作品タイトル不明
23章 異界と冥府の迷い姫 02
俺は二度目となる『異界』だが、眼前に広がる景色は前に見たものと同じものだった。
一言で言えば、荒涼とした無辺の大地。
草一つない土と砂と小石だけの平坦な大地が、空の紫に染まって360度全方位に広がっている。
見渡せば時折枯れた木が視界に入るが、ほかに目に入るものと言えば、少し離れたところに見える灰色の岩山だけ。
背後に通ってきた『異界の門』が開いていなければ、途方に暮れてしまいそうな景色である。
俺に続いて『異界』に入って来たメンバーたちも周囲を見回しては、それぞれに感想を口にしている。
「これが『異界』……なのですね。このような世界が私たちの住む場所とは別に存在するなんて信じられません」
「ふへぇ、本当になにもないね。『悪魔』すら一匹も見えないけど、もしいたらすぐにわかるわね」
「そうですね……。あの岩山が、ソウシさんの言っていた、『悪魔』を生み出す像がある場所ですか?」
スフェーニアが岩山を指さすと、全員がそちらに目を向けた。
「多分そうだな。俺はその岩山から少し離れたところに開いた『異界の門』からメカリナンに出てきたんだ。その場所と、俺たちが『異界の門』を作った遺跡の位置関係を考えると、あの岩山は俺が知っている場所であるはずだ」
「そうですか。しかし……」
スフェーニアは言葉を切って周囲を見回し始めた。彼女は『遠視』など、遠くを見るのに適したスキルを持っている。
「……似たような岩山が他にいくつかあるようです。もしかしたら、それらにも『悪魔』を生み出す像があるのでしょうか」
「大陸全土に『悪魔』が現れているという話だったから、その可能性は高そうだな。目に入った岩山は全部調べるつもりでいこう。ところでライラノーラはなにか感じるか?」
ライラノーラによれば、この『異界』は『神』が作った『実験場』であるらしい。とすれば、同じく『神』によって作られたライラノーラには見えるもの感じられるものがあるかもしれない。
と思ったのだが、ライラノーラは目をつぶって首を横に振った。
「いえ、ここからではなにも。ただ、この世界が間違いなく『神』の作ったものというのはわかりますわ。私が作る迷宮と、根底に同じ力が流れているのを感じます」
「ならば予定通り、『冥府の迷い姫』……この『異界』を管理する者に会いにいくことが目的となるな」
俺が確認をすると、ドロツィッテがうなずきつつも付け足した。
「忘れたらいけないのは、『冥府の燭台』がどういう形でこちらに来ているかだね。彼らが肉体を失って、魂だけの状態でこの『異界』に入ったというなら、なんらかの形で肉体を得ている可能性もある」
「もしかしたら『悪魔』となっているやもしれんのう」
シズナのその予想には、ラーニやサクラヒメが眉を寄せて嫌そうな顔をした。
「そういえば、『悪魔』って人間の魂が原料なんだっけ? それってすごく悪趣味だよね」
「まったくでござるな。『神』とやらがなにを考えていたのかわからぬが、到底理解できそうもない」
「まあまあ、ライラノーラの話だと『神』さんも反省してこの『異界』を閉じたって話じゃないか。あまり責めちゃ可哀想だよ」
カルマが『神』にフォローを入れるが、たしかにライラノーラによるとそういう話だった。
この『異界』は、『神』が人間を作ろうとして用意した実験場であり、人間の代わりに生まれた『悪魔』の姿を見て、『神』は己の所業を悔いてこの『異界』を閉鎖したらしい。
「ともかくここでじっとしていても仕方がない。まずはあの岩山に向かおう。言うまでもないが『悪魔』には注意をしてくれ」
俺はそう言って、岩山に向かって歩き始めた。
さて、この『異界』探索だが、まず重要なのは入ってきた『異界の門』に戻れるよう、歩いたルートに目印をつけておくことである。それに関してはミュエラに頼んで木の杭を大量に用意してもらっている。一定間隔で先が赤く塗られた木の杭を地面に打ち付けながら、俺たちは岩山に向かっていった。
岩山までは30分もかからずに着いた。標高は200メートルくらいありそうな山なのだが、周囲は完全に切り立った崖になっていて、近くで見ると山というより壁である。
見上げると亀裂のような穴がいくつも開いており、その中で特に大きな裂け目が100メートルほど上に見えた。既視感があるので、俺が入っていった洞窟につながる裂け目に間違いないだろう。
「あの裂け目が『悪魔』を生み出す像のある部屋につながっているはずだ。俺は『掌握』スキルがあったからそれを使ってこの崖を上ったが、普通に上がっていくのは難しいな」
指さしながら俺がそう言うと、ラーニが耳をピクピクさせた。
「私なら『跳躍』と『空間蹴り』で簡単に上れちゃうかな。マリアネさんもできるよね?」
「ええ。足場も多少あるようですから、問題なく上れるでしょう」
問題はそれ以外のメンバーで、100メートルの崖上りというのは相応のスキルを持たないと上位の冒険者でも簡単にできるものではない。
一応ロープなども持ってきているので時間をかければ上れなくはない。
が、そこでラーニが鼻をヒクヒクさせた。
「あ、なんかこっちから変なニオイがする。『悪魔』のニオイかな」
そのままフラフラと崖の方に歩いていくと、ラーニは地面から1メートルほど上にある、人が一人ギリギリ通れるくらいの裂け目を指さした。
「この穴からすごく濃い『悪魔』のニオイが出てくるよ。ソウシの言っていた場所につながっていたりしないかな」
「見てみよう」
その裂け目は、よく見るとなんと開きかけの扉であった。つまり人工物である。
気配を探りつつ慎重に扉を開いてみると、中は完全に人が歩ける通路になっていた。岩盤をそのままくりぬいて造られているのだが、その表面は研磨したように平滑になっている。高度な技術によるもので、『神』が作ったものであるのは間違いなさそうだ。
通路の奥を見ると、光るコケのようなものが天井や壁に張り付いているが、それも規則的に配置されている。通路はわずかに上りになっているので『悪魔』を生み出す像がある部屋につながっている可能性は高そうだ。
「いい発見をしたなラーニ」
「えへへっ。やっぱり行けそうな感じ?」
「間違いなく人工の通路だ。この通路から俺が見つけた部屋に行けるかもしれない」
俺たちのやりとりを聞いて、皆が集まってくる。
「この通路を奥に進んでみよう。最後尾はカルマに頼む」
「はいよ、任せてくんな」
皆の返事を確認して、俺は通路へと入っていった。