作品タイトル不明
20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ 19
その後もマリアネの両親とは色々と話をしてから、俺は夜遅くに宿に戻った。
マリアネは実家に泊まるということだが、俺が去ってからもいろいろと根掘り葉掘り聞かれるのだろう。
そもそもにわか侯爵とはいえ、貴族の妻になるということは、彼女の家族も貴族家と深いつながりを持つということである。恐らくそこには日本に生まれ育った俺では理解できない様々な感情や思惑が絡まるはずで、それを思うと少し身が引き締まる思いがする。
翌日からは、ここルアールの町の周りにあるダンジョンの攻略を行った。
E、D、Cのダンジョンが一つずつあるということで、EとDは1日で両方、Cは十五階層ではあったが1日で踏破した。もはやAランクという枠に収まらない『ソールの導き』だが、地道なスキル収集は欠かさない。
なおマリアネ、マリシエール、ドロツィッテの3人はここのダンジョンは踏破済みということでスキル取得もレベルアップもなしであった。他のメンバーも、全員既得スキルのレベルアップのみである。
Cクラスダンジョンから帰った日の夜も、マリアネのご両親の経営する食堂に向かった。
最初に案内された個室が常時俺たちのために空けられているとのことで、今日もそこでの食事である。上等な料理を堪能し、デザートがサーブされたところで、ドロツィッテが気になる話を始めた。
「ソウシさん、マリアネから話は聞いていると思うけど、実は南の方で、地上に現れるモンスターの数が増加していることが確認された。すべての支部に連絡をとって情報を集めたけど、どの支部でも増加していることが判明した」
「だいぶ前にモンスターの数が増えているというのは聞いた気がするんだが、改めて話が出るということは、変化が大きくなったということなのか?」
「それなんだけどね、支部単位での出現モンスターの増減は、実は常に起きていることなんだ。ある年は多く、ある年は少ない、そんな波みたいのはどこにでもあるからね。でも特定のまとまった地域の出現数が揃って上がるというのは前例がない」
「悪い兆候、ということか」
「可能性は高い。というのも、今前例はないと言ったけど、一つだけそれらしい記録は残っているんだ。伝説の冒険者ミドガルトが討ち取った、『邪龍』と呼ばれる巨大で邪悪なドラゴン。それが現れる前に、地上に多くのモンスターが出現したと記録にある」
そう言った時のドロツィッテは、いつになく真剣な顔であった。どうやら彼女すら冗談めかして語れる話でもないようだ。
メンバーもその話を聞いて、ほぼ全員がドロツィッテに注目した。真っ先に反応したのはやはりラーニだった。
「そういえば前に教会の聖女様が『魔物の王が現れる』って言ってたって話を聞いたけど、そうすると『邪龍』がまた現れるってこと? 『冥府の燭台』とか『悪魔』とか面倒なのがまだ残ってるのに?」
「『邪龍』は討ち取られたはずだから、同じものが現れるかどうかはわからないけどね。それにまだ出現数の上昇については緩やかだから、明日にでもなにか起きるということでもないだろう。ただ聖女様の神託の話もあるし、私たち『ソールの導き』は知っておいたほうがいいと思って今話したんだ」
「ふぅん。でも南ってことは、私たちがこれから向かう先ってことだよね。特にメカリナンもオーズも、王国より南だし」
「そうなるね。まあ今のところは、地上でモンスターに遭う可能性が少し高まったとか、ギルドでの討伐依頼が増えるくらいに考えておけばいいだろうね。もちろんAランクの依頼があったら、私たちは率先して受けたほうがいいかもしれない」
そう言いながら、ドロツィッテは俺の方を見る。
「前のようにドラゴンの討伐依頼などがあったら受けよう。俺たちが当たった方が被害が減るだろうしな」
「ソウシさんならそう言ってくれると思ったよ。その手の情報はすぐに私のところに来るように手配はしてあるから、もしもの時はお願いするよ。もちろん私も『ソールの導き』の一員として手伝うけどね」
ドロツィッテがホッとしたような表情になる。
すると隣に座るフレイニルが、俺の腕に触れた。
「ソウシさま、今聖女様のお話がありましたが、やはり『彷徨する迷宮』とも関係があるのでしょうか?」
「関係はあると思う。前回ライラノーラに会った時にそれを聞くことができればよかったんだがな」
『邪龍』だけでなく、大きなモンスター災害に関連して『彷徨する迷宮』が出現するというのは、以前ヴァーミリアン王国の王家から聞いたことである。とすればドロツィッテの言うモンスター出現数の増加は、災害の前兆として起きて当然のものなのかもしれない。
「要するにアタシたちが活躍する場がまだまだあるってことだろ。正直『黄昏の眷族』との戦いは、向こうにやる気がない奴がいたりして暴れたりなかったからねぇ。相手がモンスターなら遠慮も要らないし、アタシとしては願ったりかなったりさね」
「そうでござるな。これだけ強くなれたというのに、それを十全に使えぬのも冒険者としては心残りがあるところ。望むところと考えて構えておくのがよいと存ずる」
深刻な雰囲気になりかけたが、カルマとサクラヒメが前向きな発言をすると、ラーニとシズナも同調し、マリシエールも静かな闘志を燃やし始めたように口元に笑みを浮かべ始めた。
スフェーニアが「魔法を存分に放つ機会は確かに欲しいですね」と口にすると、ゲシューラも珍しく「それはいいかも知れぬな」とうなずいている。
どうやら『ソールの導き』は、未曽有の事態にも慣れつつあるようだ。ここは俺もリーダーとしては弱気なところは見せられない。
「避けられないことなら正面からすべて叩き伏せるだけだ。俺たちにはその力があるし、全員でことに当たっていこう。目指すは伝説の冒険者、そうだろう?」
思い切ってそんな発言をすると、なぜか全員が一瞬黙って、呆けたような顔で俺の顔を見てくる。
しまった、これは間違いなく滑ったというやつだ。やはり慣れないことは言うものじゃないな。
だがその後、すぐに立ち直ったラーニが、
「あははっ、ソウシがそんなこと言うから皆ビックリしちゃったじゃない。でもそうだよね、目指すは伝説の冒険者!」
と音頭を取ってその場を盛り上げてくれて事なきを得た。
まあその後で皆から慰められたりいじられたりもしたのだが、それはそれでパーティの結束が固まったような気もするから、結果オーライとしておこう。