作品タイトル不明
20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ 22
カルマの実家……虎獣人族の族長の家は、やはり木造の、かなり大きな家であった。話によると二世代三世代で住むのが当たり前な上に、獣人族の強い男は複数の妻を 娶(めと) ることも多いということで、必然的に家は大きくなるらしい。
家に塀はなく、菜園になっている庭を通って玄関まで行く。
カルマが「親父、帰ったよ!」と言いながら引き戸を開く。すると家の奥からドタドタと複数の足音がして、10~12才くらいの男女の子どもが4人走ってきた。
「カルマねーちゃんお帰り!」
「カルマねえお帰り!」
「カルマ姉さんお帰りなさい」
という感じなのでカルマの弟妹ということだろう。
「お~みんな大きくなったねえ!」
などと言いながらカルマが4人の頭をなでていると、奥から更に2人の男女が現れた。
どちらも虎獣人で、一人は身長が2メートル近い、髭面の偉丈夫、そしてもう一人はカルマをおしとやかにした感じの御夫人である。一目見てカルマの両親ということはわかった。
「おうカルマ、随分と強くなったように見えんじゃねぇか。外に出して正解だったな、くははっ」
「お帰りカルマ。家を出る時は男と見分けがつかないくらいだったのに、見違えたように綺麗になったね。もしかしてコレかい?」
御夫人がカルマに親指を立てて見せる。そういったジェスチャーは国によって意味が変わったりするものだが、会話の流れから見るとまあだいたい理解はできる。
カルマは頭を掻きながら、俺たちの方をチラッと見た。
「あ~、まあそのあたりの話はこれからするよ。それよりこちらが今アタシがパーティを組んでる『ソールの導き』の皆さ。ラーニもいるけど、リーダーはこちらのソウシさん。ちなみに帝国の侯爵様で、王国でも伯爵様っていうヤバい人だから失礼のないようにしてくれよ」
紹介されたので、前に出て一礼をする。
カルマの御尊父の目が険しく光り、御母堂の目が鋭くなったのがわかった。
「初めまして、『ソールの導き』のリーダーをしておりますソウシです。カルマさんには大変お世話になっております。本日は突然の来訪で申し訳ありませんが、大切な御息女をお預かりしている身として、挨拶にうかがいました」
侯爵などと紹介されたものの、メンバーにはいつも通りでいいと言われているので会社員的挨拶をする。
するとカルマの両親は、鋭い眼光から一転、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった。
「お、おお……? あ~、初めまして、か。俺ぁゼンダルっていうんだ。こいつの父親で虎獣人の族長なんてやってる。悪いが侯爵様が相手でも言葉が変えられねぇから勘弁してもらいてぇ」
「ああ、ええと、アタシはカルマの母親のマルザです。わざわざ挨拶に来てもらってありがとうございます。暑苦しいところですがどうぞ上がってください。お連れの方たちも、ラーニちゃんもどうぞ。狼の族長もすぐに来るからね」
どうやら別の意味で機先を制することができてしまったようだ。
カルマに苦笑いされながら、靴を脱ぎ、マルザ夫人の案内に従って家に上がる。ちなみにゲシューラは土足禁止のところに上がる時は、蛇の身体を拭きながら入ることになっている。
通されたのは20畳くらいありそうな部屋だった。板床の上に大きなテーブルがあり、藁で編んだような座布団が並んでいる。獣人族は床に直接座るスタイルのようだ。木の匂いが強い、俺としてはなんとなく落ち着く部屋である。
マルザさんとカルマの弟妹たちがお茶や果物などを持ってきて、テーブルに並べていく。お茶は麦茶に近い味がした。この世界では初めて飲むものである。
『ソールの導き』の11人と、ゼンダル氏、マルザ夫人、そしてカルマの弟妹達が席に着く。ちなみに今回、カルマとラーニは俺の両隣に座っている。
まずは『ソールの導き』の全員を一通り紹介すると、ゼンダル氏とマルザ夫人は目を丸くしたり首をかしげたりと、相当に驚いた……というか微妙に信じられないといったような態度をとった。とはいえそれは仕方ない。こちらは帝国皇帝の妹で、こちらは侯爵令嬢で、こちらはオーズの姫で、こちらは聖女候補で……なんて言われたら、俺だって眉に唾をつけてしまうだろう。
「信じられないのも無理はないけど、全部本当のことだからね。アタシもずっと一緒に旅してるから実際ヴァーミリアンの王様にも帝国の皇帝さんにも直接会ってるし。これでも色々勲章とかもらってるんだよ」
カルマがそう言って、勲章をテーブルの上に置いて見せる。ご両親はそれをマジマジと見つめて、深く息を吐きだした。カルマの弟妹は勲章を手に取ってお約束の奪い合いを始めている。
しばらく難しい顔をしていたゼンダル氏だが、お茶をグイッと飲んで、湯呑をトンとテーブルに置いた。
「さすがに娘の話を疑う気はねぇが、しかしあまりに突飛すぎてなぁ。それに『黄昏の眷族』の話も、攻めて来るって話だけで、追い返したって話はまだこっちには伝わってねぇからな。だがまぁ、カルマがAランクになったのは確かみてぇだし、そういうことがあったと聞いておくわ」
「親父にはちょっと難しい話かもしれないねぇ。まあでも、このソウシさんの力を見れば嫌でも信じるしかないと思うよ」
「あぁ、まあお連れさんたちの顔を見りゃあ、強え男だってのは嫌でもわかるけどな。ところでソウシさん自身はどういう人なんでぇ?」
「カルマとどうやって知り合ったのかも聞きたいですね」
ご両親の目がこちらに向く。
「私は元はしがない商人です。ただ『覚醒』した時に多少有利なスキルを得たようで、それで今のような形になっています。カルマさんとは、一度別パーティだった時に共に戦ったことがありまして、その後彼女のパーティが解散したということで、『ソールの導き』にスカウトしました」
「ほ~ん。カルマはソウシさんから見て強えかい?」
「ええ。大剣を扱う冒険者は何人も見ていますが、その中でも間違いなく最強の一人だと思います。ドラゴンの首も一撃で落とせるくらいですし、『ソールの導き』でも攻撃役としてとても頼りにしています」
「そうそう。アタシはAランクな上に『ドラゴンスレイヤー』で『トワイライトスレイヤー』だからねぇ。メチャクチャ強いよぉ!」
などと胸を張るカルマを、弟妹達が目を輝かせて見ている。
ゼンダル氏はその姿を見て、手を顎に当ててなにかを考え始めた。
「なんだよ親父、まさか疑ってんのかい?」
「違えよ。お前がそこまで強くなったんなら、俺の次の族長もあるんじゃねえかと思ってな」
「はぁ? 兄貴がいるんだしアタシは族長になる気はないよ。そもそもアタシはこの後ずっと、このソウシさんについて行くつもりだしねぇ」
「なに……!?」
「あらまあ!」
カルマの爆弾発言(?)に、ゼンダル氏の眼光が一気に鋭くなり、反対にマルザ夫人は両手を頬にあてて嬉しそうな顔をする。
「そりゃお前、どういう意味だ?」
「どうもこうも、言った通りの意味さね。アタシたち『ソールの導き』はこの後もあちこち旅をして、色々とヤバい連中と戦ったりしていく予定でねぇ。アタシもそれに付いていくってことだよ」
「だがずっと戦ってるわけでもあるめえ」
「いつかはどっかに落ち着くかもね。それはこのソウシさん次第だけど」
カルマが意味ありげな目を俺に向けてくる。
それを見て、マルザ夫人が目を細めて笑った。
「カルマはその時も、ソウシさんと一緒にいるつもりなのね?」
「まあそういうことさね。それがいつになって、どこになるかはわからないけどさ」
「そう。ソウシさんもそのつもりということでいいのでしょうか?」
「は、あ、ええ、私もその――」
「そこまで言うなら仕方ねぇ!」
マルザ夫人の質問に俺が答えようとした時、ゼンダル氏がいきなりテーブルをドンと叩いた。
全員が一斉にゼンダル氏の方を向く。
カルマとマルザ夫人、そしてラーニが「やっぱり」みたいな顔をしているので、俺もなんとなくゼンダル氏の次の言葉がわかってしまった。
果たしてゼンダル氏は、腕を組みながら高らかに宣言した。
「ソウシさんよ、もしカルマを欲しいってんなら俺と勝負をしてもらおうか。それが虎獣人族のやり方なもんでな!」