軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  20

その翌日、俺たちはルアールの町を発った。

宿を出る時にマリアネの両親が来て「娘をどうかよろしくお願いいたします」と深々と頭を下げてきて、一部事情を察しているメンバーにニヤニヤされたりもしたが、それ以外は何事もなく出発をすることができた。

再びシズナの使役する『精霊獣』が牽く馬車に乗っての旅である。

国境の町ガッシェラは『カオスフレアドラゴン』討伐の件もあり、領主に挨拶をしたりはしたが、トラブルらしきものが起きることはなかった。ルアールの町を出てから一週間後には国境を越え、俺たちはヴァーミリアン王国最北端の町、城塞都市カッシーナに到着することができた。

城門に入る時に衛兵に名を告げると、カッシーナの領主カルマン伯爵の元を訪れるように丁重に頼まれた。伯爵が饗応の準備をしていて、宿泊も伯爵邸でお願いしたいとのことで、それについては承諾をしつつ、迎えが来るというのはさすがに断って、俺たちは徒歩で町へと入った。

とりあえず向かうのは冒険者ギルドだ。通りを歩いていると、ドロツィッテが楽しそうに周囲を見回しながら言った。

「ヴァーミリアン王国に来るのは久しぶりだなあ。この辺りはそこまででもないけれど、やはり帝国とは文化が微妙に違うのが楽しいね」

「ドロツィッテは冒険者時代はどこまで旅をしたんだ?」

「帝国領内がほとんどさ。帝国を出たのはグランドマスターになってからと言っていいくらいだ。マリシエールもそうだろう?」

「ええ、わたくしもこれが初めての王国入りですわ。わたくしの場合は、さすがに他国へ行くのは兄が許しませんでしたから」

とマリシエールは苦笑いをする。いくら冒険者とはいえ皇帝の妹が気軽に他国に行くのは俺が考えてもマズいというのは理解できる。そもそもマリシエールは帝国としても最高戦力だったはずで、それを考えれば当たり前の話でもある。

と考えていると、ラーニが不思議そうな顔をした。

「それじゃ今回許可が出たのは『ソールの導き』に入ったからってこと?」

「そういうことになりますわね。なにしろ『ソールの導き』はすでに、この大陸の行く先を握るパーティになっていますから。むしろ私をつけるくらいでないと間に合わないと考えたのでしょう」

「ふぅん。まあウチのパーティはすごい子も揃ってるから、それにまじればマリシエールも目立たないで済むかな」

さすがにそんなことはないだろう……と心の中で突っ込みを入れているうちに、冒険者ギルドへと着いた。

ギルドには20人ほどの冒険者がいたが、俺たちが入っていくと、ほぼ全員がこちらを見て驚いた顔をした。そういう扱いを受けても仕方ないくらい有名になってしまったことを痛感する。

マリアネとドロツィッテが奥の部屋に情報収集に向かう。俺とフレイニルは掲示板に向かい、他のメンバーは近くの店で時間を潰すことにした。

掲示板は、確かに気にしてみると、前よりも地上のモンスターの討伐依頼が増えているように見える。ほとんどがDランク以下の依頼なのでまだ深刻さはないが、もしこれで上位ランクが増えてきたらと考えると少し恐ろしい。

マリアネたちが戻ってくるが、特に新しい情報はない……と思っていたら、マリアネが、

「ソウシさん宛てにギルド経由で連絡が来ていました。時期を見計らって、メカリナン国の王都、王城まで来られたし。国王リューシャ・メッケラーナ陛下からのご伝言です」

と伝えてきた。そろそろかと思っていたので驚きはないが、俺を呼べるくらいに国内が落ち着いたということなのだろうと思うと、あのリューシャ少年の苦労がしのばれた。

「わかった。もともと行くつもりだったから問題ないな。獣人の里に行き、そこからアルマンド公爵領を経由してメカリナンへ行こう。と言っても着くのはだいぶ先になるな」

「やはり南のメカリナンではモンスターの出現が多くなっているようです。それを考えると運命の導きを感じますね」

「それはメカリナンでひと悶着あるという意味にしかならないんじゃないか?」

「ふふっ、そうかもしれません」

そう笑うマリアネの表情は、以前より少し柔らかくなった気がする。

隣で見ていたドロツィッテもそれを察してかニヤッと笑っている。

俺は無意識のうちにフレイニルの頭をなでながら、ギルドの外へと出るのであった。

カルマン伯爵邸では、下にも置かない丁重なもてなしを受けた。

フィンブル・カルマン伯爵は、厳めしい顔にガッチリした体格の、いかにも元冒険者といった雰囲気の、前に会った時は砕けた物言いをする人物だった。

しかしそんな彼も、今回はさすがに「おお、オクノ侯爵閣下にマリシエール殿下、よくぞおいで下さいました。この度はカッシーナへお越し下さりありがとうございます」などと挨拶をするような状態であった。

確かに彼からすると俺は隣の大国の上位貴族であり、マリシエールはその皇帝の妹というわけで、むしろ対応するだけで胃が痛いような人間であるはずだ。

しかも今回は、フレイニルが次期聖女と目されていること、スフェーニアがハイエルフであること、サクラヒメが帝国侯爵の娘であること、シズナがオーズの姫であること、さらにはラーニとカルマが獣人族の族長の娘であることが伝わっていて、その上ドロツィッテの素性も知られていたので、カルマン伯爵の饗応ぶりは大変なものであった。

正直俺としては申し訳ない気になって仕方がないのだが、これも俺が慣れるべき事柄なのだろう。しかしなんというか、『ソールの導き』は傍迷惑なパーティになっている気がしてならない。

食事の席も大変豪華なものだった。カルマン伯爵は質実剛健な武人といった雰囲気の人間なのだが、さすがにこういった席も貴族らしくこなせるらしい。見事なテーブルマナーを見せながら、巧みに話題をふってくる。

「オクノ侯爵のご活躍はこの地はもちろん、王都にまで十分に伝わっております。『黄昏の眷族』の軍を退けるだけでなく、『黄昏の庭』の総督となられるというのは、さすがに度肝を抜かれましたがな」

「もともと『黄昏の眷族』に対するために帝国に向かったのは確かなのですが、このような形になるとは私も思っていませんでした。そういえばこちらの冒険者の多くも、一時期帝国の方に流れたのではありませんか?」

「そうですな。上位のものが多く向かったと聞いております。グランドマスターの招集がかかりましたし、この大陸全土に関わる危機でしたからな。私自身向かいたいくらいのものでした」

「残念ながらそれは許されないでしょうね。このような時こそ、領主としてはその地にいないとなりませんから」

「まことにその通りですな。オクノ侯爵も総督となられたからには、いつかは『黄昏の庭』に向かわれるつもりですかな」

「興味はありますし、メンバーにも出身者がいますから、こちらでの色々が終われば向かうつもりはあります」

「なるほど、それはオクノ侯爵の武勇伝にまた一つ逸話が加わることになりそうですな。ところでその、こちらでの色々という部分ですが、やはり例の『冥府の燭台』関係ですかな」

「ええ。それとメカリナンにも再び向かわないとならなくなりましたし、モンスターの出現数が増えているという話も気になっております」

「なるほど、オクノ侯爵としては、モンスターの動きにもなにか裏があるとお考えなのですな」

「思い過ごしならいいのですが、『彷徨する迷宮』が現れていることを考えると、楽観視はできないでしょうね」

「そうですか……。例の『悪魔』も相変わらず現れ続けておりますし、まだまだ安心はできないようです。ところでさきほどメカリナンに向かわれるとおっしゃられましたが、侯爵はカッシーナを出たらどちらへ向かわれるのですか?」

「まずは獣人の里へと行く予定です。その後アルマンド公爵領に向かいます」

と俺が答えると、そこでカルマン伯爵は微妙に眉を寄せた。

「アルマンド公爵領ですか……。実は王家から、もしオクノ侯爵がそちらに向かうなら伝えてほしいと頼まれている情報がありまして」

「どのようなものでしょう?」

「ふた月ほど前にメカリナンから獣人やエルフの奴隷を解放するという通達が届きまして、彼らはアルマンド公爵領を経由してそれぞれの土地に戻される予定だったのです。ところがいつまで経っても、その者たちが里などに帰ったという話を聞かないのだとか」

「それは妙な話ですね」

「ええ。王家ももちろん調査の者を派遣したのですが、確かに奴隷にされていた者たちはアルマンド公爵領までは来ていて、そこから各地に散っていったようなのです。しかし、その後の足取りが 杳(よう) として知れないということで、現在も調査を続けているのだそうです」

「ということは、我々にもその調査を行ってほしいということでしょうか?」

「いえ、そういうことではございません。ただ、そのような事態が起きているので、気をつけられた方がよかろうとのことでした」

ふむ、これから向かう先での話としてはかなり気になる情報である。

メカリナン……リューシャ王が約束通り奴隷を解放したというのは朗報ではあるが、それが行方不明となると嫌な予感しかない。

なにしろアルマンド公爵領は『冥府の燭台』の存在も怪しまれている土地なのだ。この二つが結びつくかどうかの判断はもちろんここでは下せないが、これも先にマリアネが言ったような『運命の導き』なら、またぞろ『悪運』改め『天運』が熱心な活動を始めたのに違いないだろう。