作品タイトル不明
第4話 獣くさいのよね
受付嬢のレイラさんに紹介されたそのパーティは、Dランク冒険者ばかりの男二人と女一人で構成されていた。
全員が十代後半で、若手の有力パーティなのだという。
「……お前がライルか?」
「はい、そうです! サポート要員になれるパーティを探していました!」
「成人してる割には小せぇな? まぁいい。オレはゲイン。このパーティのリーダーだ」
そのパーティのリーダー、ゲインさんはかなり大柄な人だった。
背負っているのは僕よりも大きそうな剣で、恐らく戦士だろう。
「で、こいつがメーテアだ。オレの恋人兼ヒーラーだ」
そのゲインさんが紹介してくれたのは、背が高くてすごくスタイルの良い美人さんだった。
ヒーラーということは白魔法の才能があるのだろう。
彼女は僕を品定めするように、
「あなたが生活魔法使い? ちゃんと〈水生成〉と〈湯沸かし〉は使えるんでしょうね? あたしはダンジョンでも必ずお風呂に入りたいの。もちろん〈汚れ落とし〉も必須よ? だって汚れたままの服になんて着替えたくないもの」
「はい、どれも使えます!」
幸いどれもこの街に来る途中に習得することができた魔法だ。
きっと彼女の期待に応えられるだろう。
「くはははっ、見ての通り、うちの姫様は我儘でよォ! それに応えるためにわざわざ生活魔法使いを探してたってわけだぜ!」
大声を響かせ、シーフ風のメンバーが笑う。
「うるさいわね、ギル。あんたは黙ってなさい」
メーテアさんが不快げに吐き捨てるも、ギルさんはどこ吹く風で、
「ちなみにおれはギルだ。メーテアとは同じ村出身の幼馴染でよォ、冒険者を目指して一緒に出てきたときは良い雰囲気になったこともあったんだが、ご覧の通りゲインに取られちまったってわけだ。まぁゲインはこう見えて貴族のお坊ちゃんだからな。このまま上手くゴールまでいければ将来は安泰。おれなんか見向きもしなくなるのは当然だろう」
「……いい加減、黙らないとあんたのその口、縫い付けてやるわよ?」
「おっと、怖い怖い」
どうやらゲインさんも貴族の子女らしい。
ただ、僕と違って、勘当されて冒険者になったわけではなさそうである。
貴族の中には、将来家督を継ぐ子女を見定めたり、あえて厳しい環境に置いて強くしたりするために、冒険者をやらせるようなところもあると聞いたことがあった。
恐らくゲインさんの家もそのタイプなのだろう。
「はっ、男の嫉妬は見苦しいぜ? お前は単に男としての魅力でオレに負けたんだよ、ギル。だよな?」
「ええ、そうよ。ゲインは強いし男前だし、何よりいつもあたしの期待に応えてくれるわ。ギルなんかとは比べ物にもならないわよ」
互いに見つめ合い、良い雰囲気になるゲインさんとメーテアさん。
「……はいはい、どうせおれは非モテですよー」
ギルさんは肩をすくめた。
僕はそんな三人の後ろに、もう一人いることに気がつく。
くすんだ灰色の髪の少女だ。
腰に剣を下げているので冒険者みたいだけど、みすぼらしい衣服の上に、ボロボロの革の鎧を身に着けているだけだった。
あるべき場所に耳が付いておらず、代わりに頭の上に動物のような三角耳があった。
「っと、忘れるところだったぜ。こいつは戦闘奴隷のシルアだ。見ての通り獣人でな、そこそこ戦力になるから、うちの実家から連れてきたんだ」
獣人。
人間に限りなく近い種族ながら獣の要素を有しており、亜人の一種とされている。
世界には獣人が築いた国もあるそうだけれど、人間の国々に住む獣人も多い。
ただ、総じてその地位は低く、奴隷として生きている獣人が少なくなかった。
年齢はたぶん僕と同じくらいか、少し上といった程度だろう。
なのによく見ると身体は傷だらけで、過酷な環境を生きてきたことが伺える。
「えっと、よろしくね?」
「……」
声をかけてみたけれど、彼女はちらりと僕を見ただけで、すぐに興味を失ったように顔を背けてしまった。
「はっ、相変わらず愛想のねぇやつだぜ。こいつ、ほとんど喋らねぇんだよ」
「くはははっ、半分獣だからよ、単にまともに人間の言葉を喋れないだけだろォ!」
ゲインさんが不快そうに鼻を鳴らし、ギルさんが見下したように笑う。
さらにメーテアさんは顔を顰めると、吐き捨てたのだった。
「この子、獣くさいのよね。あんまり近づかないでほしいわ」
翌日、僕はゲインたちさんのパーティと共に、アーゼルの外に来ていた。
目的は、街から徒歩で僅か三十分ほどのところにあるダンジョンだ。
街道から少し逸れた場所にある、巨大な一枚岩の足元にその入り口があった。
アーゼルの冒険者の多くが挑戦するダンジョンらしく、入り口の周囲には露店などもあって冒険者たちで賑わっている。
「ここは初級から中級冒険者向けのダンジョンで、地下20階まである。オレたちは今、ここの地下13階あたりを探索しているんだが、そこに辿り着くだけでもほぼ一日がかりだ。探索時間を十分に取ろうとすると、どうしてもダンジョンに泊まり込むしかねぇってわけだ」
「泊りなのにお風呂に入れないなんて、どう考えてもあり得ないわ」
「……つーわけで、ライル、お前の出番ってわけだ。今回の探索は二泊三日を予定している。もちろん荷物も運んでもらうぜ」
そう言って、ゲインさんが大きなバックパックを寄こしてくる。
下手すると僕の身体よりも大きくて、少し持ち上げようとしてみたけど重くてビクともしなかった。
「おいおい、こんなおチビにこんなデカいもん背負えるのかよ?」
ギルさんが鼻で笑う。
「はっ、これくらいはやってもらわねぇと困るだろ。生活魔法使いなんて、戦闘じゃ何の役にも立たねぇわけだからな。できなかったらまた他の生活魔法使いを探すだけだ」
まだ僕は正式にパーティの一員になったわけではなかった。
ゲインさんが言うように、今回のダンジョン探索は試用期間のようなもので、もし役に立たないと判断されたらそこで関係は終了となってしまうのだ。
……あの魔法を覚えていてよかったね。
僕は内心で安堵しつつ、
「これくらいなら大丈夫です」
「ほう? 見かけによらず体力に自信があるみてぇだな」
「いえ、〈小物収納〉を使うので」
僕は〈小物収納〉魔法で、そのバックパックを丸ごと消してみせた。
「「「……は?」」」