軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21章 アルマンド公爵領  08

俺は公爵に報告を始めた。

「こちらの家で見つかった例の穴なのですが、実はここにいるニールセン殿の家、つまりドルマット子爵邸の倉庫につながっていました。私がそちらの倉庫に出た時に、こちらのニールセン殿と出会ったという形になります」

「それは驚くような話ですね。ソルトラムが自分の部屋から自分の家までを穴でつなげたということですか」

「ニールセン殿はその穴の存在を知らなかったそうですので、彼の父上が通した可能性は高いと思います。もちろんそこにはなんらかの理由があるのでしょう。その点については、公爵閣下の方が心当たりがあるとは思いますが……」

「普通に考えれば、家からなにかを盗み出して運ぶということでしょうか。もしくは外部からよからぬものを導き入れるか。どちらにしてもソルトラムがなにかを企んでいたのは間違いないでしょうね」

公爵の言葉に、ニールセン青年が慌てて口を開く。

「お、お待ちください。私の父が公爵閣下に対して企むなどということはありえません。私が子供の時から、公爵家に仕えることが光栄なことだとずっと言い続けてきた父なのです」

「私も彼を疑いたくはありません。しかし実際に、私の知らないうちに彼の部屋に穴があったとなると疑わざるを得ないのです。それにオクノ侯爵、ソルトラムについてはそれだけではないのでしょう?」

俺は公爵に対してうなずき、こちらに目を向けてくるニールセン青年にも目くばせをしてから答えた。

「はい。彼の部屋から『冥府の燭台』の臭いがしたということは、ニールセン殿のご尊父はすでに『冥府の燭台』の手にかかり、奴らの操り人形にされてしまっている可能性が非常に高いと考えます」

「ちょっと待ってくれ、それは一体どういう話なんだ?」

ニールセン青年が身を乗り出してくる。

俺は『冥府の燭台』が操る例の泥人形について、青年に一通り説明をした。

彼は最初怒り顔で立ち上がりそうになったが、その途中で頭を振って座り直し、俺をじっと睨んできた。

「……要するに俺の親父はその『冥府の燭台』とかいう奴らに殺されていて、人形みたいに操られているっていうのか?」

「君にとってはつらい事実だろうが、恐らくは間違いない。同様の事例を俺たちはいくつか見てきている」

「そんなの……すぐに信じられるはずがねえ。領地に行ってすぐに確認してくるから――」

といきりたつ青年に、公爵が諭すように声を掛ける。

「やめておきなさい。今の話が本当であれば、君一人で行くのは危険だ。『冥府の燭台』はAランクのアンデッドを多数使役すると言われているのです」

「しかし、だからといって私が行かないわけには参りません!」

「気持ちは分かりますが、焦ってはなりません。オクノ侯爵、これに関してどう対応をとればよろしいでしょうか?」

「私たちがニールセン殿と共に彼の領地へと参りましょう」

「お願いしてよろしいのですか? こちらの領の面倒事になりますが」

「『冥府の燭台』については因縁がありまして、むしろこちらにお任せいただきたいのです」

俺が語気を強めて言うと公爵はうなずき、そしてニールセン青年に向き直った。

「そういうお話ですのでニールセン殿、オクノ侯爵と共にドルマット子爵領へと向かってください。君の父、ソルトラムがどのような状態であれ、君は子爵家を継ぐことになる。それは忘れてはならないよ」

「……わかりました。オクノ侯爵とともに領地へ向かい、父の状況を確かめて参ります」

ニールセン青年はそう答えると俺を顔を見て、それから自らの感情を抑えるように、深くため息をついた。

その夜遅く、俺は公爵の執務室に呼び出された。

「夜分申し訳ありません。新たにわかったことがあり、オクノ侯爵様にはお伝えしておこうと思いお呼びだていたしました」

公爵は俺を応接セットへと座らせると、そう切り出してきた。

「構いません。情報をいただけるならこちらも助かりますので」

「ならよいのですが。それで、その新たにわかったことなのですが――」

公爵はそこで大きく息を吐きだした。

その顔にはかなりの苦みが走っており、相応の良からぬことがあったのだと察せられる。

「実は調べさせたところ、当家の財産の三分の一ほどがなくなっていることが分かりました」

「それは……まさかとは思いますが……」

「ええ、オクノ侯爵様の考える通りだと思います。当家の金庫を開けられる者は限られています。そしてソルトラムもその一人でした」

「ということは、あの穴の目的は財産を持ち出すためということで間違いないということでしょうか」

「恐らくは。もしソルトラムが『冥府の燭台』に操られているというのであれば、その金の行方も明らかと思われますが、オクノ侯爵様はどう思われますか?」

「公爵閣下のお考えの通りでしょう。思えば、『冥府の燭台』が活動するとして、当然資金が必要になってきます。それをどこから調達していたのか……と考えると、今回の件も腑に落ちる気がいたします」

「やはりそうですか……。ともかく、このことについては当家の落ち度ですのでこちらで対応はいたします。オクノ侯爵は予定通り、明日子爵領へと向かってください」

「わかりました。可能ならば金の行方も探ってみましょう」

「それはお願いできると助かります」

公爵はそう言うと、背もたれに体重をあずけ、そしてなにかに気付いたようにまた上体を起こした。

「ところでオクノ侯爵は解放奴隷の行方も探っているとおっしゃっていましたね。そちらももしや『冥府の燭台』と関係があるのでしょうか?」

「ええ……そうですね。私たちとしてはそう睨んでいます」

「そうですか……。彼らの扱いも基本的にすべてソルトラムに任せていました。思えば私は多くの事を彼に任せてしまっていました。今回の件がもし本当に『冥府の燭台』によるものであれば、私のその怠慢につけこまれたのでしょうね。フレイニルのことといい、私はなんと愚かなことをしてきたのか……」

両手で顔を覆い、うなだれるアルマンド公爵。

ここ数日やりとりをしてきたが、彼は確かに悪人ではないようだ。ただその文化人的な雰囲気から考えると、家族や家や領地、そういった方に目が向いていなかったのかもしれない。

それに関しては、前世でのことを考えると、俺も決して他人事ではなかった。仕事にかまけパートナーに目を向けていなかった自分もまた、相応の報いを受けることになったのだ。

フレイニルのことを考えると決して同情はできないが、しかしいくばくかの共感が生まれることも避けえなかった。

「公爵閣下、私のような者が言うことではないかもしれませんが、過ぎたことを悔やむより、これからなにを為すかを現実的に考えることが大切と思います。今回の件に関してはこちらも解決に向けて力を尽くしますので、閣下もこの難局を乗り越えるため手を尽くされるしかないかと思います」

口幅ったいと思いつつもそんなことを口にすると、公爵は何度もうなずいて、そして顔から手をはなした。

「ええ、そうですね……。オクノ侯爵のおっしゃる通りです。今はまず、事態の収拾と全容の解明を進めることですね。金についてはソルトラムの館まで運ばれたことが分かっていますから、こちらでもその行方は探ってみましょう。それから解放奴隷の行方についても、もう一度調査をさせます」

「よろしいと思います」

と答えたところで、公爵に解放奴隷が鉱山にいるという情報を伝えるべきか否か、今決めるべきだろうと思いついた。

今までのやりとりで、公爵本人がクロという線はなさそうに思える。問題は公爵家に他に『冥府の燭台』の関係者がいるかどうかだが、これもフレイニルやラーニによってほぼいないだろうという結論に至っている。

ということは、ここで全面的に公爵を信用して協力を願ってもいい場面だろう。

「ところで閣下、こちらの領地には鉱山があるとうかがっているのですが、それは本当でしょうか」

「ええ、あります。鉄を始めとした金属は重要ですからね。そういった重要物資の生産力を維持するのも領主の務めですし」

「その鉱山と言うのは、やはりダンジョンなのでしょうか?」

「いえ違います。この領には金属を産出するダンジョンがないのです。ですから鉱石を掘り出して精製をしています。冶金の技術を存続させるのも重要なのです。あまりいいお話ではありませんが、鉱山に関しては犯罪者の収容先という意味合いもあります」

「なるほど……。実はその鉱山に、解放奴隷らしき者がいるという情報を得ているのです」

「なんと……?」

公爵はそこで眉を寄せ、そして納得したようにうなずいた。

「あり得るお話ですね。一時期ソルトラムは鉱山の人事も手掛けていました。わかりました、そちらを優先的に調べてみましょう」

「お願いいたします」

さて、これでそちらは解決するだろうか。

問題は、もし解放奴隷が鉱山にいたとして、『冥府の燭台』はなぜそんなことをしたのかという疑問が残ることだ。

もっともそれについては、先の獣人の里での、ラーニの父の一件を考えるとなんとなく見えてくる気もする。いずれにしても、おそらくはこれから向かう子爵領で判明することになるだろう。

まあ奴らが何を考えていようが、こちらはそれを叩き潰すのみなのだが。