軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23章 異界と冥府の迷い姫 10

『造人器』の通路は、床も壁も表面が完全に平らになっている、極めて人工的なものだった。

天井や壁には一定間隔で光る苔のようなものが付着していて灯りも必要がない。

200メートルほど進むと、前方に扉が見えてきた。

石でできたその扉も表面は平滑で、この施設が『神』によって作られたものだということを強く意識させるものであった。

「う~ん、この向こうには『悪魔』はいないっぽいかな。フレイはどう?」

「私も『悪魔』の気配は感じません。ただ、ずっと奥の方には数えきれないくらいの気配を感じます」

ラーニとフレイニルが後ろでそんな会話をしている。

たしかに俺も気配は感じないので、「開けるぞ」と口にしてから扉を押し開ける。

今まで歩いてきた通路から出ると、そこは非常に広い通路になっていた。幅は20メートル、高さは30メートルくらいありそうで、天井はかまぼこ型になっている。

やはり岩をくりぬいて作ったように見えるが、壁面や天井には梁のように凹凸が走っていて、どことなく動物の背骨と肋骨に囲まれているような印象も受ける。

通路は完全な直線なのだが、その奥は見通せないほどに長い。スフェーニアが目を凝らして見ていたが、結局どこまで続いているのかわからないようだ。

「途轍もなく長い通路のようです。さきほどの『冥府の迷い姫』は『空間が拡張されている』と言っていましたが、このこと言っていたのでしょうか?」

「そういうことなんだろうな。『空間を拡張する』なんて技術は理解できそうもないが」

俺が答えると、ゲシューラが滑るようにやってきた。

「『アイテムボックス』と同じだ。我が作る『アイテムボックス』機能のついた袋もその技術を応用している」

「ああそうか、言われてみれば身近にあったんだな。ということは、俺たちは『アイテムボックス』の中に入り込んだって感じなのか」

「不思議な体験だ。『アイテムボックス』は基本的に人間を拒む。だがここはそうではない。研究する価値がある技術だ」

尻尾で床をピタピタと叩くゲシューラと、それに同調して「それについては私も興味があるね」と口にするドロツィッテ。こんな時でもブレないのはある意味心強い。

「ともかく進もうか。しかしスフェーニアが見通せないほどの距離となると気が遠くなるな」

「ここまで広いなら馬車で行けばいいのではないかえ? 悪魔の気配もしばらくはなさそうじゃしのう」

「シズナの言う通りだな。室内だからその考えに至らなかった」

やっぱりおっさんならではの頭の固さがあるな……と反省しつつ馬車を出して四足歩行の『精霊』につなぐ。全員乗車を確認して馬車を出発させる。

「普通の道を行くより快適ですねソウシさま」

「床に凹凸がまったくないからな。『神』もまさかこの通路を馬車で走ることは想像していなかっただろう」

「『悪魔』の気配はまだ遠くにありますから、しばらくはこのまま進めそうです」

とフレイニルと会話をしながら外の景色を眺めるが、ひたすら石の壁が後ろに流れていくだけである。

しかし、数分走ると馬車が急にスピードを落とした。御者席にいるシズナが声を掛けてくる。

「ソウシ殿、通路の壁に扉が見えるのじゃが、調べてみるかのう?」

「扉?」

窓から頭を出して確認すると、確かに左右の壁に大きめの両開きの扉があった。しかもよく見ると、その先にも一定間隔で扉が並んでいる。

「扉の前で止まってくれ。調べよう」

「了解じゃ」

中枢区とやらに急ぎたいところだが、さすがに調べないわけにもいかないだろう。

馬車が停まると全員が下りてきた。俺は先行して扉の前に歩いていく。向こう側にはなんの気配もない。俺はメンバーを振り返ってうなずいてみせ、扉を左右に押し広げた。

「これは……人間用の部屋に見えるね。2~3人で生活できる居住空間といったところかな」

俺の次に入ってきたドロツィッテが、周囲を見回しつつ部屋をそう評した。

たしかにそこは、広めのワンルームマンションのような空間だった。ベッドの代わりになりそうな台が 設(しつら) えられていたり、炊事場になりとうな場所が確保されていたりと、どことなく人間が生活する空間という趣がある。

「もしかしたら『神』は、作った『人間』をここで生活させるつもりだったのかもしれないね」

「でも、こんな日の光がささない穴倉で暮らすのはまっぴら御免だねえ」

ドロツィッテの推測を聞いて、カルマが嫌そうな顔をする。

その後他のいくつかの部屋を調べたが、どこも同じ間取りの部屋であった。

「どうもドロツィッテの言うことが正しい気がするな。とするとこの広い通路は町の大通りにあたるのかもしれないな」

「『神』が作った無人の町というわけだ。なんとも言えない寂しさがあるね」

ドロツィッテの感想は俺も感じたことだが、もし『神』の作った人間がここに住んでいたとしら俺たちはどんな感想を持っていただろうか、などとも考えてしまう。

ともかく調査を終えた俺たちは、再度馬車に乗って出発をした。

その後休憩を挟んで1時間ほど進んだだろうか。地面が平らなこと、牽くのが『精霊』であること、馬車そのものもゲシューラが改造したものであることもあり、時速50キロ近くで走行していたはずだ。とすると通路の全長は50キロ弱あったということになる。どう考えても塔のあった岩山は幅や奥行きが50キロもあったとは思えないので、確かに『造人器』内は空間が拡張されているようだ。

「ソウシ殿、奥に大きな扉が見えてきたようじゃ。このまま進んでよいかえ?」

シズナの言葉に窓から顔を出す。

前方に大きな両開きの扉が見えた。この通路の半分くらいの高さがあるので、王都の城門よりも巨大な扉である。

「このまま進んでくれ」

「了解じゃ」

それから数分後、俺たちは石でできた巨大な扉の前に並んで立っていた。

ラーニが見上げながら鼻をひくひくと動かす。

「おっきな扉だね~。それにこの向こう、《《いる》》よね。しかもかなりいっぱい」

「そうですね。『悪魔』の気配とても強く感じます。さらに奥の方には『冥府の燭台』の気配もあります。それも3つすべてです」

応じるフレイニルの言葉にラーニは一瞬嫌そうな顔をした。

「3つってことは、さっきソウシが潰したワーヒドゥって奴もここに戻ってきてるってことだよね。あいつ本当に復活するんだ」

「だが『造人器』とやらを壊せば復活もできなくなるだろう。結局は全部潰せばいいだけだ」

「そうなんだけどね~。さっきみたいに硬すぎるのは勘弁だよね」

「さきほどは私も『神の後光』を使っていませんでした。使えば少しは戦いやすくなるかもしれません」

「あ~そういえば。じゃあフレイお願いね」

『神の後光』はモンスターを弱体化させる魔法だが、『悪魔』には効果が薄いことが確認されている。しかし今のフレイニルなら以前よりも効くようになっているだろう。

俺は振り返り、メンバー全員の顔を確認した。皆しっかりとした顔つきをしている。

「この先はもしかしたら『中枢』を破壊するまで戦いの連続になるかもしれない。皆覚悟を決めてくれ」

「はいソウシさま。全力を尽くします」

「わたしは大丈夫。さっさと決めちゃおう」

「問題ありません。面倒はすぐに終わらせましょう」

「まあ大抵の『悪魔』ならアタシがぶった斬るから任せてくんな」

「それがしもこの『吹雪』にて『悪魔』たちを還るべきところへ還そう」

「後衛はわたくしが全力でお守りしますので、ソウシ様は目の前の敵を排除することに専念してくださいませ」

皆の言葉は力強かった。

俺は全員の準備を確認し、そして巨大な扉を押し開いた。