作品タイトル不明
第12話 見かけによらず容赦ない性格なのね
復讐を終えて戻ってきたシルアに、僕は訊いた。
「いいの、それくらいで? 殺さないにしても、手足の一本や二本を斬り落としておけば、冒険者も続けられなくなるだろうし、ずっと苦しめておけるのに」
「……あなた、見かけによらず容赦ない性格なのね」
「そうかな?」
他にも新しく覚えた〈目覚まし〉の魔法を使い、十分ごとに必ず目が覚めるようにするという手もある。
「何その新手の拷問」
「睡眠不足が続くと精神に異常をきたすって聞くしねっ」
「楽しそうに言うの怖いんだけど」
シルアに引かれてしまったので、やめておくことにした。
良い感じの復讐だと思ったんだけどなぁ。
三人はまだ気絶している。
このままだとそのうち魔物に襲われてしまうけど、ゲインさんが「うーん」と唸っていてもうすぐ目を覚ましそうなので大丈夫だろう。たぶん。
というわけでこの場に放置することにした。
僕は亜空間に入っていた彼らの荷物を取り出し、その辺に適当に放り投げておく。
「もちろんこれはお返ししますね。……今回の探索で手に入れた素材は持っていきますけど」
〈歩行補助〉を使い、僕とシルアは一気に地上まで戻った。
その足ですぐに冒険者ギルドに向かうと、受付嬢のレイラさんに今回の一件を洗いざらい報告した。
戦闘奴隷であるシルアを無下に扱っていたこと、そして違法である隷属魔法をかけていたこと。
特に隷属魔法の件は発覚すると罪に問われるだろうけれど、黙っておいてやる義理はないからね。
「なんて酷いことを! ええ、それは明らかに奴隷法に違反してるわ! もちろん冒険者ギルドとしても捨て置ける話じゃないわね!」
レイラさんが憤慨する。
どうやら冒険者ギルドもすぐに動いてくれるみたいだ。
「ごめんね、ライルくん? 私があのパーティを紹介しちゃったばかりに……」
「いえ、レイラさんは悪くないですよ。僕のために探してくださったわけですし」
ちなみに洗いざらいとはいっても、さすがにボスを倒したこととか、二人だけでゲインさんたちを痛めつけたことなんかは伏せておいた。
丸ごと信じてもらえなくなるからやめた方がいいと、シルアに指摘されたからだけど。
「それで、自由の身になったわけだけど、シルアはこれからどうするの?」
「そうね。一度、故郷の様子を見に戻ろうかしら」
「故郷? そこに戻れば家族がいるの?」
「分からないわ。なんたって、十年くらい前に滅びちゃってるもの」
「え」
詳しく聞いてみると、シルアは、この国の北方、獣人が統治している小さな都市国家で生まれたらしい。
だけど、とある魔物災害によって都市が壊滅。
住民だった獣人の大部分は都市を捨てて逃げ、散り散りになってしまったという。
シルアもまたその災害のときに、家族と離れ離れになったそうだ。
さらに災難だったのが、当時まだ幼かったシルアは、災害から逃れた避難先で人間の悪徳商人に掴まって奴隷にされてしまう。
「それでゲインさんの実家に売られたのか……」
「そういうことね」
人には言えないような辛い思いを何度も味わってきたはずだけど、シルアは平然と頷く。
彼女と比較したら、実家を追放されたくらいどうということもないなと思ってしまう。
「その都市は今どうなってるの?」
「少しずつ復興が進められてるって噂は聞いたけど……詳しいことは分からないわ」
僕はすぐに提案した。
「じゃあ今から一緒に見に行ってみよう」
「……一緒に?」
「うん。だって僕の〈歩行補助〉があった方が早いでしょ?」
「そうだけど……いいの?」
「いいよ。どのみちすぐには新しいパーティなんて見つからないだろうしね」
僕が目指すはパーティのサポート要員。
パーティがいなければ何も始まらない。
「火力役をやりなさいよ」
「あはは、また変な冗談言ってる」
こうして僕はひとまず冒険者としての活動を中断し――始まったばかりだったけど――シルアの故郷に行くことにしたのだった。
「……あなた、お人好しにも程があるでしょ」
「そうかな?」
「その代わり敵認定した相手には容赦ないみたいだけど」
〈歩行補助〉の魔法は、ダンジョンの外での移動でも大いに役に立った。
徒歩での移動だったにもかかわらず、途中で何度も馬車を追い抜いてしまったほどだ。
「お先に~」
「ひひーんっ!?」
馬にも驚かれた。
「しかも朝からずっと歩いてるのに、ほとんど疲れないなんて」
「シルアと違って体力のない僕はちょっと疲れてきたけどね……日も暮れかけてきたし、今日のところはこの辺で野宿しようよ」
夜は野宿だ。
北へ向かうこの辺りは割と寂れた地域なので、宿場町も少ない。
もちろん魔物もいるけど、ダンジョンの魔物に比べたら、この辺りの魔物はあまり警戒する必要もないレベルだという。
その辺から適当に木の枝を集めてくると、〈火起こし〉で火をつける。
それからテントを張って、食事の準備を始めた。
ちなみにダンジョンで手に入れた素材を売って得たお金で、あらかじめ色々と調達して〈小物収納〉に保存しておいたのだ。
「当たり前のように野宿でも温かいご飯を食べられるなんて」
「食べ物は大事だからね。テントと一緒にたくさん買い込んでおいたんだ」
そうして食事を終えると、お風呂代わりに〈汚れ落とし〉で汗や砂などの汚れを取り除く。
ついでに〈気分転換〉も使えば、すっきり爽快になって心地よい眠気が呼び起こされる。
「じゃあ僕は外で寝るよ」
「何で?」
「テント一張りしかないし……」
「……別に気にしないわ」
「でも……ギルさんに襲われそうになったっていうし……」
「まさか、あなたも襲う気?」
「そんなことしないよ!」
「だったら大丈夫でしょ」
一緒に寝ることになった。
しかもそれほど大きくないテントなので、横になるとどうしても身体が触れ合ってしまう。
こんな狭いテントで年頃の女の子と二人きり……でも、その緊張を疲労が勝っていた。
あっという間に猛烈な眠気が押し寄せてくる。
「…………私が襲っちゃうかもしれないけどね?」
何か小さく呟く声が聞こえた気がしたけど、僕は一気に眠りの底へと沈み込んでいった。