軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  12

地下26階からは『ヒュプノタイガー』という、頭部に触角の生えたトラ型のモンスターが現れた。マリアネの『鑑定』によると、こちらに幻覚を見せ、混乱させてから襲い掛かってくるらしい。

『幻覚耐性』スキルのレベルが低いと危険そうな相手ではあったが、幸い『ソールの導き』のメンバーにはまったく効果がなかったようだ。それ以外はただの巨大トラなので、30体出てきてもあっという間に駆逐される。

ドロップアイテムはトラの毛皮だった。衣服やインテリアとなりそうだが、マリアネの『鑑定』によると精神安定の効果があるらしい。もちろん初めて見つかった素材であり、市場に出したときにどれくらいの価値になるのかはわからない。

「効果からいっても貴族の引き合いは非常に強くなるだろうね。そもそも初のダンジョン素材というだけで価値は高いし、それが『龍の揺り籠』のものとなると、ね。ギルドで売りに出すような品ではないかもしれないよ」

「わたくしが言うのは少し気が引けますが、これらは帝室に献上していただけるとありがたいですわ。このように珍しい品は帝室の威光を高めるのに役立ちますので」

ドロツィッテとマリシエールの言う通りだろうということで、少しを残して帝室に献上する方向で……と思ったのだが、なにしろ取れる量が多いので帝室でも受け取れきれない可能性があるということだった。献上品となれば帝室もただで受け取ることはできない。このあたりも『ソールの導き』の困ったところではある。

地下28階からは『グレートアームズ』という、筋肉の塊のような太い腕を持った、大型のゴリラ型モンスターが現れる。なんと『跳躍』『空間蹴り』『疾駆』スキル持ちで、空中を跳ねるようにして襲い掛かってくるという、機動力の高い物理型のモンスターである。

30体の大型ゴリラが超絶的な反応速度で魔法の槍を避けながら空中から迫る様には圧倒されかけたが、実際には『誘引』で引き付けて『圧潰波』で一網打尽にできるのでそこまで問題にはならなかった。ラーニ達前衛陣が戦う相手としてもちょうどよかったようだ。

素材は、男の俺は見覚えのある『睾丸』であった。強壮薬などの原料になるらしいが、これも初めての素材なのでそもそもその薬を作る技術があるかどうかもわからない。当然ながら(?)女性陣が触るのをためらうので、俺一人で拾って回った。

そして地下30階。ここもやはり下りてすぐにボス部屋になるタイプであった。

サッカーコートの倍ほどもある広大な空間。俺たちが進んでいくと部屋の中央に黒い 靄(もや) が現れ、3体の巨大なボスモンスターが出現する。

それは一言で言えば、マンモスに似た姿をしたモンスターだった。ただし胴体はダンプカーほどもあり、頭部は3メートル以上も上にある。二本の鋭い牙が前に伸びているほか、長い鼻の先も斧のような形状になっていて明らかに武器になる雰囲気だ。全身は赤褐色の長い毛に覆われているが、その毛も一本一本が太く硬そうで、防御力も非常に高いことがうかがえる。

マリアネが『鑑定』の結果を耳打ちする。

「『ベヒーモス』という名のモンスターです。物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性ともに非常に高いようです」

「見た目通りか、後衛陣に突っ込まれるのだけは避けたいな。最初に一撃与えるから、1体はシズナの『精霊』で抑え込んでくれ。1体はマリシエールの指示のもと前衛陣で当たってほしい。中央の1体は俺が受け持つ」

「承った。抑え込んで魔法で集中攻撃じゃな」

「了解いたしましたわ。こちらは速さで対抗しましょう」

フレイニルが『絶界魔法』で障壁を作ったところで俺は前に出る。3匹のベヒーモスがこちらを値踏みするような目で見ながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。それだけでかなりの迫力だが、すでにカオスフレアドラゴン2匹と戦っている俺たちからすると気後れするほどではない。

フレイニルがさらに『神の後光』を発動、しかし直後にベヒーモスの毛皮が怪しく光を帯びる。

「効果がほとんどなかった気がします」

というフレイニルの言葉からも、その光が魔法を弾いた印なのだとわかる。思ったより厄介な相手のようだが、30階といえばAクラスダンジョンの最下層にあたる階層である。当然生半可な強さのモンスターではないのだろう。

それでも『神の後光』によって攻撃を受けたと判断したのだろう。ベヒーモスは猛然とダッシュを始めた。ダンジョンが揺らぐほどの振動と足音、俺はその正面に立って『誘引』を発動。

「さて、効くといいが。ふん……っ!」

俺は『万物を均すもの』を横に一閃、『圧潰波』を3匹のベヒーモスの鼻面に叩きつける。

並のボスならそれだけで吹き飛んで最低でも戦闘不能に陥るところだが、ベヒーモスは後ろに10メートルほど押し戻されたのみで、倒れるまでは行かなかった。ただ牙は砕けたりしているのでダメージはかなり食らっているはずだ。

「行くのじゃ!」

ベヒーモスの勢いが削がれたところで、シズナの使役する『精霊』、身長3メートルになった鉄人形改めミスリル人形6体が一匹のベヒーモスを抑え込みに入った。一体がベヒーモスの鼻で吹き飛ばされるが、残り5体がベヒーモスの巨体に掴みかかる。吹き飛ばされた1体が復帰して6体がかりになると、さしものベヒーモスも再突進に移れなくなった。

そこでさらにフレイニルの『神の息吹』が発動し、全員の能力が1段階引き上げられる。

「攻撃を!」

スフェーニアが号令をかけると、雷撃や光線や火の槍が『精霊』の頭越しにベヒーモスの巨体に撃ち込まれる。しかし見た限り、大きなダメージを受けているような様子はない。魔法が着弾するごとにベヒーモスの毛皮が発光しているので、あの毛皮が魔法の力を弱めているようだ。

「毛をむしり取るのじゃ!」

シズナもそれに気付いたのか、『精霊』に新たな指示を出す。ミスリル人形は指示に従い、ベヒーモスを押さえながらその毛をむんずとつかんでむしりとり始めた。

ベヒーモスは物理攻撃耐性も高いはずだったのだが、どうやら毛をむしるという行為は盲点だったようだ。硬そうに見える毛が、まとめて『精霊』によって引き抜かれていく。

ウボォォォッ!?

意外な展開と攻撃に、さしものベヒーモスも怒りのこもった声を上げてもがくように暴れ始める。

その時、毛がむしられ表皮が露出しているところにドロツィッテの光線魔法が吸い込まれるように突き刺さった。皮膚が焼けこげ、瞬時に穴が開いて光線が内部にまでダメージを与えたようだ。さらに激しく巨体をよじるベヒーモス。3体の『精霊』が耐えきれず吹き飛ばされるが、そのせいでさらに多くの毛がむしられる結果となる。

「今です!」

スフェーニアとゲシューラの雷撃が、正確に露出した皮膚を狙って放たれる。さしものベヒーモスもビクンと身体を跳ねさせ膝を折る。しかしそれも一瞬、ベヒーモスは崩れかかった巨体を立て直すと、3体の『精霊』を引きずりながらスフェーニアたちのほうに突進を始めた。

「フレイ、お願いします」

「はい! 『絶界魔法』」

だがその突進も、目の前に新たに現れたフレイニルの『絶界魔法』の障壁によって止められる。勢いが乗っていれば突き抜けたかもしれないが、スピードが乗る前の絶妙のタイミングだった。

そこに再び殺到する『精霊』たち。ベヒーモスの頭部に乗ったものが頭頂部付近の毛をまとめて引き抜き、そしてまた暴れるベヒーモスによって吹き飛ばされた。

「いい働きだね!」

ドロツィッテが『光属性魔法』の光線を『充填』で放つ。狙いは 過(あやま) たず額付近の毛がむしられた部分に突き刺さり、ベヒーモスの頭部を貫通した。

『急所撃ち』の効果もあったのか、ベヒーモスは全身を痙攣させたかと思うと、白目を剥いて横にドウッと倒れた。その体が溶け始めたので、そちらの一匹は討伐完了となったようだ。