軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8章 エルフの里へ  19

翌日朝早く食事を済ますと、再びエウロンへ向けて街道を進んでいった。ホーフェナ女史には最初から背負子に乗ってもらって、なるべく早足で歩くようにした。

「ソウシ殿はまたわらわが命を狙われると思っておるのか?」

歩きながらシズナ嬢が言う。

「可能性としてはあると思っています。今回の事件の裏が私の想像通りなら、シズナさんの無実が正式に決まるまでは気を抜かない方がいいでしょう」

「なるほどのう……。面倒なたくらみに巻き込まれたものじゃ」

「でもそんなたくらみに気付くソウシさんはすごいと思いますよ。私は薬を作ることと患者さんを治すことで手一杯で、なにも考える余裕はありませんでしたし」

背中でホーフェナ女史が言う。

「人にはそれぞれ自分の役割がありますからね。私では疫病は治せませんし、それでいいんですよ。そもそも私の考えだって合っているかどうかはわかりませんから」

「でも実際に暗殺は行われそうになったわけでしょう? その時点でもうソウシさんの考えが正しいってことだと思いますけど」

「正直なところ正しくない方がありがたい気もするんですけどね。正しいということは、この先ひと 悶着(もんちゃく) あるはずですし」

そのひと悶着を避けるために早足で歩いているわけだが、まあ『悪運』スキル氏が仕事をしそうな気配はあるんだよな。

なにしろ少し前から一定の距離で後をついてくる人間がいるのである。冒険者の早足にわざわざついてくる旅人などいるはずがない。なにか 用(・) 事(・) がある人間に決まっている。

「ねえソウシ、この先ちょっと変なニオイがする。この間のゴーレムっぽいニオイ」

ラーニの言葉はほぼ予想通りのものだった。なぜならシズナ嬢のパーティメンバーだったあの3人の持ち物からは、ゴーレムの召喚に関連するアイテムはなにも見つからなかったのだ。つまり召喚した人間が別にいるというのはほぼ確定だった。

「スフェーニア、後ろの人間の動向に注意してくれ。何かしてくるようなら攻撃していい。フレイは『後光』の用意を。そのあとホーフェナさんとシズナさんに『結界』を頼む」

「分かりました」

「はいソウシさま」

「なんじゃ、そんなにわらわを亡き者にしたいのかのう」

「そのようですね。シズナさんはホーフェナさんと一緒にいてください」

そのまま街道をすこし歩いていくと、軽い地響きとともに脇の土が大きく盛り上がった。

地面の中から這い上がるようにして現れたのはやはり死体を継ぎ合わせたような『フレッシュゴーレム』、だが今回はワニ型ではなく人型だ。背は5メートルくらいか、安定をとるためか下半身が太めなので動きは鈍そうだが、その分腕が長いので間合には注意が必要だろう。

「『後光』行きます」

フレイニルの言葉とともに光があたりを包む。いつも思うが初手で弱体化できるのは大きすぎるな。

スフェーニアは後ろの人間に注意しているので今回は魔法の援護はない。

「ラーニは隙を見て末端に攻撃。つかまったらヤバそうだから深追いはするな」

「了解っ!」

俺は前に出てゴーレムと正対した。どうくるかと思っていると、まずは太い足で蹴り飛ばしにきた。

俺はその重機の一撃のような蹴りを盾で正面から受け止める。『安定』『不動』『鋼幹』スキルのおかげで1メートルほど後ろに下がる程度で済む。それでも衝撃はかなりのもので、さすがに反撃までは難しい。

「こっちもらいっ!」

しかしその機に乗じてラーニが『疾駆』『跳躍』で飛び上がり、ゴーレムの腕を炎の剣で切り裂く。さすがに丸太のような腕は斬り落とすまでにはいかないが、ゴーレムが吠えたのでいいダメージになっているはずだ。

ゴーレムは反対の腕でラーニを殴ろうとするが、すでに着地しているラーニはバックステップでかわす。

俺はその隙にゴーレムの足元にダッシュする。『俊敏+1』のアクセサリの効果もあり踏み込みが明らかに速い。大木のように太い足めがけてメイスを叩きつけると、ひざ下の部分が半分ほど弾け飛ぶ。

グモオォォッ!

唸り声と共にゴーレムが腕を俺に叩きつける。盾を掲げてそれを受け止めるが、さすがに膝をつく。

「これでっ!」

ラーニが飛び上がり、先ほど斬った部分に再度攻撃、今度は腕を斬り落とすことに成功した。

しかしゴーレムはそれを待っていたかのように反対の腕を伸ばす。ラーニはまだ空中だが……。

「甘いって!」

『空間蹴り』を使って二段ジャンプし、一気に距離をとるラーニ。なるほど先の戦いの経験が活きているようだ。

俺は体勢を立て直し、ゴーレムの足をもう一度強打する。ひざ下が完全に粉砕され、ゴーレムはバランスを崩して倒れ伏した。

うつ伏せになったゴーレムはそれでも俺の方に手を伸ばしてきたが、その腕はメイスの一撃で爆散する。見るとラーニがゴーレムの背に乗って炎の剣を脳天に突き刺すところだった。

目や鼻や口から炎を吹き出したゴーレムはしかしそれでもしばらくはあがいていたが、不意に糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

「ふぅ~、やったね!」

「ああ、いい一撃だった。空中の回避もすごかったな」

「えへへっ、同じ失敗はしないようにしないとね」

今回の金星のラーニを褒めながらフレイニルたち4人のところに戻る。

「ふうむ、これがDランクの冒険者かえ。まるで動きが違うのう。わらわなどまだ足元にも及ばぬようじゃ」

シズナ嬢が感心したふうに言うが、多分俺たちはDランクとしては破格に強いはずである。とはいえさすがにそれを口にするのは元日本人としては 憚(はばか) られる。

「ええまあ……。それよりスフェーニア、そっちはどうだ?」

スフェーニアは遠くを睨んでいたが、声をかけると息を吐いてこちらを向いた。

「後ろからついて来ていた人間はゴーレムが倒れたのを見て去ったようです」

「そうか……、関係者なのは間違いなさそうだな。どんな人間かは見えたか?」

「細身の男のようには見えました。ただ顔は隠していて、それ以上は……」

「あの距離じゃそれが見えただけでも大したものだろう。とりあえずこれで諦めてくれればいいが」

「エウロンに入って、シズナさんの身柄を子爵に渡してしまえばさすがにもう手出しはしないでしょう。子爵のところにはアナトリアもいますし」

「そうだな。ゴーレムの死骸を始末したらなるべく先に進もう」

巨大ゴーレムから魔石を取り出し、死骸を集めてスフェーニアの魔法で焼いてもらう。最後にフレイニルの『浄化』で仕上げをして俺たちはその場を後にした。

しかしあれほど巨大なゴーレムを使役できる人間がいるというのは驚きである。だがそんな人間がいたとして無名ということがあるのだろうか。

もし名の知れた人間だとするなら、任務はなんとしてでも果たそうとするのではないだろうか……そのような 危惧(きぐ) をよそにその後は何事もなく、翌昼頃にエウロンの町へとたどり着いたのであった。