軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22章 異界の門への道標  08

メカリナン国の王城は、軍事強国の城らしくかなり厳めしい作りである。

俺は一度出入りしている場所なのでそこまでの感慨はなかったが、他のメンバーは初めての場所なので物珍しそうに周囲を見回していたりしていた。比べるものでもないが、すでに大陸一の帝都の城を知っているメンバーなので驚いている様子はなかったが。

まず案内されたのは各自が宿泊する部屋であった。各自は部屋で旅装を解いたあと、勧められた風呂で旅の垢を落とした。

案内をしてくれた家宰の話によると、今日の晩餐でリューシャ王と面会をすることになるようだ。正式な面会は明日とのことで、今日はゆっくりと休んで欲しいとのことだった。

風呂から戻り、自分に割り当てられた個室で休んでいると、気配が近づいてきて扉がノックされた。返事をすると、入って来たのは小柄な、まだ少年と言っていい見た目の人物だった。

綺麗にセットされた銀色の髪、顔立ちは以前より多少大人びたが、相変わらず少女に見紛うほどの繊細さを保っていた。

俺がベッドから立ち上がって一礼をすると、彼はニコリと屈託なく微笑んだ。

「お久しぶりですソウシさん。いえ、今はオクノ侯爵とお呼びした方がよろしいですね」

「お久しぶりになります国王陛下。この度は招聘をいただきましてありがとうございます。呼び名はお好きにしていただいて構いません。私にとって侯爵などという肩書は堅苦しいだけなので」

俺が渋い顔を作ってそう答えると、リューシャ少年改めリューシャ国王陛下はコロコロと笑いながら部屋に入ってきた。

「ふふっ、ソウシさんは変わりませんね。すみません、晩餐の前に少しお話がしたくて」

「私は構いませんが、陛下はお一人で大丈夫なのですか?」

「ソウシさんの近くが一番安全ですから」

備え付けの椅子に座ると、リューシャ国王は対面に座るように促してきた。

なお、国王の後ろからメイドが入って来て、テーブルの上にお茶を用意して出て行った。

「今回はヴァーミリアン王国側からこちらへ参りましたが、街道の様子を見ても以前とは比較にならないほど人が多くなりましたね。とてもいい国に生まれ変わったのだと感じました」

「ありがとうございます。すべてソウシさんが僕たちを助けてくれたお陰です。王都の人間で、ソウシさんのことを知らない者はいませんから」

「私はただ陛下とラーガンツ侯爵を助けただけなのですが、そんなに目立ってしまっていたのでしょうか」

「それはもう。たった一人で2枚の城壁を破り、2人の親衛隊長を無傷で下し、Aランクのモンスターを倒し、一般兵にはほとんど被害を与えず王都を陥落させた英雄ですよ? 直接見た兵士たちは口々に『鬼神』だと触れて回り、吟遊詩人はこぞってソウシさんの歌を作って歌っていますから」

「そう言われると認めざるを得ないのですが……」

「ふふっ。それにミュエラとの間柄についても怪しむ向きが多くありますからね。余計に噂にも歌にもなりやすいというものです」

そう言うリューシャ国王の表情はいたずら少年のそれで、こちらが年相応な姿なのだろうと思わずにはいられない。

なお話に出た「ミュエラ」というのはラーガンツ侯爵のファーストネームであり、彼女との間柄というのは当然男女の関係を言っているのだろう。彼女とそのような関係になった事実はないが、しかし実際それに近い話はあっただけに、俺も下手なことは言いづらかった。

「それは侯爵に申し訳ないことをしました。侯爵には後で謝っておきましょう」

「いえいえ、むしろミュエラの方が隠す気がありませんでしたから。ソウシさんが去ってからミュエラのもとには複数の縁談持ち込まれたようなのですが、全部断っていましたからね。しかも私には心に決めた者がいる、とはばかることなく口にしていましたし」

「は、はあ……」

俺はラーガンツ侯爵の、強い意思を宿した美しい瞳を思い出した。確かに彼女なら、単に政治的な意味で近づいてくる男など相手にもしないだろう。

「でも驚きましたよ。ソウシさんのパーティが女性ばかりだと聞いていましたし、どのような方がいらっしゃるのかももちろん伝え聞いてはいましたが、まさかこれほど見目麗しい方々ばかりとは思いませんでした」

「本当に偶然で集まったメンバーなのですが、今のような形になっております」

「しかも各国各部族の要人ばかりですからね。吟遊詩人たちも歌詞を大幅に改変する必要が出てくるでしょう」

おどけるように言うリューシャ国王だが、そこで大きくため息をついた。

再び俺に向けられたその目が、にわかに真剣味を帯びる。

「……実はそれだけに、我が国としてもソウシさんとは強いつながりを持っておくべきとの声も大きいのです。ソウシさんにはあまり気持ちのいいお話ではないと思いますが」

「いえ、さすがに自分の立場も理解して参りましたし、そのような話はあるだろうとメンバーとも話し合っておりました。ただ私にはまだ冒険者としてやらねばならないことがありまして、それが終わるまではどこかに身を落ち着けるつもりはないのです」

「逆に言えば、いつかはどこかに領地を構えるということになるんですね?」

「恐らくは。ただそれがどこになるかも決まってはおりません」

「いえ、それだけお聞きできれば結構ですよ。それで、ソウシさんはミュエラのことは?」

その質問はどこかで来るとは思っていたが、俺が予定していたタイミングよりだいぶ早くなってしまった。まあそれでも、すでに答えは決まっているので答えに窮することはない。

「彼女が今の自分でもよいというのなら、ラーガンツ侯爵とのお話は自分も進めるつもりはあります。しかし侯爵同士というのは国としては問題ないのでしょうか?」

「その時が来たらミュエラは当主の座を妹婿に譲るつもりのようです。それと僕としても宰相をやってくれているミュエラを今失うわけにはいかないので、ソウシさんの話はちょうどいいんですよ。だからそうですね、内々に婚約だけでもしておいていただけると僕もミュエラも助かります」

「わかりました。メンバーに相談はさせてもらいますが、お受けすることになるでしょう」

「ありがとうございます。それと褒賞の儀ではこの国からも爵位を受け取っていただくことになります。土地を差し上げることも考えたのですが、どちらの国でも受け取っていらっしゃらないようなのでそれに合わせようと思います」

「ご配慮いただきありがとうざいます」

「必要ならば言ってください。ソウシさんさえよければ、この国すべてを治めていただくことも可能ですよ」

そう言った時のリューシャ国王は笑ってはいたが、目だけは完全に本気のようにも見えた。いや、国王が本気でそんなことを言うはずはないのだが……。

ラーガンツ侯爵が宰相をしているということなので、俺にそれと似た地位を与えるということと理解したが、さすがに確認できることでもなかった。

その後も少しばかり、リューシャ国王と他愛のない話をした。

その中でも彼が多く漏らすのは、国王としての責務は相当に負荷があるということであった。

「そういう時は、ソウシさんの言葉を思い出すことにしているんですよ。これが僕の役割なんだと」

「あの時は口幅ったいことを申し上げました。しかし役に立っているなら幸いです」

「僕にとってソウシさんの存在は非常に大きいですから。こちらのおかげで温かい料理も食べられますからね」

そう言いながら、彼は右手に着けている指輪をチラリとこちらに示した。俺が役に立つだろうと思って譲った『毒耐性+3』の指輪である。

役に立っているならいいのだが、その内容が「温かい料理が食べられる」というのは俺としてはいささか胸に来るものがある。高位の貴族は毒殺を恐れるがゆえに毒見をさせるのが習わしで、そのせいで料理を温かいうちに食べられないなどということがあると聞いたことがある。

なおリューシャ国王が部屋を去る直前に、モンスターへの対処が増えたという話題が出てきいていた。今のところは対応できているが、それが財政を徐々に圧迫し始めているという話である。

今のところ俺たちは『異界の門』と『冥府の燭台』の件を優先して動いているが、地上のモンスター出現数の増加についても原因を探る必要が出てくるのだろう。

俺の『天運』スキルがどこかで大きな仕事をしてくるのだろうが、その前にできる限り調査もしておきたいところだ。