軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 43

子爵邸の練兵場には、すでに多くの人間が見物に来ていた。

『ソールの導き』のメンバー全員はもちろん、バリウスや家令ローダン氏をはじめ数名の家臣や上位の兵士たち、さらには新たにバリウス家に仕えることになった冒険者パーティ『フォーチュナー』の四人もいた。

『フォーチュナー』は茶髪の青年剣士ジールをリーダーに、斥候の女獣人ケーニヒ、盾役の大男カズン、そして魔導師の美女レイラの四人組で、以前はいかにも冒険者といったバラバラの格好をしていたが、今日はデザインが統一された上等な兵士服を着ていた。

俺がアナトリアに続いて練兵場へ入って行く。

ジールが手を軽く挙げて遠目に挨拶をしてくるので俺も手を挙げて返しておく。彼とはこの立ち合いが終わったら話をしよう。

バリウスが口元に笑みを浮かべて近づいてくる。

「ソウシ、悪いな。なんかどうしてもお前と戦いたいっていうんで許可を出しちまった」

「構わないさ。彼女も俺の力を見極めたいとかなにか理由があるんだろう。それに俺自身、初めて目にしたAランク冒険者だから彼女の力には興味がある」

「ああ、確かに最初見た高ランク冒険者ってのは記憶に残るよな。まあそれはそれとして、軽く負かしてあいつを楽にしてやってくれ。色々こじらせてるやつなんだ」

そう言って、意味深にニヤッと笑って去っていくバリウス。

まさかとは思うが、マリシエールと同じように、アナトリアが自分より強い男と……なんて言っているという話があったりするのだろうか。そんなはずはないだろうと思いつつ、練兵場の真ん中でアナトリアと向かい合う。なお、見物人は100メートルくらいは離れてもらっている。俺もアナトリアも遠距離を攻撃するスキルを持っているし、Aランク同士の戦いは色々と常識が外れた動きをすることが多いからだ。

立会人はスフェーニアが行うというので、俺たちについて来ていた。

「では、これからソウシさんとアナトリアの立ち合いを行います。勝負はは相手が負けを認めた時点で決着とします。武具の使用は自由、ただし道具類の使用は禁止、使った時点で負けとします。互いに命を取るまでのことはしないようにしてください。よろしいですね?」

「問題ない」

「かしこまりました」

「銅鑼が鳴ったら開始です。勝負がついたと判断した時にも銅鑼を鳴らしますので、以降は戦うことのないように。では」

そう言って、俺とアナトリアの顔を確認して、スフェーニアはメンバーたちの方に小走りに去って行った。

俺とアナトリアも互いに離れ、20メートルほどの距離を取る。このあたりは帝国の武闘大会と同じだが、場外がないのだけが違いか。

アナトリアが腰のミスリルの長剣を抜く。俺もあわせて、『アイテムボックス』から『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』を取り出す。

それだけでバリウスや兵士たちがざわめくのがわかった。アナトリアも美しい顔を厳しくする。

ジャアンッ!

遠くで立ち合いの開始を告げる銅鑼の音が鳴り響いた。

アナトリアは腰を落とし、長剣を両手に構えた。切っ先を地面すれすれに下げた、下段の構えというやつだ。もっとも冒険者同士の戦いは普通の剣技の差し合いなどにはほとんどならない。構えの違いなど些細な差でしかない。

俺は右に『万物を均すもの』、左に『不動不倒の城壁』を持ち、無造作に前に出る。『疾駆』など機動力が上がるスキルを持たない俺は、1対1では基本的にひたすら前に出るだけだ。

「行くぞ!」

アナトリアが鋭く叫び、その場で剣を振り抜いた。一瞬の動きだが、直後に走る光の刃『飛刃』の数は5つ。

『不動不倒の城壁』で受けた衝撃はかなり強烈で、アナトリアがAランクでも上位の実力者であることがそれだけでわかる。

「シッ!」

その時にはすでに、アナトリアは俺の左に回り込んでいた。高レベルの『疾駆』、そして放ってくる突きは『伸刃』によって切っ先が倍に伸びている。

俺は身体をひねって突きを躱しつつ、と同時に『不動不倒の城壁』を左に振って、突きごとアナトリアの細い身体を吹き飛ばそうと試みる。

だが『不動不倒の城壁』に手応えはなく、アナトリアの身体はギリギリ届かないところまで下がっていた。こちらの射程を完璧に見切るのはさすがとしか言いようがない。

俺の身体が泳いだように見えたのか、再度『飛刃』を三連放って突っ込んでくるアナトリア。俺は『万物を均すもの』を突き出して飛来する刃を槌頭で砕き、アナトリアを牽制する。瞬時に右に飛んだアナトリアは、そのまま高速で右に回り込みながら連続で『飛刃』を放ってくる。『飛刃』はラーニたちの話だと結構な体力を消費するらしい。それをこれだけ連続で放てるのだから凄まじい。

俺は『万物を均すもの』を横に薙ぎつつ、『圧潰波』を放ってすべての刃を打ち砕く。同時にアナトリアを捉えるはずだったのだが、すでに彼女の身体は空中にあった。

しかもそこから虚空を蹴ってこちらに突っ込んできて、刃を伸ばしての斬撃を空中から浴びせてくる。『跳躍』と『空間蹴り』、戦闘スタイルとしてはラーニに似たタイプか。

大上段からの斬り下ろしは『不動不倒の城壁』で弾き飛ばすが、すでにアナトリアの身体は地上にあり、そこから連続で斬撃を放ってくる。

俺はそれを、『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』で弾いていく。アナトリアの剣技は苛烈で、『伸刃』スキルによってリーチもほぼ同じだ。だが巨大な盾とメイスを持つ俺を正面から崩すのはほぼ不可能。

それは当然アナトリアも分かっているはずだ。彼女はどこかで左右、もしくは上に動かざるを得ない。

ここで必要なのは相手の選択肢を狭めることだ。そして俺にとって、それは簡単なことだった。

「チイッ!」

渾身の力を込めて『万物を均すもの』を横に振る。この距離での『圧潰波』は危険だが、アナトリアなら避けるだろう。

果たしてアナトリアは、銀の髪をなびかせて空中に飛び上がった。その動きは芸術的とさえ言えるほどだ。

俺は『翻身』を最大限に発動、『万物を均すもの』を斜め上に振り上げる。もちろん『圧潰波』も同時に放つ。これでアナトリアの次の動きはさらに限られる。なぜなら、わずかに右に《《外す》》ように『圧潰波』を放ったからだ。つまりアナトリアは、この後左に方向に『空間跳び』で飛ぶしかない。たとえそれが罠だとわかっていても。

「シィッ!」

それでもさすがなのは、逃げるという選択肢を選ばなかったことだ。アナトリアは確かに左に飛だのだが、俺の方に向かってくる軌道を選択した。しかも空中で『飛刃』を複数放ち、同時に突きまで放ってくる。

俺はそれを『不動不倒の城壁』を斜め上に掲げることで受け止めた。アナトリアはどうするか。彼女はそのまま『不動不倒の城壁』へ足をかけ、足場にして再度跳ぼうとしたようだ。マンガのようなアクロバティックな動き。

しかしそれは決定的なミスである。なぜなら、『不動不倒の城壁』は、なにも防御だけのものではないからだ。

俺は瞬間、『翻身』を発動し、『不動不倒の城壁』を前に押し出した。一瞬でトップスピードに乗る数トンのオリハルコン塊は、それだけで凄まじい凶器と化す。

ゴッ!

という鈍い音ともにアナトリアの細い身体は10メートルほど吹き飛んだ。これくらいでAランク冒険者は倒せない。俺は地面に叩きつけられたアナトリアのところまで走り、『万物を均すもの』を振り下ろした。

ジャアンッ!

槌頭をアナトリアを潰す直前で止めたところで、勝負ありの銅鑼が鳴り響いた。