軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23章 異界と冥府の迷い姫 13

『造人器』の中枢、広大な円形の空間で、無数の『悪魔』たちとの戦いが始まった。

ラーニやカルマはすでに左右から『悪魔』の群れに飛び込んで、まずは手近な『悪魔』を叩き斬っている。

「では、私は回り込んで側方から支援します」

マリアネはそう言って、俺の横で『隠密』『隠形』スキルを発動した。その瞬間まるで忍者のように姿が消え、そしてかすかに感じられた気配も瞬時に遠方へと消えていく。

姿を消したマリアネは、目で捉えることは完全に不可能である。ただ、時々なにもない空間から、衝撃音とともに金色の太い針のようなものが射出され、複数の小型悪魔の胴を貫通して大穴を空けていく。

それはマリアネが『投擲・極』スキルによって投げたオリハルコン製の 鏢(ひょう) であり、その速度は音速を超え、恐るべき貫通弾となっている。マリアネはその瞬間だけ姿を現すが、一瞬の後再び消えてしまうため、『悪魔』たちは反撃どころか追うことすらできない。

「お主たちに恨みはないが、相容れぬのであれば容赦はできぬ。許せよ!」

ラーニ達に遅れて前に出たサクラヒメが薙刀『吹雪』を一振りする。

と、その姿が不意に三つにわかれた。『繚乱』スキルが作り出した分身だが、何度見ても不思議な光景である。

さらに『幻刃』スキルによって『吹雪』の刃を7枚に増やすと、その圧倒的手数によって次々と『悪魔』たちを切り刻んでいく。

舞を舞うが如くに戦うサクラヒメは、攻撃を続けるにつれ力が増す『舞踏』スキルによりその殲滅力を上げていく。彼女が通った後は全ての『悪魔』が切り裂かれ、細切れになって消えていくしかない。大型の悪魔も例外ではなく、薙刀の攻撃範囲の広さもあって、その姿はまさに吹き荒れる暴風である。

「これほどの敵を相手にできるのは冒険者冥利に尽きますわね。わたくしのすべての剣技をもってお相手いたしましょう」

マリシエールの剣技は攻防一体、あらゆる『悪魔』の攻撃は最初からそうなるべきだったかのように彼女から逸れ、そして全ての『悪魔』があたかもそうなる運命であったかのように、彼女の長剣『運命を囁くもの』によって両断される。

それは彼女の持つ『告運』スキルと、彼女自身の卓越した剣技が組み合わさって実現する一種の劇であろうか。

彼女の前で『悪魔』は強制的に役割を演じさせられ、斬り捨てられていく。そんな風にも見える戦いは、彼女にしか描き出せないものだろう。

「ソウシ様、あの柱の方に『根源』が集まりつつあるようです。今わたくしたちによって倒されている『悪魔』の『根源』が蓄積されているようですわ」

そう伝えてくれたのはライラノーラだ。

彼女は身にまとう赤い液体を自在に操り、『悪魔』たちを次々に串刺しにして回っている。時折宙を飛ぶような動作もするが、彼女は短時間なら空も飛べるらしい。

「『根源』が集まっているということは、新しく『悪魔』が生まれるということか?」

「そこまではわかりません。あの柱が『根源』を集めるだけの装置の可能性もあります」

「どちらにしろ放っておけばその『根源』があちこちに送られて『悪魔』が生み出されそうだな」

「そうですわね。なるべく早くあの柱を破壊したほうがよろしいでしょう」

そう話をする間に後衛陣の魔法が炸裂し、まとめて数百体の『悪魔』が消えていく。

見ると無数に思えた『悪魔』たちは、その数を大きく減らしてきていた。

立錐の余地もないほど密集していたものがまばらになり、正面に目を凝らすと、一番奥にいる2体の人型悪魔イスナーニとサラーサの姿が確認できる。

不思議なことに、『悪魔』の数が減った今になっても彼らは動くつもりがないように見えた。

しかしそれを詮索しても今は仕方がない。今いる『悪魔』を殲滅し、あの柱にたどり着く以外の選択肢は俺たちにはない。

俺はさらに前に進み、さらに2体の超巨大ツチノコを粉砕した。『悪魔』はすでに小型が200体、ツチノコ型が後2体、ケンタウロス型が4体、巨大クモ型3体にまで減っていた。俺たちにとっては、もはやいないのと同じ程度の数である。

見る間に後衛陣の魔法でクモ型が全滅し、前衛陣によってケンタウロス型も次々と撃破されていく。

俺も『圧潰波』を使うほどのこともなくなった。むしろ小型の『悪魔』は俺に近寄ってこない有様で、後衛陣の魔法で各個撃破されていく。

マリシエールとカルマ、サクラヒメが三人でツチノコ型に突撃し、見る間に首の周りの腕を斬り落とし、全身を切り刻んで倒してしまった。

俺は残り一体のツチノコ型もメンバーに任せ、魔法を引き付けながらイスナーニたちの方へと走りだした。それまで見守っていた2体が動きを見せたからだ。

イスナーニがいた場所を、金色の閃光が通り過ぎる。

マリアネが牽制のために放った鏢を、イスナーニが後ろに跳んで躱したのだ。

マリアネはそれを追おうとしたが、ほぼ同時にサラーサが放った黒い炎に阻まれて、一旦後ろの下がらざるをえなかった。

「『影獄』! やはり使えるのか」

黒い炎は、こちらの身体を拘束する効果を持つ、サラーサの持つ『影獄』というスキルである。サラーサは周囲一帯に黒い炎を撒き散らしながら、イスナーニを追って柱の方へを下がっていく。

イスナーニは何度も跳ねるように後ろに下がってスフェーニアの矢を避けながら、何か技を発動したようだ。

『クヒョヒョッ! ヤハリオクノ侯爵トソノ一行ハ恐ロシイ力ヲ持ッテイルノウ。ソノ魂ガ「冥府ノ迷イ姫」様ニヨッテ完全ナ身体ヲ得レバ、素晴ラシイ存在トナレタデアロウニ』

「その姿が完全な『人間』だと思っているのはお前たちだけだ」

『クヒョッ! ドチラガ正シイカハスグニ知レル!』

イスナーニはそこで、両腕を広げ、顔を笑いの形に変化させた。

『クヒョッ、サア出デヨ! 恨ミ合い、憎シミ合イ、奪イ合イ、殺シ合イ、ソシテ生マレ変ワリテモナオ満タサレヌ者タチノ末路!』

その口上は、イスナーニたちがアンデッドを召喚するときのものだった。

そして今、イスナーニと俺たちの間の床に、恐ろしく巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。それは何重の円と見たこともない記号と、茨のように複雑に絡み合った模様とで構成された禍々しいものである。

『異界』の空と同じ紫に発光するそれは次第に輝きを増し、周囲にえもいわれぬ重圧感を広げていった。

「ソウシさま、数えきれないほどのアンデッドの気配を感じます。先にワーヒドゥが召喚していたものに似ています!」

フレイニルが真剣な顔で駆け寄ってくる。

『悪魔』たちを完全に駆逐したラーニやマリシエールたち、遊撃に行っていたマリアネそしてスフェーニアら後衛陣も集まってきて、俺たちは魔法陣の前で再度隊伍を組みなおした。

「また『悪魔』のアンデッドを呼ぶ気かな?」

「あんなものいくら呼んだって意味ないって分かってほしいもんさね」

ラーニとカルマの言葉は俺たち誰もが思っていることだっただろう。

だがさすがに、それはイスナーニたちもをれは理解していたようだ。それはフレイニルの、

「ソウシさま、無数のアンデッドが集まる気配があります。集まって、なにか一つの……とても強大で、禍々しい何かになりつつあるようです」

という言葉で明らかになる。

「さっきの言葉を聞く限り、私たちが倒した『悪魔』たちをまとめて一つのアンデッドとして蘇らせたということかな」

「その可能性は高そうですわ。柱に集まっている『根源』もすべてあの魔法陣に流れ込んだようですので」

ドロツィッテとライラノーラの分析からすると、かなり強烈なアンデッドが出現しそうである。

つまりこれがイスナーニたちの狙いだったということだろう。ならばそれを粉砕すれば、この戦いは終わるということになる。

俺は『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』を構え直しつつ、わずかに口の端が持ち上がるのを自覚した。