軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ  11

地下21、22階はウェアドラゴンがひたすら出現した。

最大で25体出てきたが、情報収集しながら進んでいったため、最後は俺が出張らずとも余裕で全滅できるようになっていた。特に相手の弱点を知ることによって後衛陣の魔法攻撃の正確性が上がるのが大きい。やはり経験や知識は大切だと再確認する。

地下23階では、さらに大型のウェアドラゴン……というより、もはや直立歩行する小型のドラゴンのようなモンスターが出現した。ただし四肢は人間に近く、ウェアドラゴンの上位種であることがわかる。

『ウェアドラゴンリーダー』というらしいのだが、長い首を持ち身長は3メートルを超え、剣と盾を持つ上に火球ブレスまで吐いてくるという、かなり特徴の多いモンスターである。

とはいえ前衛陣は1対1なら問題なく対処できるので、多い分は俺が間引きながら経験と情報収集をしつつ進んでいく。素材として鱗が大量に落ちるのだが、普通のドラゴンの鱗よりはるかに小さいため、防具など面白いものができるのではないかというのがゲシューラの見立てだ。

地下25階では予想通り、通常の成体ドラゴンが出現した。

『フレアドラゴン』という赤黒い鱗のドラゴンで、『ダークフレアドラゴン』『カオスフレアドラゴン』の下位種にあたる。Bクラスダンジョンのボスで出てくるモンスターだが、ここではザコとして当然3、4体まとめて出現する。

皆戦いたいというので、乱戦にならない程度に俺が間引き、後は自由に戦ってもらった。

一体でも倒せば『ドラゴンスレイヤー』の称号が得られる相手であるが、『ソールの導き』にとってはもう実力を測るだけの相手、もしくはスキルの実験台でしかない。

ドロツィッテも自らの『光魔法』を色々試しながら、「『ソールの導き』に出会ってから私の常識は完全に崩れ去った気がするよ」と苦笑していた。

ともあれ調査含みで進んだこともあって、25階のボス部屋前までは5時間ほどかかってしまった。扉の前で大休止を取り、ボス部屋へと入っていく。

サッカーコートを4つ並べたほどもある広大な床、天井までは50メートルはあるだろうか。このロケーションは、明らかにボスが巨大なものであることを示している。

「ザコがドラゴンばっかりだったんだからお察しじゃない?」

というラーニの言葉に呼応するように膨大な量の靄が中央に発生した。しかも二か所である。

靄の中から姿を現したのは、青みを帯びた金属を思わせる漆黒の鱗を持った、全長50メートルはあろうかという巨大なドラゴン。その黄金の瞳と、真紅の長くねじれた2本の角には見覚えがある。帝都に来る前に俺が戦った『カオスフレアドラゴン』で間違いない。

「なんと、ここでカオスフレアドラゴンに再会できるとはのう」

「あの時はアタシたちも出番がなかったからねえ。今回はしっかり戦わせてもらわないといけないね!」

シズナとカルマが、モンスターの王の威容を見上げつつ、余裕の残る声でそんなことを言う。一方でドロツィッテは、

「しまったな。『ソールの導き』だと、このボスが通常なのかレアボスなのかわからないじゃないか」

と今更気づいたように渋い顔をする。

「とにかく戦うぞ。フレイは『絶界魔法』を用意してから『後光』。後はスフェーニアが後衛を、マリシエールが前衛に指示を与えて戦ってくれ。俺は守りに徹する」

「はいソウシさま」

「わかりました、魔法での援護はお任せ下さい」

「かしこまりましたわ。一匹ずつ確実に仕留めましょう」

対ドラゴン戦のお約束で俺が前に出る。『誘引』スキルを使うと、2匹のカオスフレアドラゴンは両方ともに俺に顔を向けた。その金色の瞳には、地上で戦ったものに比べて知性がまったく感じられない。ダンジョンのモンスターとフィールドのモンスターはやはり中身が微妙に違うようだ。

2匹は翼を広げつつ、首をのけぞらせてブレスの態勢を取った。まだ距離は50メートル以上あるのでこちらの『圧潰波』は届かない。

両方が同時にブレスを吐く、その前に、一匹のカオスフレアドラゴンに二条の雷と、一本の光線と、50本を超える炎の槍が突き刺さった。それら後衛陣の強烈な魔法は、広げた翼を引き裂き、本体の鱗を何枚も引き剝がして、モンスターの王に少なくないダメージを与えた。

もう一匹は悲鳴を上げる相方には関知せず、そのまま首を突き出して、極彩色の炎のブレス、『カオスフレアブレス』を吐き出した。

「ふんッ!」

俺は『衝撃波』を連続で放って、一直線に伸びてくる炎の奔流を打ち消していく。極彩色の炎は飛び散る際にそのエネルギーを周囲にぶちまけて、爆発に近い現象を引き起こす。しかしその衝撃も熱も、『神嶺の頂』を装着した俺にはなんらのダメージも与えない。

「参りますわ!」

マリシエールを先頭に、ラーニ、カルマ、サクラヒメら前衛陣4人が、ダメージを受けて怯んでいるカオスフレアドラゴンに『疾駆』で迫る。

接近に気づいた黒い巨竜はカウンター気味に尻尾で薙ごうとするが、丸太を何本も束ねたような太さの尻尾を、カルマが『虎牙斬』で真っ向から切断する。

ギャア! と悲鳴を上げる隙にラーニが跳躍、頭部に一撃を加える。

マリシエールとサクラヒメはそれぞれ足へと攻撃を行い、ほぼ同時に足を切断してしまった。

地面に横倒しになったカオスフレアドラゴンはなにもできずに、そのまま4人の集中攻撃の前に沈んでいった。

一方でブレスを防がれたもう一匹のカオスフレアドラゴンは、危険を察知したのか広げた翼を羽ばたかせ、その巨体を宙に浮かせた。

「飛ばせぬ」

しかし飛び上がりきる前に、ゲシューラの放った大型の風の刃が、カオスフレアドラゴンの片方の翼を半ばから切り裂いた。大きく体勢を崩し、ガクンと巨体が傾いて高度を落とす。

その時にはもう、哀れなカオスフレアドラゴンは俺の『圧潰波』の射程に入っていた。下から放射された見えざる巨人の手によって、モンスターの王の体はあらぬ形にひねり潰された。

残された宝箱は両方が金であった。

「金の宝箱ということは、カオスフレアドラゴンはレアボスであった可能性が高いですね」

マリアネがそう分析すると、ドロツィッテが「ふむ」と溜息をつく。

「では通常のボスはなんだろうね。カオスフレアドラゴンの下となるとダークフレアドラゴンか。Bランクだから少し格が落ちる気もするけど」

「Bランクと言ってもAに近いモンスターですから、それほどおかしなことはないかと。もしくはその間にもう一種類いるのかもしれませんが」

「一応Aランクドラゴン種……スカイドラゴンあたりまで想定して出るということにしておこうか。微妙に種類が違ってしまうけど」

そんなことを言いながらメモを取るドロツィッテ。初めて入る『龍の揺り籠』の、しかも未踏階層の情報ということでその収集に余念がない。

ともかく宝箱だ。開けたがりのラーニとシズナが開くと、出てきたのは青みを帯びた黒い刃の細剣と、同じく青みがかった黒い色の錫杖だ。さっそくマリアネが『鑑定』する。

「こちらの細剣は『 千鱗(せんりん) 一貫(いっかん) 』、『貫通・極+3 翻身+3 敏捷+3』の効果があります。杖のほうは『 招精(しょうせい) の 道標(みちしるべ) 』、『精霊共鳴+1 精霊進化+3 金剛力+3 金剛体+3』の効果だそうです」

「どちらも強烈だな。それとこの色は初めて見る金属だと思うが、材料はわからないか?」

「そこまでは。ただカオスフレアドラゴンの鱗の色に似ている気はしますね」

「確かに。ゲシューラはどう見る?」

ゲシューラが蛇の下半身をよじらせつつ近寄ってきて、細剣『千鱗一貫』をジッと見る。

「ふむ……。我も初めて見る金属だが、どうやらミスリルとなにかの合金のように見えるな。色からするとたしかに先のドラゴンの鱗にも見えるが……」

「残念ながらカオスフレアドラゴンの鱗の現物は持ってないからな。帝室に献上したものを後で見せてもらおうか」

「そうだな。もしかしたら鱗が金属で、それとの合金なのかも知れぬ」

という話をしていると、俺のことをドロツィッテとシズナがそわそわしながら見ているのに気付いた。

「ああすまん、もちろんこの細剣はドロツィッテのものだ。そしてこの錫杖はシズナのものだ。使ってくれ」

それぞれ渡すと、2人はクリスマスプレゼントを渡された子どものような顔で受け取った。まあシズナはまだそんな年齢ではあるが、ドロツィッテは……やめておくのが大人か。

「ふふふっ、これは素晴らしい細剣だね。このような輝きの金属は見たことがない。もしこれが未知の素材で作られていたなんてことになれば、その価値は計り知れないものになるよ。これもソウシさんの想いの強さかな」

「この錫杖には『精霊』様の力だけでなく、強い魔法の力も感じるのう。これならわらわの魔法の威力もさらに増しそうじゃ。ソウシどのの気持ちには必ず応えようぞ」

2人とも妙に俺の気持ちを強調するのはいいとして、ここまで狙ったものが出るのは間違いなく『天運』スキルのお陰だと思うのだが……。まあそれを言っても詮無いことか。スキルの効果がどこまでスキル保持者の意思を反映するかなんて誰にもわからないのだ。

「そういえばソウシさん、さっきまたなにか『強奪』してなかったかい?」

カルマの言葉に、全員の目がこちらを向く。

「よく見てたな」

実は『圧潰波』を受けて落ちてきたカオスフレアドラゴンはギリギリまだ息があり、その時『強奪』をすることができたのだ。

『アイテムボックス』から取り出したのは、同じく青みがかった黒い色をした、額を守るための防具、 鉢金(はちがね) であった。精緻な龍――ドラゴンではなく前世東洋の龍――の姿の彫金がなされている、工芸品としても価値の高そうなものである。

「『青龍の 護鱗(ごりん) 』という防具ですね。『金剛体+3 金剛壁+3』の効果があります」

「まったく、国宝級のものが次々と出てくるのだから、ソウシさんと一緒にいると感覚が完全に麻痺してしまうね」

マリアネの鑑定結果に、ドロツィッテが肩をすくめておどけてみせる。俺自身完全に麻痺しているが、今回出た3品だけでその価値は恐ろしいほどになるだろう。普通なら帝室に献上するような品ばかりである。

「ともかくこの防具はサクラヒメ用だな。サクラヒメの趣味に合うか?」

俺が『青龍の護鱗』を差し出すと、サクラヒメは頬を染めてコクコクとうなずいた。手に取って、今つけているものと交換に額に装着する。東洋の龍は和風なサクラヒメによく似合う。

「ソウシ殿、このように素晴らしいものをいただき大変ありがたく思う。この龍の姿もそれがしにはなぜか懐かしいというか、とても親しみを感じるのが不思議でござるな」

「もしかしたらオーズの文化にある龍なのかもしれないな。シズナ、どうだ?」

「うむ、少し気になっていたのじゃが、確かにオーズの伝承に出てくる龍がそのような姿であった。ソウシ殿は鋭いのう」

「ただの勘だ。だがそれならサクラヒメが懐かしく感じるのも理解できるか」

「そうかもしれぬ。ザンザギル家の血にその記憶が刻まれているのかもしれぬな」

サクラヒメの実家であるザンザギル家の先祖は、はるか昔オーズ国から渡ってきた一派らしい。オーズ国の文化は東洋的なので俺としては非常に親しみを感じるのだが、そんなこともあって勘が働いた次第であった。

さて、21~25階で少し時間を食ったので探索はここまでにして切り上げてもいいのだが、今日が最終日ということもあり、予定通りあと5階層挑戦をすることでパーティの意見もまとまった。

正直なところ、スフェーニアとフレイニルの視線が少し気になっているというのもある。30階でなにか出てくれるといいのだが。