作品タイトル不明
24章 異界回廊 39
王都近郊における『異界の門』設置に関わるあれこれは午前で終わり、午後は王都へ戻りいくつか買い物を済ませた。
王城に戻って自分の部屋で一休みしていると、部屋の扉がノックされた。
入って来たのはフレイニルと、そしてマルガロット姫だった。
姫君が男の部屋に入るのは大丈夫なのかと思ったが、フレイニルが一緒なら大丈夫なのだろう。
「ソウシさま、少しよろしいでしょうか?」
「ああ、どうした?」
「ええと、マルガロット姉様がソウシさまにお願いがあるそうです」
「お願い? ええと、マルガロット姫殿下、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
言葉をかけると、マルガロット姫は少しだけ恥ずかしそうにしながら、おずおずと口を開いた。
「実はフレイニルに、オクノ侯爵様がとても美味しい甘味をお作りになると聞きまして……。旅立ちになられる前に、ぜひ作っていただきたいとお願いに参ったのです」
「甘味というと……フレイ、なんの話をしたんだ?」
「はい。マルガロット姉様はアイスクリームと、それからあのパフェというものにとても興味を惹かれたそうなのです」
「ああ、なるほど。では姫殿下、今日の夕食に合わせて出せるように用意をしましょう。ただ国王陛下にはお話を通しておかないといけないと思いますので、お願いしてもよろしいでしょうか?」
俺が承諾すると、マルガロット姫はぱあっと明るい顔になって、
「ありがとうございますオクノ侯爵様! すぐに父上に話を通して参ります!」
と力強く言ってその場を去ってしまった。
その勢いはフレイニルも目を白黒させるほどで、しかも15分後くらいには再びすごい勢いで部屋にやってきて、
「お父様からの許可が下りましたわ! 厨房をお使いくださいとのことです! すぐに案内いたしますわね!」
と嬉しそうに報告してきた。
フレイニルに話を聞くと、ラーニやシズナ、サクラヒメら同世代組がパフェの美味しさを大いに姫に語って聞かせたらしい。
メンバーが原因ならリーダーが責任を取るのは当然と言えなくもない。しかし王族の食卓に出す料理を部外者が作っていいのだろうか。まあフレイニルが身内にいるということもあるのだろうが……。
とりあえずスフェーニアに声をかけようとしたら、シズナが、
「それはわらわにも責任がありそうじゃのう。ならばわらわが手伝おうぞ」
と言ってきたので、代わりにシズナに手伝ってもらうことになった。そういえばハーシヴィル青年とメルドーザ女史がいれば同じように力業でアイスが作れるのではないだろうか。しかし作り方を教えると、親衛騎士である彼らが毎日アイス作りをする羽目になる気も……。難しいところである。
厨房に行くと、なんと王妃殿下がいらっしゃって、
「オクノ侯爵様にこのようなことをお願いして申し訳ありません。しかしわたくしも娘から話を聞いて、侯爵様がお作りになるという甘味に非常に興味が湧きまして……」
などと頭を下げられてしまった。
今のところ名前だけとはいえ、侯爵が直接料理をする、料理をさせるなんていうのは前代未聞に近いことだろう。となると王家としても筋を通さねばならないが、その通し方が難しいところだろう。王妃様が出てくるというのはもしかしたらいい落としどころなのかもしれない。
厨房では本職の料理人の前でアイスクリームを作ったが、魔法と耐性スキルで強引に作る様子にはやはり驚かれてしまった。
ただ、王家の厨房にはやはり冷凍庫のような魔道具があるらしい。それがあればアイスクリームは一応作れるのでレシピは有効に活用できそうだ。
パフェの盛り付けそのものは説明だけして本職に任せた。そのあたりはさすが本職、すぐにどのようなものか理解して、俺が作るより遥かに上等で見た目のいいものを作り上げた。
結局俺がやったのは、試食と夕食時の分のアイスクリームを作ることだけだった。
なお、その場で料理人たちは当然試食をしていたが、職人気質の人といった雰囲気の料理長が唸っていたのが印象に残った。
「このアイスクリームという氷菓は様々な可能性を秘めていますな。これを専門に扱う料理人がいていいくらいでしょう」
ということで、とうやらアイスクリームが彼に新たなインスピレーションを与えたらしい。
その日の晩餐は、俺は国王陛下一家との会食となったが、当然最後のデザートとしてパフェが供された。試食の時よりも洗練された豪華なそれは、本職料理人の意地を感じさせるものだった。
もちろんマルガロット姫と王妃殿下は溶けるような顔で、
「これは素晴らしい甘味ですわ。特にこのアイスクリームという氷菓は頬が落ちそうなほど美味しいです」
「オクノ侯爵様がいろいろな料理をされるといのはうかがっておりましたが、このような甘味までお作りになるとは思いませんでした。侯爵様のもとに多くの女性が集まるのもとても納得ができますわ」
などと感想を述べてくれた。
なお、国王陛下とエメロード王太子はどうかというと、女性二人がはしゃいでいるので静かに黙々と食べていた。ただ、
「オクノ侯爵、こちらは今後、当家の晩餐会などに出してもよろしいか?」
と問われるくらいだったので、気に入ったということなのだろう。
もちろん自分が考えた料理でもないので即OKを出したが、王国貴族の間にアイスクリームとパフェが広がるのは間違いなさそうだ。