軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 22

『王の礎』地下25階。

ここではザコとして『クラウドスライム』という、宙に浮いているスライムが出現する。見た目はスライムというより触手のないクラゲに近い。

厄介なことに、風船のような身体の中に可燃性のガスを高圧で溜め込んでいて、攻撃すると爆発することがあるらしい。しかも攻撃方法が接近してきての自爆という、常識の通じないモンスターである。

現在地上世界のことを学習中のライラノーラが、

「自爆して相手を倒しても自らの生につながらないのではないでしょうか? モンスターも一応、生物として矛盾する行動はとらないはずですのに」

と言っていたが、ゲシューラがすぐにその疑問に答えた。

「恐らくだが、種として繁殖することを優先しているのだろう。ある個体が倒した獲物を他の個体が捕食する。そうすることで種全体は増えていく。そのような形をとっているのではないか」

「なるほど、面白い生態ですわね。実際に普通の生物にも似たような習性を持つものがいるのでしょうね」

確かアリとか蜂はそんな感じだったか……? と考えていると、無数のクラウドスライムが、ふわふわを宙を漂いながらこちらに向かって動き始めた。

「ここは俺がやるか。フレイ、結界魔法を三重に張って皆を守ってくれ」

「はいソウシさま。皆さん集まってください」

フレイニルが結界魔法を張ったのを確認して、俺はクラウドスライムに『圧潰波』を放った。

不可視の衝撃波を食らったクラウドスライムは、数十数百の破裂音とともに一瞬で消えていく。一瞬硫黄のような妙な臭いが鼻をついたが、その臭いもすぐに消え去った。どうやらガスに引火することはなく、そのままガスも消えていったようである。何度か『圧潰波』を放つと、クラウドスライムの姿は通路から消え去った。

残るのはおびただしい数の魔石と、液体の入った水風船みたいな素材である。水風船の中の液体は油に近いものらしい。

「これを燃やすと回春効果がある煙が出るそうです」

という鑑定結果に、ラーニが、

「カイシュンってなに?」

と俺に聞いてくる。フレイニルとシズナ、サクラヒメなどまで俺に顔を向けてくるので、俺はすかさずマリアネを見たところ、マリアネはさっと目を逸らしてしまった。

「ええとだな……、回春っていうのは基本的には若返るという意味だな」

「えっ!? じゃあすごいアイテムじゃないこれ」

「ああ、いや、ここでの回春は多分そういう意味じゃない」

「どういうこと?」

「まあなんだ、身体の一部が若返るというか、そういうことだな」

「身体の一部……? あ~、なるほど、そういうことね」

勘のいいラーニはすぐに察したようだが、フレイニルやシズナは今一つピンときていないようだった。彼女らへの説明はラーニに任せ、俺はドロツィッテに小声で聞いた。

「貴族に需要がある素材だな?」

「そうだね。特に奥様方が秘密裏によくお買いになるものさ。でもソウシさんには必要ないかな?」

「それは答え難いな」

ドロツィッテの意味深な笑みから顔を背け、俺は素材と魔石の回収を『精霊』に頼んだ。

そういえば、帝都にある『龍の揺り籠』では強壮剤となる素材がドロップしていた。王家や帝室が管理するダンジョンからそういったものが出るというのも意味深な気がしてしまう。

地下25階のボスは、『龍の揺り籠』でも出現した『イビルアイズ』という超巨大スライムだった。

小山のような巨体、その半透明の体の中には目玉のような核が無数に浮いている。その核が強力な状態異常攻撃を仕掛けてくるのだが、前回戦った時点でその状態異常が俺に効かないことはわかっている。

今回も俺が『誘引』で攻撃をすべて引き付け、攻撃はメンバーに任せた。核を魔法で潰していくことになるが、後衛が増えていることもあって、今回は10分程で決着がついてしまった。

残ったのは大きな魔石と、虹色の宝箱である。

「『龍の揺り籠』では、この宝箱からソウシさんの鎧が出たのですわよね」

というマリシエールの言葉に、皆が唾を飲み込むのがわかった。

ラーニとシズナが二人で蓋を開けると、出てきたのは長さ2メートルに近い立派な杖だった。

細密な模様の入った柄は曇りのない白銀、その杖頭には、水晶球を天に手を掲げ、翼を広げた女神像のような飾りがついている。水晶球は拳ほどの大きさがあり、中心部は 微(かす) かに光を放っていた。

「これは見るからに並の装備品ではないね」

ドロツィッテが目を輝かせる横で、マリアネがじっと目を凝らしている。

「……『母なる星の祈り』という杖です。『聖属性魔法+2』『真聖魔法+2』『命属性魔法+2』『生命魔法+2』『神属性魔法+2』『神霊魔法+2』の効果があるそうです」

そう報告してマリアネは最後に溜息をついたが、付与される効果を考えれば、それも仕方のない恐るべき杖である。

鑑定結果を聞いたドロツィッテはしばし目を 眇(すが) めて、それから感極まったように息を吐き出した。

「なるほど、まさに聖女のための杖ということだね。しかし『神属性魔法』『神霊魔法』の効果があるのは少し恐ろしいね」

「なぜだ?」

「この杖さえ装備すれば、スキルを持たない者でもその2つの魔法が使えるということだからね。アーシュラム教会は、『神属性魔法』『神霊魔法』を使える人間を聖女と認定することにしている。ということは、この杖さえ持てば誰でも聖女になれるということになるのさ」

「なるほど。しかしそれは認定の基準を変えればいいだけだろう?」

「それはそうだね。しかし、それでも2つの魔法が使えるようになるというのは大きな話さ。だって我々はその魔法がどれほど強力なものか、身をもって知っているだろう?」

『神属性魔法』『神霊魔法』は、それぞれモンスターを弱体化する『神の後光』、パーティや仲間を強化する『神霊の猛り』という魔法が使えるようになるスキルだ。

その魔法はどちらも非常に強力なものである。装備するだけでそれが使えるというなら、確かにこの『母なる星の祈り』という杖は、単に強力な装備品という以上の意味を持つものなのかもしれない。

「とはいっても、とりあえずフレイニルが使う限りなんの問題もないだろう。その後のことまで俺たちが考えても仕方ない」

「まあそうだね。ともかくこれは、教会から預かっている『還りの鈴』や、オーズ国から預かっている『招精の笛』に近いくらいの秘宝ということだよ。まったく驚いたね」

ドロツィッテは肩をすくめておどけてみせたが、なるほど後々は教会の秘宝となってもらうべきものなのかもしれない。

しかし今は単なる装備品だ。俺は『母なる星の祈り』をフレイニルに差し出した。

「これでようやくフレイニルの杖を新しくできたな」

「ありがとうございます。この杖に見合うように、一層力を尽くしますね」

凛とした表情で、『母なる星の祈り』を手に取るフレイニル。

今までの彼女なら、手に取るのを一旦は躊躇しただろう。そこにフレイニルの成長を見ることができる。

フレイニルが手に取ると、杖頭の水晶の輝きがわずかに増したように見えた。

「これは……とても強く、そして神聖な力を感じます。素晴らしいものをありがとうございます。ソウシさま」

「俺のスキルのお陰だと思うけどな。気に入ったならよかった」

フレイニルの魔法が、俺たち『ソールの導き』にとって非常に重要であることは今さら言うまでもない。『大いなる災い』を前にしてそれがここで一気に強化されたのは、間違いなく『天運』の計らいだろう。

「でもこれって、やっぱりフレイは次の聖女って神様に認定されてるってことだよね」

とラーニが何気なく言っていたが、それもその通りなのかもしれない。

フレイニル自身は「私が何者であっても、ソウシさまについていくだけです」と相変わらずの様子だが、災いと戦う聖女がいてもいいはずだ。