軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22章 異界の門への道標  22

翌日、俺は冒険者ギルドへと足を向けていた。

主な用事はギルドマスター、ダンケン氏に挨拶をするためだ。

以前、『異界』を通ってメカリナン国に辿り着いた時、俺はダンケン氏にリューシャ国王の王都脱出の手伝いを依頼されて受けたことがあった。それがきっかけで俺はミュエラに出会ったり英雄になったりしたわけだが、そういう意味では恩のある(?)相手ではある。

彼は彼で、家族を人質に取られてギルドマスターとしては背信行為を行っていたということもあったが、部下からの歎願もあってギルドマスターの職をおわれることはなかったそうだ。

急いでいたこともあってメカリナン国を出る時にはロクに挨拶もできなかったので、今日はその心残りを解消するという肚づもりである。

なお、『大いなる災い』については、ライラノーラが仲間になり、色々と新たなことも判明して焦る気持ちが生じるところではあった。ただ彼女が言う『大いなる災い』については、今少し猶予はあるらしい。

「わたくしがダンジョンと共に現れることができるのは、『大いなる災い』が起きる100日前までと決まっておりますので」

ということだったので、最低でも3カ月は時間はあるということになる。俺たち『ソールの導き』自身はフットワークが軽いので十分な時間だろう。

その間にやらなくてはならないのは『冥府の燭台』をどうにかすることだけ。そのことに関しては、今ライラノーラとゲシューラが共同で『異界の門発生装置』を始めたところである。こちらは稼働させられるかどうかだけなので、そこまで時間は要らないらしい。

なおラーニやフレイニルたちには王都観光をするよう言ってある。俺が今回かなりの褒賞金を貰っているので、多少でも地元に還元できるように好きに買い物をしてくれと頼んでおいた。といっても、パーティ単位での買い物などたかがしれてはいるが。

大通りから一本外れたところにある冒険者ギルドに入ると、100人ほどの冒険者たちが集まっている。以前来た時と違い全員が普通の冒険者である。

何人かが俺だと気付いて目を丸くし、仲間内でヒソヒソ話を始めている。とはいえ多くの者は特にこちらを見るでもないので気楽なものだ。

カウンターにはマリアネがいた。彼女とドロツィッテは朝からこちらに詰めている。

「マリアネ、お疲れ様。ギルマスのダンケンさんに会いたいんだが今在室だろうか?」

「ええ、今グランドマスターと話をしているはずです。ソウシさんならそのまま入ってもらって問題ありません」

「わかった、ありがとう」

礼を言ってギルドの奥へと入っていく。

ギルドマスターの執務室のドアをノックして名を名乗ると、向こうから扉が開いた。

出てきたのは40前後の、元冒険者らしい強面の男だ。冒険者ギルドメッケラ支部のダンケン氏である。

「おうソウシさん久しぶりだな! 待ってたぜ、まあ入ってくれ」

と大声で言ってから、急に「しまった」という顔になり、

「ああ申し訳ありません、もうオクノ侯爵閣下でしたね。どうも前の印象が強くて」

と態度を変えてきた。その変化に俺はつい吹き出してしまう。

「いえいえ、人前でなければ以前のままでお願いしますよ。侯爵とかそういう感じの人間ではないので」

「はは、そうかい。まあそれを抜きにしてもソウシさんには返しきれないほどの恩がある。妻も子も……っと、とりあえずこっちにかけてくれ」

応接セットのソファに案内されると、そこにはドロツィッテが座っていた。俺がその対面に座ると、ダンケン氏自らお茶を出して席に着く。前は水だったので、王都の復興ぶりがこういうところにも現れていて結構なことだと一人感じる。

「しかしダンケンさんがギルドマスターを続けられていて安心しましたよ。この国のために動いていた人でしたからね」

「そう言われると嬉しいが、俺としてはけじめが十分につけられてねえって感じもあってな。そこは仕事で返すつもりだが」

「ふふっ、私のもとにもダンケンを辞めさせるなって話が来たからね。ただでさえやれる人間が少ないギルドマスターをそんなに簡単に辞めさせることはしないさ」

ドロツィッテの言葉に、ダンケン氏は頭をポリポリと掻いて多少恥ずかしそうな顔をする。部下に慕われているのはいいことだと思うのだが、面と向かって言われるにはおっさんには少し照れる話か。

「しかしソウシさんにはまずはおめでとうを言わせてくれ。さすがにあれだけ活躍すりゃ当然とは思うが、全部すっ飛ばして侯爵位ってのは半端ないわな」

「他の国でもいただいているというのが大きかったようです。正直自分でもどの程度のものか掴みかねていますが、貴族様相手の話には慣れてきましたよ」

「くっくっ、やっぱりソウシさんは普通の町人あがりの冒険者ってわけじゃねえんだな。そうじゃなきゃグラマスの信頼も得られねえか。信頼どころか……いや、なんでもねえ」

ドロツィッテの視線を感じてダンケン氏は肩をすくめて言葉を止めた。

俺とドロツィッテの関係は公然の秘密というか、そんな扱いになっていそうだ。

「ところでこちらの地上に現れるモンスターの数が増えている件ですが、話はグランドマスターからお聞きになっていますか」

「ああ、さっき『大いなる災い』の話も含めて、南からなんかあるだろうって話は聞いた。ラーガンツ侯爵領のギルマスと協力していろいろやるつもりだ。ソウシさんが編み出したスキルの鍛え方もすでに冒険者たちには実践させてる。今は高ランクの冒険者をこっちに回して貰うように算段しているところだ」

「冒険者に関してはギルド経由でしかできないでしょうね。後は国の理解も必要でしょうか。『黄昏の眷族』の時は帝国でしたからそのあたりスムーズだったように思いますが……」

「メカリナンはそこまで大きな国じゃないからね。前の王のせいで冒険者も来るのを渋っている側面もある。しかも今回、オーズ国まで手を回さないといけなくなってきたから大変だよ」

普段はこういう時もおどけた表情を見せるドロツィッテだが、今日は眉間に力が入っているので今回は本当に大変なのだろう。なにしろ『黄昏の眷族』の一件で北に集めた冒険者を、今度は南に行かせるという話である。そう簡単にはいかないだろうというのは誰でもわかる。

「人の移動に関して例の方法が確立できると楽になりそうなんだがな……」

と俺が口にすると、ドロツィッテは大きくうなずいた。

「そうなんだ。アレが本当に使えるのなら、冒険者の運用コストが大幅に下がるからね。まさに世界がひっくり返る革命が起きるよ」

「ええ、なんの話なんですかいグラマス」

「悪いね、まだ一般に話ができるものではないんだ。ただ実現したら、ダンケンはソウシさんにもっと感謝をしたくなるはずさ。それどころか世界中の人間が感謝するようにだろうね」

「それと同じくらい悩む人間もいそうだけどな。恨みも持たれる可能性はある」

「ソウシさんの言うこともわかるけど、これはこの大陸の発展には必要なことだよ。ゲシューラやライラノーラたちには頑張ってもらわないと」

ドロツィッテが急に子どものように目を輝かせだしたので、ダンケン氏は毒気を抜かれたような顔で背もたれに背をあずけて息を吐き出した。グランドマスターのこの性向を彼もよく知っているのだろう。

「なんかよくわかりませんが、期待して待っておきますよ。それとソウシさん、今夜飲めねえか? いい酒屋があるんだけどよ、お礼も兼ねて俺のおごりでどうだ」

「いいですね。ごちそうになりましょう」

「よっしゃ決定だ。ドゥラック将軍とアースリンも呼んでおくわ」

「お知り合いなんですか?」

「冒険者時代にちょっとな。興味があれば夜話す」

「聞きましょう」

「おやおや、夜ソウシさんがいなくなるとメンバーが気を揉むと思うけど大丈夫かい?」

ドロツィッテのニヤニヤ笑いに合わせてダンケン氏がプッと吹き出す。

「モテる男は辛いわな。まあ飲む相手が既婚者3人だって言えば大丈夫だろ」

「そこまで尻に敷かれていませんから」

ラーニの鼻にさえ引っかからなければ問題ないし、おっさん4人の酒飲みくらいで文句も出ないだろう。

その後もう少し話をするつもりだったのだが、夜の飲み会が確定したので、俺は早々にギルドを出ることにした。

『大いなる災い』については、冒険者ギルドはこれからさらに忙しくなりそうだ。

これに関しては俺自身できることがほとんどないので、それがなんともじれったく感じるものである。