軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 41

翌日、バルバドザの町の外に建てられた建屋の中に『異界の門』を設置した。

『異界』もロートレック伯爵に見てもらったが、

「人生長生きはするものじゃの、まさかこのような不思議な体験ができるとは思ってもみなかったわ。これは開通したら早速王都に行ってみたいものだのう」

と、かなり興奮気味に語っていた。

その後俺たちは『異界』を探索して王都とアルマンド公爵領に開いた門を発見し、そこまでの間に看板を立て、杭を打って道標を作っておいた。

なお、バルバドザ―王都間は『精霊』の獣形態で飛ばすと30分ほどで着く距離にあった。一般人の歩きでも半日程度しかかからない距離なので、これで相当な時間短縮が可能になるだろう。

ともかく、これでヴァーミリアン国内だけでもバルバドザと王都、そしてアルマンド公爵領がつながった。

その翌日、俺たちはバリウス子爵領へ出発した。『ガルーダモス』に乗って、懐かしの『黄昏の眷族』ザイカルと戦ったバートランの町を越え、バリウス子爵領のエウロンの町へ。

着いたのは夕方前だ。すでに話は通っているのでそのままバリウス子爵邸へと向かう。

玄関前で出迎えてくれたのはバリウス子爵と家令のローダン氏、そしてエルフの騎士アナトリアの3人である。

バリウス子爵は茶色の髪を撫でつけた、眼光鋭い体格のいい戦士然とした壮年の男だが、それもそのはず彼は元冒険者だ。ローダン氏は切れ者の雰囲気漂う美形の壮年、アナトリアは銀のロングヘアを背になびかせた、切れ長の目をしたエルフの美人である。

子爵は俺たちを見ると深々と一礼した。ロートレック伯爵の時も感じたが、この1年で彼が貴族で俺が平民という立場が完全に逆転してしまった。

「オクノ侯爵閣下、そして『ソールの導き』の皆様、我が館へようこそおいでくださいました。皆様のご来臨を心からお喜び申し上げます」

バリウス子爵が恭しくそんな挨拶をしてくるので、俺はいたたまれない気持ちになる。その感情が顔に出ていたのだろう、子爵は俺の顔を見て一瞬目を見開いた後、わずかに口元に笑みを浮かべた。

その後応接の間に案内され、一通りの事務的な話をまず済ませてしまった。もちろん『異界の門』を開く準備は万全に出来てるということで、明日作業をする話でまとまった。

その後、俺と子爵は個人的な話をするために彼の執務室へ移動した。なお、他のメンバーは各自の部屋に案内されることになっている。また、エルフであるアナトリアは、ハイエルフであるスフェーニアと積もる話があるようだ。

さて、執務室のソファに座りテーブルを挟んで対面したバリウス子爵は、応接の間の時とは違い、以前対面した時のようにリラックスした表情になっていた。

「オクノ侯爵閣下は相変わらずのようですな。しかしまさか『黄昏の眷族』や、帝国皇帝の妹殿下、さらに吸血鬼まで仲間にされるとは思ってもみませんでした」

「ああ、いや、子爵様、個人的な場では話し方は前の通りでお願いできませんか。正直落ち着かなくて苦しいのです」

「では侯爵閣下も日常の話し方でお願いできますかな。パーティではそのような言葉ではないでしょう?」

ニヤリと笑うと、子爵の顔つきは貴族ではなく元冒険者のそれになる。

「……ああ、わかりま……いや、わかった、そうさせてもらう。ただ俺は育ちがいいわけじゃないから、かなり汚い言葉になるぞ?」

「くくくっ。そりゃ冒険者ってのはそういうもんだろ。俺だって何年か冒険者やってたら貴族の言葉なんてあっという間にどっかいっちまったからな」

互いに砕けた口調になると、歳が近いせいもあり、それだけで妙なシンパシーみたいなものが生まれてくる。

「俺の場合根っからの庶民だからな。メンバーがメンバーだけに普段は多少身構えてるし、崩していいのは本当に助かる」

「贅沢な悩みだな。大陸中の美人を集めてパーティ組んでるようなもんだろ、『ソールの導き』は。それで文句言ったら全部の男敵に回すぜ?」

「文句をつけるつもりはないさ。俺には過ぎた、なんて言葉じゃまるで足りない仲間たちだ。やり過ぎてるのも自覚はあるが、『天運』スキルのせいだからもうどうにもならん」

「まあなあ。噂は色々聞いてるが、今の時点でソウシは古今東西並ぶものがない英雄だ。いや、英雄なんて言葉じゃ足りんかもしれんな。だからこそあっちこっちの有力者とつながりを作っとかなけりゃならん。そういう意味もあるんだろ、あのパーティには」

表面上笑いながら、しかし目だけ真剣な表情で子爵はそう聞いてきた。

「そういう意味」というのは当然「婚姻関係になる」という意味だろう。

「ああ、まあ……結果としてそうなるかもしれない。ただあくまでそれは結果であって、俺が望んでそうしたわけじゃない。もちろんこうなった以上、最後まで責任は取るつもりだ」

俺が答えると、子爵は目の力を弱め、口を押さえて「くくっ」と笑った。

「まあそういうことにしておくか。しかしフレイニル様を最初連れて来た時は手を出すなと釘を刺した気がするんだが、まさかこういう形になるとはなあ」

「俺も想像もしてなかったさ」

フレイニルを連れてこの子爵邸に来て、フレイニルが公爵家令嬢だと知らされた時の驚きはまだ覚えている。それが今や、フレイニルの肩書が霞むほどの女性たちを集めるパーティのリーダーになってしまった。

「しかし『異界の門』とかダンジョンを作った神様とか、正直俺の想像も及ばん話だ。だがモンスターがここの所増えてるのは確かだ。『大いなる災い』とやらはなんとなく来そうな気がするし、ソウシたちがやろうとしてることは全面的に支持するぜ」

「そう言ってもらえると助かる」

「俺も最近はダンジョンに入って鍛え直してる。地元組の冒険者もちょっと尻を叩いたりもしてる。ソウシの広めた鍛錬法はもうほとんどの冒険者が実践してる。ギルドの訓練場はいつも人がいっぱいらしいぜ」

「それはありがたいな」

「ああ、それと『フォーチュナー』はBランクになったんだが、今回俺のところに戻ってきてもらって全員ウチの騎士になってもらった」

「それは互いにいい話だな。有能な冒険者は手元においておきたいものだし、冒険者も先を考えたら身分は持っておきたいからな」

『フォーチュナー』は、俺が冒険者になりたての頃、大討伐任務を一緒やったり、リーダーのジールとは個人的に少しだけ仲が良かったりと縁のある優良な冒険者パーティだ。もとはCランクのパーティだったが、あの後Bランクに上がったというのは俺にとっても嬉しい話である。彼らならAランクも目指せそうではあるが、それよりも故郷での出世を選んだということだろう。

「ま、それはラッキーだったんだが、お陰でアナトリアがな……」

「なにかあったのか?」

アナトリアは子爵家の筆頭騎士で、もとAランク冒険者の凄腕だ。俺が初めて見たAランクでもあり、その剣技の冴えは今でも覚えている。

「いや、『フォーチュナー』が来たから自分のここでの仕事は終わった、今後はスフェーニア様にお仕えするんだと言い出し始めてな」

「ああ……彼女にとってスフェーニアは特別な存在だからな」

アナトリアはエルフだが、スフェーニアはエルフの王族・貴族に相当するハイエルフだ。たぶんアナトリアとしては、スフェーニアが冒険者になった時点で供をしたいと思っていたはずだ。ただ子爵領の最大戦力として離れるわけにもいかず、今回その悩みがようやくなくなったということだろう。

「もともとアナトリアは昔のよしみで無理を言って筆頭騎士をやってもらっていたからな。俺としてもさすがに駄目とは言えんのだ。もちろん『大いなる災い』が終わるまでは待ってもらうことになってはいるが」

「エルフにはエルフの考えもあるだろうし、止めることは難しそうだな」

「そんなわけで、いずれアナトリアはソウシのパーティに入れてもらうことになると思うが、そこは大丈夫だな?」

「ああ、俺はもちろん構わないが……」

「ならよろしく頼むわ。一応言っとくがアナトリアはフリーだぞ。怖くて誰も近づけなかったからな」

「その情報はいらなかったな」

意地悪そうにニヤけるバリウスに渋い顔をして見せつつ、今ごろアナトリア本人もスフェーニアたちにその話をしているのだろうと、内心で溜息をつくのだった。