作品タイトル不明
24章 異界回廊 38
『王家の礎』で得たアイテム類の報告が終わり、その午後。
俺は今後の予定を伝えるために、昼食の後メンバーを一室に集めた。
ちなみに彼女たちは午前中は休んでもらっていたが、ドロツィッテとマリアネはギルドへ顔を出していた。同じくマリシエールは王家の『通話の魔導具』で帝都にいる兄であるアイネイアース皇帝陛下に連絡を取っていて、サクラヒメも自分の故郷ザンザギルの実家とやりとりをしていたそうだ。
一方で昼近くまで寝ていたらしいラーニが、俺の話を聞いて耳をピクピクと動かした。
「明日は一日お休み。明後日は王都の近くに『異界の門』を開いて、その次の日から『精霊獣』に乗ってロートレック伯爵領とバリウス子爵領を移動して『異界の門』設置ね。いきなり3カ所も開いてオーケーなんて王様も思い切ったことを考えるわね」
それに答えたのはスフェーニアだ。
「『異界の門』の有用性を考えれば当然でしょうね。もちろん様々な危険性も認識しているでしょうが、今のところ『異界の門』自体は管理しやすい大きさですから、それは十分に対応できると考えてのことでしょう」
「冒険者が素早く動けるってだけでも大きいもんね。貴族様の移動とかも楽になるだろうし」
「有用性が認識されれば、さらに多くの『異界の門』を開きたいと考えるかもしれません」
「エルフの里は要らないの?」
「アードルフは基本的に人の行き来を制限している里ですので、導入には多くの障壁があるでしょう。それこそエルフの生き方を変える必要まで生じますから」
「そっか~。獣人族は便利なら欲しいって考えるはずだけど、ただ族長たちの意見をまとめるのは面倒そう」
「どの国もしばらくは限定的に運用してみて……という形になるでしょうし、獣人族やエルフ族はその後にゆっくりと検討すればいいでしょう。通行料なども関わる話ですし」
と言いながら、俺を見てくるスフェーニア。
『異界回廊』については『異界』そのものが俺の領地という扱いで、通行料の徴収権も王国では認められた。ただ通行料を取るとなればそのためのシステムも構築しなければならず、人も雇う必要だって出てくる。俺がどこかの領地に落ち着いて本格的に家を立ち上げたならともかく、今そんなことをしている余裕はない。
「エルフの里や獣人族の里には、依頼があればすぐに設置するさ。通行料については、俺の腹案としては、当面『異界』の年間使用料として一括で国からもらおうかと考えてる。その代わり『異界の門』の使用料についてはその国が好きにしていいという形にしようと思う」
「いいと思います。ソウシさんには『異界回廊』の通行料で儲けようという考えはないのでしょう?」
「性質として公共のものに近いからな。そういうところで欲をかくと大概は自分に跳ね返ってくるし、ただでさえ俺たちは色々と目立っているからやりすぎは避けたい」
そんな小心な慎重発言にも、フレイニルが祈りのポーズを取って反応する。
「ソウシさまの、人々のために自ら得たものを供するというお考えは素晴らしいと思います。きっと皆に感謝されることでしょう」
「単に保身を第一に考えているだけさ」
「ですが、それは私たちのことも考えてくださってのことだと思います」
「ああ、まあ、そういう考え方もあるか」
と頭を掻いていると、ラーニが
「ソウシって貴族様じゃないのにそういうのきちんと考えるわよね」
と言ってきた。すかさずスフェーニアが、
「なに言ってるのラーニ。ソウシさんはもう3国の侯爵ですよ」
と突っ込むが、俺自身「そういえばそうだった」と言いそうになったのは秘密にしておこう。
翌日、俺たちは国王陛下や宰相閣下、そして護衛の親衛騎士ハーシヴィル青年やメルドーザ女史らとともに、王都の外を訪れていた。
王都の南の城門を出て、街道を外れ東から1キロほど離れた場所で、すでに頑丈そうな石造りの建物が建てられていた。
その周囲には小屋が3つ立っていて、二十人を超える兵士が駐屯している。『異界の門』を設置する場所として、すでに整備が行き届いているという感じである。
敬礼する兵士たちの間を通って石造りの建物へと入る。中は倉庫のようにがらんどうで、床は地面が露出していた。
国王陛下も初めて訪れるらしくしきりに周りを見回していたが、やがて俺に顔を向けた。
「オクノ侯爵、この広さで問題はないだろうか?」
「はい、十分です。さっそく設置をいたしましょう」
「うむ、頼む」
いつもの通り『アイテムボックス』から巨大金属板の『異界の門発生装置』を取り出し、壁に立てかける。
その前にAランク魔石500個を置き、後はゲシューラとライラノーラに任せるだけである。
ライラノーラが魔石に右手をかざすと、手のひらから赤い糸のようなものが伸びて魔石に絡みつく。そして左手を『異界の門発生装置』を向けると、同じように赤い糸が伸びて、『異界の門発生装置』の水晶球に絡みつく。
こうすることによって、魔石は『根源』という不思議なエネルギーに変換され、『異界の門発生装置』へと充填されていくのである。
ゲシューラが『異界の門発生装置』を操作すると部屋の真ん中あたりに黒い穴が現れ、そして人が一人通れるくらいの大きさに広がっていった。
5分ほどして、部屋の中央に、縦に長い楕円形の黒い穴が完成する。
「これで設置完了です」
「ううむ、これが『異界の門』か。なんと不思議な……」
国王陛下が低く唸り、宰相閣下はその隣でノートを広げて記録を取っている。
ハーシヴィル青年は目を見開いて驚いていて、一方でメルドーザ女史は両手を前に出して指を動かしていて、すぐに『異界の門』に近づいて調べたいという顔をしていた。
「安全を確認いたします」
一応棒を出し入れして問題がないことを確認し、そして『異界の門』に入ってみる。
門の先は紫がかった空と不毛の大地、いつもの『異界』が広がっていた。
俺が戻って「問題ありません」と報告すると、国王陛下、宰相閣下、そして護衛騎士の二人が『異界』へと入ってくる。
「話には聞いていたが、これが『異界』か。確かに不思議な世界ではあるが、そこまで我々の知る土地と異なっているわけではないのだな」
「はい。ほぼ見た目通りの世界で、『悪魔』を作り出す装置以外で変わったものがあるわけではありません」
「その『悪魔』を作る装置は、人が触れられぬようになっているのだったな」
「入口は完全に閉鎖されていて、人間の手では決して触れることはできないでしょう」
「ならば問題ないな。しかし、ここを通るだけで領地間の距離が縮まるのであれば、その有用性は疑いようがないな。例えばアルマンド公爵領まではどのくらいかかりそうか」
「2日かかるかどうかというところだと思います。ただアルマンド公爵領の『異界の門』は領都から1日の距離にありますので……」
「それでも3日で着くか。驚くほどだな。しかしそうなると、最終的には馬車くらいは通れる大きさにしたいものだな。それは可能か?」
国王陛下の質問には、宰相閣下も鋭い目を俺に向けてくる。
確かにそれは重要なことである。もし輸送手段として『異界の門』を使うなら、馬車が通れる大きさにするのは必須と言える。
「ゲシューラの話では可能とのことです」
「うむ。この先『異界の門』の拡張を願う可能性は高かろうと思う。是非とも実現して欲しい」
「かしこまりました」
消去はともかく、拡張は技術的なハードルは低いらしいのでゲシューラならやってくれるだろう。いざとなれば『アイテムボックス』付きのバッグ量産という奥の手もあるが、こちらの方が社会システムに与えるインパクトは大きい気がするので気軽に言い出せない。
「この後ロートレック伯爵領、そしてバリウス子爵領にて開きます。こちらのほうで案内板などが整備できましたらお伝えしますので、すぐに試験運用を始めていただければと思います」
「うむ。とりあえず国内での移動を試しておこう。その後の国をまたいでの移動は国家間の協議が必要になるが、少なくとも『大いなる災い』が終息するまでは緩やかな運用をするつもりだ」
「よろしくお願いいたします」
その後『異界』の周囲を少し調べたが、スフェーニアの目によって遠くにある別の『異界の門』が発見された。近くに残した杭や看板によって、そこがアルマンド公爵領のものだと判明する。距離的には冒険者の足なら半日といった感じなので、普通の人間でも1日2日で着きそうだ。
新たに開いた『異界の門』周辺にも杭や看板を設置して、ここが王都の『異界の門』だと示しておく。またアルマンド公爵領『異界の門』の方向も同時に表示しておいた。
後で王都の『異界の門』とアルマンド公爵領の『異界の門』をつなぐように、一定間隔で杭を打ち込んでいけば簡易的な道になるだろう。
一応シズナの『精霊』の背中に乗って走っていき、中間地点に目立つ杭と看板を設置しておいた。これで王都-アルマンド公爵領間は迷わずに行けるはずだ。