軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 45

翌日の朝、俺たちはエウロンの町の冒険者ギルドを訪れていた。

今日は帝国へ出発する日なのだが、町の外に出る前に通りかかるので、思うところあって寄ってみたのである。

エウロンの町のギルドはマリアネの元の職場であり、俺も冒険者になりたての時に世話になった場所でもある。

ここに寄った目的は、もちろん知り合いの冒険者パーティ『銀輪』の面々に会うことだ。ジールによると『銀輪』は非常に熱心に活動をしていて、かなりの確率で朝のギルドにいるらしい。

ギルドのロビーには20人ほどの冒険者がいたが、その中に『銀輪』の四人の姿もあった。茶髪の青年剣士カイム、魔法使い姿の少女メリベ、槍使いで長身の女性ラナン、メイスを使う青年回復師ラベルト。彼らは揃って掲示板を眺めていた。

「すまんカイム、ちょっといいか?」

俺が声を掛けると、カイムは「あん?」と言いながら振り向いて、俺の顔を見て目を丸くした。

「なんだ、おっさんじゃん! またこっちに来たのか」

「バリウス子爵に用事があってな。すぐにまた出るんだが、その前にカイムたちに挨拶をしとこうと思って声を掛けた。『銀輪』の皆も元気そうでなによりだ」

「ああ、まあ、色々あって今はDランク、もうすぐCランクってところまでは来たぜ」

「トルソンの町を出てから早かったな」

「おっさんの広めたトレーニングのおかげもあるけどな。あとジールの兄貴が子爵様に仕えることになったんで、その代わりをやれとか無茶なことも言われてんだ」

「ジールもカイムたちには期待していると言っていた。ランク以上に、人に信用される冒険者になっているというのが大きいと思うぞ」

「へへっ、まあそこはな。しかしおっさんもなんかすげえみたいじゃねえか……って、メリベ、なんだよ」

話をしているカイムの脇腹を、メリベが杖で強打した。というか、最初からずっとつついていたのだが、カイムが無視して話をしていたのである。

「カイム! もうソウシさんはオクノ侯爵様なんだから、もう少し丁寧な言葉を使いなさいよ!」

「いいだろ別に。おっさんもその方が気が楽だろ、なあ」

「そうだな。畏まられるのは好きじゃない。メリベもラナンもラベルトも、昔みたいに接してくれるとありがたい」

「だってよ。ほら、メリベも普通に喋れよ」

「私は前から丁寧な言葉使ってたでしょう。あ、オクノ侯爵様……じゃなくて、ソウシさん、お久しぶりです。活躍は噂でずっとお聞きしてます」

ペコリと頭を下げてから、メリベはおずおずと話しかけてきた。まあ彼女は以前からこんな感じではあるので、俺が侯爵だからといって畏まっているわけでもないだろう。

「メリベも久しぶりだな。どんな噂が流れてるかについては詳しくは聞かないが、まあ俺は俺で色々やってるよ。メリベもカイムについて行くのは大変だろう」

「そうなんです。最近ちょっと調子いいからって気を抜いているので、ソウシさんからも注意してください。慣れたダンジョンでも危険だって」

「それはメリベの言う通りだな。冒険者がダンジョンやモンスターを甘く見るのだけは勧められないぞ」

「チェッ、前はおっさんが素人だったのによ。しかしまあ、おっさん確かにAランクって雰囲気になっちまってるなあ。まあ他のAランク冒険者はアナトリアしか見たことないけどよ」

カイムが拗ねたような顔をしていると、代わりにラナンとラベルトも話しかけてきた。

「今、『ソールの導き』のことを知らない冒険者はいないだろう。私もそのリーダーと一緒に戦ったという事実に驚いているところだ」

「ホントにそうっす。ソウシさんは絶対大物になると思ってましたけど、想像を遥かに超えすぎっすね。あ、でも、自分もこれくらいのメイスは持てるようになりましたよ」

ラベルトが持ち上げたメイスは、以前彼が使っていたものより倍くらいの大きさになっていた。これならCランクモンスターの頭も粉砕できるだろう。

「今の状況には自分でもまだ慣れてないくらいだ。それと俺も、『銀輪』の皆とゴブリン退治に行ったことは忘れられない思い出だ。あれが俺の原点だからな」

「そう言ってもらえるのは嬉しく思う。我々もソウシさんの言葉があってここまで来れた。ソウシさんには感謝している」

「ほんとそうっす。あの時背中を押してくれたのは嬉しかったすね。ああやって認めてくれる人間っていなかったんすよ」

「そんなこともあったな。でもそれは、皆がもっと上に行きたいと思っているのを感じたからだからな。結局は皆が選んだ道だ」

確かに俺は、地元でくすぶっている『銀輪』の背中を押すようなことは言った気がする。しかし人間は結局、他人のアドバイスで動くわけではないことを俺はよく知っている。彼らが今Cランク目前まで成長したのは、彼ら自身がそうありたいと願っていたからにほかならない。

「なんか真面目な話してんなあ。それよりおっさん、なんかすごいゴツい武器持ってんだって? よかったら見せてくれよ」

少し湿っぽい感じになってしまったが、カイムが上手くまぜっかえしてくれたので助かった。俺もそんな真面目な話をしに来たわけでもない。

「構わないぞ。これだ」

『アイテムボックス』から『万物を均すもの』を取り出すと、ロビーにいた冒険者全員が驚きの声を上げた。まあ総オリハルコン製の巨大メイスなど、誰が見てもそういう反応になるだろう。

「なんだこりゃ!? いやこれ……片手で持てるもんじゃないだろ」

「す、すごいです。しかもこれ全部オリハルコンですよね!?」

「凄まじい力を感じるな。まさに伝説に出てくるような武具だ」

「こんなのどうやったら持てるようになるんすか!?」

その後彼らにメンバーを紹介したりして、少しだけ親交を温めた。

そのメンバー紹介だけでカイムたちは何度驚いたのかわからないほどだったが、結局女性陣は女性陣であっという間に仲良くなっていた。

別れ際、カイムが俺に小声で、

「なあおっさん、それで結局あの中で誰が本命なんだよ?」

と、かなりクリティカルな質問をしてきた。

俺が答えあぐねて頭を掻いていると、メリベがやってきてカイムの脇腹を杖でつついた。

「カイム、貴族様は奥さん何人も持てるの。そうですよね、ソウシさん?」

「あ、ああ、そうらしいな」

俺を見てくるメリベは訳知り顔をしていたので、女性陣と話して 察(・) し(・) た(・) のかもしれない。このあたりの女性同士の交感能力は男には理解できないところがある。

ともかく、そのやりとりでカイムも同じく察したのか、「はぁ~」と溜息をついた。

「2、3人なら羨ましいとか言えたんだろうけどなあ。まあ、おっさんにはがんばってくれとしか言いようがねえわ」

「……まあ、なるようになるさ。そういうカイムの方はどうなんだ?」

「俺は、まあ、なあ」

そこでメリベの方を見るカイムと、「なに言ってるの」と赤くなりながら杖で脇腹をつつくメリベ。

「なるほど、それはいい話だな、心から応援する」

自分のことは棚に上げておいてなんだが、若者のそういう話を聞くとホッとする。

俺はそれとなくカイムに、「今後大きなモンスターの動きがあるのは間違いないから鍛えておいた方がいい」と伝えておき、『銀輪』に別れを告げた。