた方がいいよ」
「それはやめた方がいいわ」
「それはやめた方がいいと思います……」
全員が一斉に止める。
「なんでだ!?」
「ダンジョン攻略は勢いでやるものじゃないから。今回が初めてなんだし、地下5階で十分。余裕をもって帰るのがダンジョン攻略のセオリーだよ」
「ライルの言う通りよ。この先に挑戦するのは、地下5階までの探索に十分慣れてからにするべきだわ」
「あ、あたしも、今日のところは地下5階までにしておくべきだと思います……」
全員から猛反発を受けて、これにはさすがのアルクも反論の余地もなく素直に頷いたのだった。
「わ、分かったよ……けど、そ、そんなにキツい口調で言わなくてもいいだろ……」