軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24章 異界回廊 05

翌日、俺たちはリューシャ女王、宰相のミュエラほかメカリナン国の大臣たちに見送られてオーズ国へと出発した。

王都から国境までは、冒険者の足で2日しかかからない。

メカリナン側の関所を過ぎ、国境を隔てる『 悪魔の歯(デモンズティース) 』と呼ばれる険しい山脈の、その山間を縫うように作られた道を通り、そしてオーズ国側の関所を潜ればそこは久しぶりのオーズ国である。

故郷の豊かな耕作地地帯を前にして、オーズ国の巫女であるシズナが、

「そういえば、わらわはもうAランクの冒険者になっておるんじゃな。母上にはせめてBランクになって戻って来るよう言われたが、これで約束は果たせたかのう」

と、しみじみと感じ入ったように口にした。

彼女の母親はオーズ国のトップ、大巫女のミオナ様だ。だがシズナ自身は次期大巫女の座を妹のセイナに譲っている身である。『ソールの導き』の一員として国を出る時に、「せめてBランクになって妹セイナの補佐をできるようにせよ」と言われたらしいのだが、その約束は完全に果たしたわけである。

「え~、それじゃシズナは国に戻っちゃうの?」

ラーニの質問もそれが理由だが、シズナはすぐに首を横に振った。

「そのつもりは毛の一筋ほどもないから大丈夫じゃ。それに母上も、今となってはわらわにはソウシ殿と共にあれと言うじゃろうし」

「あ~、まあそれもそうか。ソウシだってシズナを手放す気はないんでしょ?」

「ん……っ!?」

ラーニの表情を見る限り深い意味のない問いのようだったが、俺はつい言葉に詰まってしまった。

マリシエールやスフェーニアたちは俺が一瞬うろたえた理由を察知して、プッと吹き出したりしている。

「……ま、まあ、シズナはパーティでも重要な戦力だし、俺自身としてもいて欲しいと思っているよ」

「でしょ。じゃあ問題ないね。よかったねシズナ」

「そうじゃな。しかしソウシ殿にいて欲しいなどと言われると、妙に嬉しくなるものじゃのう」

その言葉もいつものシズナらしくあっけらかんとしたものだったが、フレイニルやスフェーニアなど一部のメンバーの……いやむしろシズナ本人とゲシューラを除く全員の目がなにか言いたそうに俺に向けられた。

「ああ、いや、もちろんここにいる全員、心からいて欲しいと思っているからな。言うまでもないとは思うが」

「そうかもしれませんが、やはり時々は口に出して言っていただいた方が安心できます」

俺が慌ててフォローをすると、すかさずスフェーニアが難しい依頼を出してくる。

「まあ……善処しよう」

というダメ判定を下されそうな言葉で誤魔化したが、ゆくゆくは必要なことなのかもしれない。

さて、オーズの首都ガルオーズまでは、『ソールの導き』特製馬車をシズナの『精霊』に 牽(ひ) かせて2日の距離である。道中は別段なにもなく、2日後の昼過ぎには首都に入った。

首都ガルオーズはこの大陸に多い城塞都市ではなく、現代日本のそれに近い形態の都市である。農村が周縁にあり、都市近郊にいくと家が増え、中央部に行くにしたがって家や建物の規模が大きくなり密度も上がり、そして中央に行政府である『精霊大社』があるという具合である。

首都ガルオーズは、日本の時代劇で見る江戸の町に近い雰囲気がある。

大通りは俺たちの馬車が通っても余裕があるほどだ。行き交う人々は額にツノを持つ鬼人族がほとんどで、それ以外の種族は基本的に全員が冒険者である。

というのもオーズ国はいわゆる鎖国政策を取っていて、冒険者以外の人間が出入りすることがほとんどないからである。

俺たちは以前に宿泊した高級宿へと向かった。事前の連絡で大巫女様により手配されていると聞いている。

日本の高級温泉宿みたいな雰囲気の宿に入ると安心感を覚えるのは、前に訪れた時と同じであった。あの時の『ソールの導き』はまだ、俺とフレイニル、ラーニ、スフェーニア、マリアネ、シズナの6人だった。今回は倍近い大所帯になっているが、それを思うと今までのことが思い出される。

宿に着くと、巫女であるシズナはすぐに『精霊大社』に向かい、グランドマスターのドロツィッテと専属職員のマリアネは冒険者ギルドへと向かった。

彼女らもすっかり『ソールの導き』のブラック体質に毒されて……と言いたいところだが、これについては仕方ないところもある。

それでも夕食時には全員が揃って美味い飯を食い、そして翌日。

俺たちは全員揃って『精霊大社』へと赴いた。

オーズ国の行政府である『精霊大社』は、広大な和風庭園に囲まれた、大きな神社のような建物である。

拝殿のような中央建物の玄関前にはすでに大巫女ミオナ様とシズナの妹である巫女セイナ、それから50人を超える上位の神官たちが並んでいた。

確かに俺たち『ソールの導き』はこの国では色々あって『精霊女王様の使い』という扱いになっているのだが、こういう対応はいまだに慣れない。

王国公爵令嬢のフレイニル、帝国侯爵令嬢のサクラヒメ、帝妹のマリシエールなどは平気な顔をしていて、秘かに生まれの差を感じたりする。

「お久しぶりでございます。そしてようこそオーズ国へいらっしゃいました」

そう挨拶をして美しい所作で礼をする大巫女ミオナ様。長い黒髪が美しい鬼人族の女性で、着ている服が巫女服に似ていることもあり、和風美人といった雰囲気である。

「ようこそいらっしゃいました」

一緒に礼をするのは、黒髪を額で左右に振り分けた、まだ幼さの残る巫女セイナだ。先にも言ったが姉のシズナが次期大巫女の座を譲っているため、将来的に彼女がこのオーズ国の代表となるはずだ。

挨拶を経て、俺たちは全員が応接の間に案内された。

オーズ国では、部屋と言えば基本的に畳敷きの和室風のものである。重厚で大きなテーブルがあり、その周りには座布団が敷かれている。さすがに俺たちが全員入るとわずかに狭さを感じるが、それでもミオナ様とセイナ、それから2名の男女の神官までが入れるくらいの広さはあった。

全員が座布団の上に腰を下ろすと、まずは大巫女ミオナ様が話を始めた。

「まずは皆様の無事をお祝いいたします。このオーズ国を発ってからの皆様の行いは、冒険者ギルドを通していくつかお聞きしており、さらには昨日我が娘からも詳しく聞いたところでございまするが、いずれも我が耳と疑うほどの偉業ばかり。さすが『精霊女王様の御使い』と、セイナともども感じ入っているところでございます」

「それはお耳汚しでございました。巡り合わせの良さと、シズナ様を含めて仲間に恵まれたこと、そして多少の力に恵まれてのことですが、『精霊女王様』のお導きもあったのかもしれません」

と少しオーズ国の風習に迎合して答えると、ミオナ様は目を細めて微笑んだ。

「本当にソウシ殿の奥ゆかしさはオーズ国の理想とする英雄そのものでございまする。我が娘も役に立てたのであれば、私としても胸を撫でおろすところでございます」

「シズナ様は、もはや『ソールの導き』にはなくてはならない仲間です。すでにAランクとなったことはお聞きかと思いますが、そのAランクの中でも上位に位置する冒険者でいらっしゃいますので」

これは別に過剰な評価でもなんでもない。8体の強力な『精霊』を使役でき、自身もAランク相当の魔法を行使できるシズナは、1人でも冒険者活動ができる人間である。

その誉め言葉を聞いて、ミオナ様はミスリル製の扇子で口元を隠して嬉しそうに笑った。

「ほほほ。それは話半分とお聞きしておきましょうぞ。我が娘は、あまり褒めると高くなった鼻が戻らなくなりますゆえ」

「母上、『ソールの導き』にいればわらわの鼻など高くなることはありませぬ」

シズナがすかさずそう言うと、ミオナ様は優しい目でシズナを見返した。

「ほほ、お前がそのようなことを言えるようになったのはなにより嬉しいことかもしれんのう。それだけでもソウシ殿に預けた甲斐があったというもの。じゃが、それだけでは足らぬぞえ。巫女ならば国のためにもソウシ殿に最後まで付いていくようにせよ」

「それは理解しておりまする。きっと《《その通りになります》》ゆえ、ご心配なさらぬよう」

そうきっぱりと言い切って、それから俺にチラチラと目配せしてくるシズナ。彼女が言わんとすることはわかるが、この場ではっきりと口にすべきことではないだろう。

「……シズナ様は、最後まで『ソールの導き』にいてもらうつもりでおりますので、ご心配には及びません」

と一応ぼかして答えたが、スフェーニアやドロツィッテ、サクラヒメとマリシエールは言葉の裏に気付いたようだ。

ミオナ様もそれで満足したらしく、それ以上はなにも言わなかった。

ちなみにセイナのほうは目をキラキラと輝かせていたが、彼女のあの年齢で今の『腹芸』を察したらしい。というより、すでに母のミオナ様からはそれとなく姉シズナがどうなるかは伝えられているのだろう。