作品タイトル不明
20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ 09
地下20階は、やはり下りた場所がそのままボス部屋になるタイプだった。
今目の前にいるのは、小山のような超巨大なスライムだ。半透明の体の中には、目玉のようにも見える核が無数に浮いている。その核も一つ一つの大きさが直径1メートル近くあり、スケールを間違ったのではないかと思われるほどである。事前情報だとここまでの大きさではなかったはずなので、レアボスで間違いなさそうだ。
「どういう攻撃をしてくるかわからない。フレイは『絶界魔法』を。シズナは『精霊』を前に出しておいてくれ」
「はいソウシさま」
「了解じゃ」
普通に考えれば、この小山のような身体で押しつぶしたり、触手を伸ばしてこちらを捕えにこようとするはずだ。実際本来のこの階層のボス『タイタンスライム』はそうだという話であった。
しかし眼前のスライムについては、あの眼球に見える核が非常に嫌な予感を抱かせる。
「マリアネ、『鑑定』はできるか?」
「やっています。……『イビルアイズ』という名のモンスターです。高い物理耐性、魔法耐性を持ち、状態異常攻撃に長けているとのことですね」
「状態異常か。どの程度のものかだな」
俺たちが戦闘態勢を整えると、イビルアイズは山のような巨体をブルンと震わせた。俺はいつもの通り一歩前に出て『誘引』スキルを発動し、攻撃を受け止める準備をする。
と、イビルアイズの体内の核――眼球が、ギョロリと一斉にこちらを向いた。そしてその眼球の、瞳にあたる部分が、次々と怪しい光を発する。
「……っ!? なんだ……?」
その時俺の全身を、すさまじい不快感が何度も何度も駆け巡った。寒気のような、吐き気のような、怖気のような、なんとも形容しがたい不快感だ。
それら強烈な不快感がイビルアイズの力によるものというのは間違いないだろう。もしやこれが状態異常攻撃とでも言うのだろうか。確かに前世の神話などでは、睨んだだけで石化させるなんて能力を持った存在もいたことになっているが……。
「だがこれは、効いていないということか?」
幸いと言っていいのかどうか、不快感はあるが、それで身体が麻痺するとか、石化するとか、精神状態がおかしくなるとか、そういうことは起きなかった。高いレベルに達している各種耐性スキルと、『堕天使の悔恨』というアクセサリの『全状態異常耐性+5』のおかげだろう。
ただ俺以外のメンバーにこの攻撃をされるのは危険かもしれない。俺は『誘引』をさらに強めて、イビルアイズの注意を引き付ける。
「ソウシ殿、なにか攻撃を受けているのはわかるのであるが、大丈夫なのでござるか?」
俺が次の指示を出す前に、サクラヒメが心配そうな声をかけてくる。
「大丈夫だ。あの目玉みたいな部分はこちらを見るだけで状態異常をかけてくるらしい。今俺が引き付けているから、全員で攻撃をしてくれ」
「承った。皆、参ろうぞ」
「オーケー。まずは魔法だね。スフェーニアお願い」
「はい。魔法参ります」
俺が不快感に耐えている間に、メンバーが攻撃を始める。
炎の槍が多数着弾、光線が目玉をいくつか貫通し、そして前衛組がイビルアイズの周囲を取り囲んで攻撃を始める。刃が振るわれるたびにイビルアイズの半透明の身体がこそぎ取られていき、露出した目玉は両断されていく。
イビルアイズも身体の上部から無数の触手を伸ばして反撃を試みるが、それらは後衛陣の風魔法によって刈り取られていく。特に強力なのはゲシューラの魔法で、巨大な鎌のような刃が、草でも刈るように触手をまとめて切り落としていた。
実は一番心配していたのが巨体を活かした体当たりだったのだが、イビルアイズはその巨体ゆえに動きが非常に遅いらしかった。状態異常攻撃に能力のほとんどを割り振ったモンスターなのかもしれない。
イビルアイズが巨体なこともあって時間はかかったが、最後の目玉がサクラヒメの薙刀『吹雪』によって寸断されると、イビルアイズは残った体ごと黒い霧になって消えていった。
「大きさゆえの面倒さはあったが、レアボスと言えるほどの力はなかったような気がいたす。状態異常とやらを引き起こす攻撃が主であったということであろうか?」
サクラヒメが一抱えほどもある魔石を持ってやってくると、マリアネがうなずいて答えた。
「そうだと思います。睨んだだけで状態異常を引き起こせるというのは初めて聞きますが、あれだけの数の目玉がすべて状態異常をかけてきたというのであれば、ソウシさんの負担はかなりのものだったのではないでしょうか?」
「恐ろしい話でござるな。ソウシ殿はどうだったのであろうか」
「そうだな、動くのが苦しいくらいの気持ち悪さはあった。だがそれ以上はなにも起きなかったから、どの程度強力なものかはわからないな」
「ソウシさんが気持ち悪いと感じるほどであれば、普通の冒険者であったなら致命的な状態異常を受けてしまっているでしょう。恐ろしいモンスターであったのだと思います」
マリアネの分析に異論を挟むものはいなかった。俺の各種耐性スキルのレベルの高さと、『堕天使の悔恨』による守りを考えれば、それでもダメージを与えてきたあの攻撃は相当に恐ろしいもののはずだ。さすがに俺も同意するしかない。
さて、そこまでの強敵となれば当然期待するのは宝箱の中身である。が……
「あれ? こんな色の宝箱ってあったっけ?」
首をかしげるラーニの目の前には、虹色の光沢を持った宝箱が出現していた。
「これは初めて見る宝箱だね。ギルドの資料でもこのようなものが出てくるという話は聞いたことがないよ」
ギルドのグランドマスターであるドロツィッテの言葉を聞いて、ラーニが尻尾をブンブン振りながら俺を期待の目で見てくる。許可を出すとラーニは小躍りして蓋を開けた。
出てきたのは、薄い金色に輝く、どちらかというと武骨な雰囲気の鎧であった。雰囲気としては、昔読んだマンガに出てきた、星座の名を冠した金色の防具に近い。もっともそんな説明をしても誰も理解はしてくれないだろうが。
「うわ~、なんかすごく派手というか、目立ちそうな鎧だねっ。オリハルコンの鎧でしょこれ」
ラーニが鎧をぺたぺたと触りながら、チラチラと俺のほうに視線を向けてくる。まあ言いたいことはわかる。どう見ても俺が着るための鎧にしか見えないのだ。見えないのだが、さすがにこのうっすら金色に輝く鎧を着るのは、おっさんとしては激しくためらわれる。
マリアネがいつもの通り鑑定をして、そして目を見開いて「ほぅ……」と息を漏らした。
「『神嶺の頂』という名の鎧です。神剛力+5、神剛体+5、全状態異常耐性+5、全属性魔法耐性+5という効果があるそうです」
「言葉もないね。国宝とかそういうレベルじゃない、もはや神の武具だよこれは」
ドロツィッテがオリハルコンの鎧……『神嶺の頂』のところに行って、抱きしめるようにして頬ずりを始めた。どうやら彼女の心の琴線に触れるものがあったようだが、マリアネがそれを見て複雑そうな顔をした。
普段は装備品にはあまり興味を示さないゲシューラも、近づいていって鎧のパーツなどを調べ始めた。「なるほど、関節部分はこのように処理しているのか。しかしこれでは重量がかさむはずだが、そこは度外視して強度を求めているようだな」などと言っているので、技術的にも見るべきところがある鎧なのかもしれない。
ともあれ今日はこれで探索は終了である。残念ながらメンバー用の装備品は出なかったが、これは最終日である明日に賭けるとしよう。
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