軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8章 エルフの里へ  05

「ソウシさん、気づいていらっしゃいますか?」

スフェーニア嬢が前を向いたまま、声を低めて言う。

「ええ、先ほどから様子をうかがっているようですね」

「え、盗賊がいるの? ニオイはしないんだけど……ニオイ消しを使ってるのかな」

ラーニが鼻をヒクヒクさせる。フレイニルが不安そうな顔を向けてくるので、俺は「いつものとおりやれば大丈夫」と言っておく。

「私降りますね。もし襲ってきたらよろしくお願いします」

ホーフェナ女史が 背負子(しょいこ) から降りたので、俺は背負子を『アイテムボックス』にしまう。

さてどう出るのだろうか。こちらが冒険者である以上道を 塞(ふさ) いで脅しをかけてくるなんて悠長なことはしないだろう。罠を仕掛けるか、遠距離から攻撃をしてくるか……人間相手はモンスターより厄介なところがあるのは分かっている。

「あ、ソウシ、変なニオイがする。何かの薬かも」

ラーニの言葉で合点がいく。なるほどそう来たか。

「フレイ、『浄化』、『結界』同時にいけるか?」

「大丈夫です、行きます」

『二重魔法』を見せるのは避けたいが、そう言っていられる場合ではない。

「スフェーニアさん止まってください。全員フレイが魔法を使うまで息を止めて」

「魔法行きます」

10秒ほどでフレイニルが魔法を展開する。『浄化』が毒を消すのは分かっている。『結界』があれば新たな毒が入ってくることもないだろう。ラーニが鼻をヒクヒクさせて頷く。

「ん、ニオイが消えたから大丈夫みたい。多分麻痺させる薬かな。昔奴隷狩りが使ってたのと似てる気がする」

「そうか。ラーニとフレイのおかげで防げそうだな」

俺は2人を褒めながら気配のあったほうに視線を向ける。スフェーニア嬢も矢をつがえる構えをしつつ同じ方向を見ている。

「薬を使ってくるとは思いませんでした。恐らく組織的な賊ですね。冒険者崩れもいるでしょう。警戒してください」

「分かりました。もし戦闘になったらフレイは無理のない範囲でホーフェナさんと自分を守るように『結界』を張ってくれ」

「はいソウシさま。常に張れるようにしておきます」

『神属性』での弱体化も考えたが、人間相手では逆効果になる可能性もありそうだ。さすがにフレイニルにはまだ人を殺めさせるのは早いだろうから守りに徹してもらおう。

しばらく待っていると20人くらいの人間が近づいてくるのが『気配感知』でわかる。森の中に3人残して森からぞろぞろと男たちが出てくるのが見えた。全員が軽鎧を着ているところから見て確かにただの山賊という感じではない。

ぱっと見先頭の3人は冒険者崩れだ。3人ともこれ見よがしに常人では持てないような大振りの剣を持っている。後ろに残っているのは狙撃担当だろうか。

「スフェーニアさん、森の3人は狙えますか?」

「問題ありません。向こうの素性が分かり次第優先して始末します」

「よろしくお願いします。接近戦は自分とラーニに任せてください」

初の対人戦だがスキルのせいか不思議と落ち着いている。法的に賊がモンスターと同じ扱いなのはギルドで確認済みだ。あとは冒険者崩れがどの程度の連中かだが、見た感じDランクはなさそうに見える。

「ラーニ、先頭の3人を優先だ。わかるな?」

「うん、冒険者崩れでしょ。弱そうだから大丈夫」

俺たちが構えて待っていると、賊は20メートルほどに近づいてきたところで歩みを止めた。俺たちが麻痺していないことに気づいたのだろう。

「おい、薬が効いてないんじゃねえか?」

「だな。麻痺耐性を持ってやがったか……。しかし全員耐性もちってことはないだろうよ」

「じゃあブラフか? どっちにしろおっさん以外は上玉しかいねえ。しかも一人はハイエルフ、逃がす手はねえな」

「見たところ冒険者は4人か。まあガキは弱そうだからなんとかなんだろ」

などと勝手なことを言いながら包囲網をしいて近づいてくる。

「貴様らは何者か? それ以上近寄るなら射る」

スフェーニア嬢の誰何に、連中はニヤニヤ笑いながら答えた。

「見りゃ分かんだろ。いわゆる奴隷狩りって奴だ。黙って捕まりゃそのおっさん以外は生かしておいてやるぜ? こっちも商売なんでな」

「違法な行為に手を染める賊ということか。ならば加減は無用と判断する」

いきなりスフェーニア嬢が矢を放った。その矢は光の軌跡を残して奥の森に吸い込まれた。同時に奥の気配が一つ消える。

「このクソエルフやりやがった! 全員攻撃っ!」

先頭の3人が突っ込んでくる。俺は盾を構えて前に出る。相手の出方を見るか……いや、先制でぶっ飛ばした方が早い。

瞬時に判断し、俺はメイスを横薙ぎに振った。まだ届く間合ではないがもちろん『衝撃波』を使っている。

「がぁっ!?」

先頭の3人を含めて5~6人がまとめて吹き飛ぶ。もちろん相応のダメージを負った状態でだ。当然ながら一般人の賊はこれだけで絶命しているだろう。

「もらいっ!」

ラーニが『疾駆』で一瞬のうちに冒険者崩れ二人の首を刈る。まったく容赦のない攻撃に、彼女が確かに対人戦に慣れていることがわかる。

もう一人は何とか立ち上がろうとしたが、直後に脳天に俺のメイスを食らって終わりだ。どんなスキルを持っているか分からない以上手加減などできようもない。

なおこの瞬間に3本目の光の矢が走り、森の狙撃手も全滅したようだ。

「一瞬でっ!? 逃げろっ」

残りの賊は全員普通の人間だ、当然逃げの一択だろう。

「逃がさないでください」

その背にスフェーニア嬢の冷たい声がかかる。同時に矢が一人の背中に突き刺さる。

「了解っ!」

ラーニが『疾駆』で残りの賊の首を刈る。賊を相手にした場合一人も逃がさないのが鉄則らしいが、さすがに逃げる相手を叩くのは俺にはまだ抵抗がある。情けないがいつかは慣れるだろう。

終わってみればいつもの通り一瞬だ。振り返るとホーフェナ女史は目をぱちくりさせて驚いた顔をしていた。ただその傍らに立つフレイニルはさすがに顔色が悪い。人を殺す殺されるなんて場面はこの世界だってそこまで当たり前の光景ではないはずだ。特にフレイニルはもと公爵家令嬢で教会の聖女だ。今の戦闘を見て受けた衝撃の大きさは計り知れない。

「フレイ、もう大丈夫だ」

俺が声をかけるとフレイニルは結界を解いて俺のところに小走りに近寄ってきた。さすがに何もしないわけにはいかないので頭をなでてやると、耐えきれなかったのかぎゅっと抱き着いてきた。

「フレイちゃんはこういうのは初めてだったのね。それは驚くわよねえ」

ホーフェナ女史も近づいてきて、優しい目でフレイニルを見守っている。

賊の死体を調べていたスフェーニア嬢とラーニが戻ってくる。

「やはり麻痺毒の粉末を持っていました。捕縛用の道具も 一揃(ひとそろ) え所持していましたので、奴隷狩りというのは嘘ではなかったようです」

「雰囲気的に昔集落に来た連中に似てるかも。どこかの大きな組織の連中よね」

「そんな連中がうろうろしてるって、この国じゃ普通にあることなのか?」

俺の疑問にはスフェーニア嬢が答えた。

「このあたりは国境も近いですから。むしろこの国自体は獣人やエルフを普通に扱っている方です」

「それじゃこいつらは別の国から出張って来たってことですか?」

「そうですね。隣国のメカリナンは奴隷制で国体を維持していると言われていますし、彼らの言葉もそちらの 訛(なま) りが多少ありましたね」

「だれか生かして口を割らせるべきでしたかね」

「トカゲの尻尾きりで終わるだけですから、全滅させた方がいいのです」

スフェーニア嬢は眉一つ動かさない。このあたりでは公然の秘密、みたいな扱いなんだろうか。しかしこんなところで微妙過ぎる国際問題に触れることになるとは、寝耳に水もいいところだ。

「ところでソウシさんはとても珍しいスキルをお持ちのようですね。しかも冒険者崩れをまとめて吹き飛ばすなど、とてもDランクとは思えません。それにフレイさんもラーニさんもEランクとは到底思えないお力をお持ちのようです。私とても興味をひかれています」

「前にも言いましたがいくつかの幸運に恵まれているようでして……。スフェーニアさんの弓の腕前も素晴らしいですね。目視すら難しい的を射抜くとは」

「そちらに向いたスキルをいくつか持っていますので。しかし上位のモンスターを仕留めるにはもの足りないのです。今のままではCランク止まりでしょうね」

スフェーニア嬢の美しい顔に少し 翳(かげ) りがさす。なるほどやはり得られるスキルによってランクの上限が決まるというのは当然あるんだな。

「ところで賊の死体はどう処理するのがいいんでしょうか? 集めて燃やすのですか?」

「時間が惜しいですが放置はできませんからそうするしかないでしょうね。可能なら冒険者崩れだけでもギルドに持ち込んで検分をしてもらわなければならないのですが」

「使えそうなものだけはぎ取っちゃう?」

ラーニが気軽そうにそんなことを付け足すと、フレイニルが複雑そうな顔をした。

「多分死体なら『アイテムボックス』に入ると思うので全部運んでしまいましょう。里についてから折を見て処分します」

俺がそう言うとスフェーニア嬢は目を見開いた。

「この数が全部運べるのですか? あまりに重いと運べないと聞きますが」

「恐らく大丈夫です」

と言ってもあまり気は進まないのだが、俺はすべての死体を『アイテムボックス』に放り込んだ。胴と頭に別れているのが面倒だな……などとちょっとだけ思ってしまったことに我ながら驚く。前世にいた時には直視すらできなかった光景のはずなんだが。

全部入れるとさすがに体力が持っていかれる感じはするが、峠を越えるくらいは問題なさそうだ。むしろいいトレーニングになりそうなくらいである。

俺が平気な顔をして戻ると、スフェーニア嬢は少し意味ありげな目をして言った。

「ソウシさんのパーティは今の時点でCランク以上ある気がします。確かにラーニさんの言う通り力を求めているパーティなんですね」

いや経験も浅いしさすがにC以上ということはないと思うんだが……。

ラーニが隠れてサムズアップをしていたのは言うまでもない。