軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 40

翌日、俺たちはロートレック伯爵領へ向けて出発した。

『ガルーダモス』は、王都の城門から南下して少しの場所で召喚した。さすがに王都内で聖獣を呼んだら大事になってしまう。

なお、『ガルーダモス』を是非見たいということで、国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、そしてマルガロット姫、ジュリオス宰相、親衛騎士3人やその他50人ほどの親衛部隊がそこまで見送りにきた。

シズナが『招精の笛』を奏でると、どこからともなく巨大な蛾である『ガルーダモス』が飛んできて、俺たちの前にふわりと着地をする。

当然、集まった国王陛下たちの驚きようは並ではなかった。マルガロット姫など、両手を胸の前で組んで祈り始めたほどである。ちなみにジュリオス宰相は興奮したように記録を取っていたが、どうも彼は記録を取ることが非常に好きな人間らしい。

「我々は伝説の誕生に立ち合っているという自覚を持たねばならないようだな」

という国王陛下の言葉に送られ、俺たちは『ガルーダモス』に乗って伯爵領へと飛び立った。

冒険者の足でも5~7日かかる距離だが、『ガルーダモス』だと半日しかかからない。

ロートレック伯爵領の領都バルバドザに来るのは四回目だ。前回来たのは、『黄昏の眷族』ゲシューラと出会って間もなくだった。

あれから王都での聖女交代の儀の騒ぎ、帝国での武闘大会、そして『黄昏の眷族』レンドゥルムとの戦い、さらにアルマンド公爵領での『冥府の燭台』の陰謀の阻止、メカリナン国から『異界』に渡って『冥府の燭台』の件に決着をつけ――と、本当に色々なことがあった。

昼前には伯爵領に着き、領主館に向かう。事前に連絡がいっているため、すぐに伯爵に面会することができた。

ロートレック伯爵は、 白髪(はくはつ) 白髯(はくぜん) の好々 爺(こうこうや) 然とした老年の男性貴族である。

王国内の現役貴族としては最年長とのことで、以前は王宮に務めていて国王陛下の知恵袋的な存在でもあったらしい。

まずは昼食を伯爵家と『ソールの導き』の全メンバーで共にして挨拶と世間話をした後、俺とドロツィッテ、マリシエールの3人で伯爵との対談に向かった。

会談の間には、ロートレック伯爵とその家宰のエイロック氏、そして護衛兼秘書となっているレイセイ、レイナンの双子姉弟がいた。

エイロック氏は丸眼鏡をかけた30代のインテリ男性で、レイセイ、レイナンは20代前半の若い元冒険者である。

俺たちが席に着くと、対面のロートレック伯爵は「ふむう……」と低く唸った。

「前に会ってから一年は経っておらぬと思うが、やはりオクノ侯爵は貴族としての貫禄が感じられるようになってきた気がするのう」

「そう言っていただけると嬉しくはあるのですが、自分自身実感がありません。ただ、幸いと言っていいのか各国の長に目通りをしている身ですし、パーティにもこちらのマリシエールやドロツィッテといった身分の高い者がいるのでそうなったのでしょう」

「ほっほっ。オクノ侯爵より身分が上の者などそうはおらぬぞ。三国の侯爵となる者などこの大陸の歴史上存在したことはなかろうしの。本来ならわしもこのような言葉で話せる人間ではないからのう」

ちなみにロートレック伯爵は最初、俺の方が爵位が上になったからといって敬語を使ってきた。だが俺自身あまりにいたたまれなくなって今まで通りの対応を強く願い出たのである。伯爵は渋っていたのだが、「私の出身国には 長幼(ちょうよう) の序という考えがありまして……」と適当なことを言ってなんとか了承してもらった。

「さて、まずは重要な件から決めてしまおうかの。件の『異界の門』についてはすでに王都のものと同じような場所を用意してあるので、いつでも設置をしてもらって構わぬ。管理や扱いについては王家に準ずると決まっておる。これはバリウス子爵領も同じじゃ」

「かしこまりました。では明日午前に設置させていただきます。明後日の朝にはバリウス子爵領へと発ちますので、よろしくお願いします」

「仕方ないとはいえせわしないのう。しかし王都からここまで半日、とすると、子爵領までは1日あれば着くということになるのかの」

「そうなると思います」

「あいわかった。そのように子爵には伝えておこう。しかし『異界回廊』とは、凡人には想像もつかないものを考えたものじゃな。そもそも、『異界』自体も信じられぬものじゃが」

「私も完全に理解しているわけではありませんが、パーティにいるライラノーラと、『異界』を管理しているミシュエーラという者の話からは、使用しても問題ないと聞いております」

「あのライラノーラ殿の存在もまるで理解できるものではないのう。『黄昏の眷族』ゲシューラ殿もそうじゃが、今は危急の時ゆえなにもないが、これで世に平穏が戻ったなら話を聞きたがる者は多いであろうな」

「そうかもしれませんね。そこはこのドロツィッテが旅の間じゅうずっと記録は取っておりますが」

ゲシューラもそうだが、ライラノーラはこの大陸、というよりこの世界の成り立ちに関わっている『神』に関する知識を持つ人間である。むしろ彼女が地上にいる間に、できる限りの知識は残さないといけない。

もちろん知識欲の塊みたいなドロツィッテがそれを考えないはずもなく、旅の間折に触れてはライラノーラから話を聞いて記録を取っていた。

俺が目配せすると、ドロツィッテは、

「そうですね、ゲシューラとライラノーラからは一通りのことは聞いて記録は残してありますし、その記録は各国の代表に渡すつもりですのでご安心ください」

と言い、伯爵はふうと息を吐き出した。

「なるほどのう。そういったことまで行っているのだから驚くべき冒険者パーティじゃのう、『ソールの導き』は」

「恐れ入ります」

その後いくつかの話をしたが、やはり地上のモンスター出現数が上がっているということで、『大いなる災い』の足音は確実に大きくなっているようだ。

出現するモンスターのランクが低いとはいえ、街道などに出てきたら冒険者の護衛なしでは致命的である。その分冒険者の動きは多くなり、伯爵の護衛であるレイセイ、レイナン姉弟も度々討伐に出ているそうだ。

会談の終わり際に、姉のレイセイに「オクノ侯爵様がお考えになったという鍛錬法を取り入れているのですが、お陰様で私たちを含め、元冒険者兵の実力が上がって助かっておりますぅ~」と言われて、少し嬉しくなった。

『異界回廊』を作って冒険者の移動が楽になっても、冒険者自身が弱ければ意味がない。あの鍛錬法自体が『大いなる災い』対策になるのだとしたら、それはそれで幸運なことである。