作品タイトル不明
20章 『龍の揺り籠』、そして獣人の里へ 08
翌日は地下11階からだ。
ここからは、大理石のようだった床や壁が一変して白い石膏のような質感に変わる。床も壁も天井も完全に真っ白というのはこれはこれで不思議さというか、不気味さを感じるところである。
通路は相変わらず幅10メートルはあるだろう広さだ。これは『ソールの導き』にとってはありがたい。
隊列を組んで歩いていくと、全長7~8メートルはありそうな巨大ミミズが現れた。頭部は円形の口になっていて、のこぎりのような歯が何重にも円形に並んでいる。『ヒュージワーム』という、なかなかに強烈な見た目のモンスターだが、問題はそのグロテスクな巨大ミミズが通路いっぱいに並んでいることだ。30体はいるだろうか。嫌いなものがいたら鳥肌どころか心臓が止まりかねない光景である。
だがもちろん、その程度で 怯(ひる) むような人間は『ソールの導き』にはいない。
後衛陣の魔法の波状攻撃と前衛陣の容赦のない物理攻撃で、特殊攻撃を持たないヒュージワームはあっという間に駆逐される。なお彼らの名誉のために言っておくと、普通は魔法も効果が薄く、剣で胴を切り裂くのですら難儀するほどのモンスターである。
ドロップアイテムはなんと正体不明の肉だ。マリシエール曰く「帝都では珍味ということで珍重される食材ですわ」とのことだが、食いしん坊のラーニ、カルマ、シズナですら食べたいとは言わなかった。売ればいいだけなのですべて回収はしていく。
地下13階からは『オリハルコンバグ』。ずいぶんと前に戦った『アイアンバグ』『スティールバグ』の上位種で、オリハルコンの表皮を持った巨大ダンゴムシだ。
当然のように恐ろしいほどの防御力を誇り、しかも直径3メートルほどの球になって超高速で転がってくる。
ただフレイニルの『神の後光』で肝心の防御力が弱まるので魔法の先制攻撃も有効、前衛組の攻撃も問題なく通用する。いざとなれば俺がすべて叩き潰すので問題はない。
ドロップアイテムはもちろんオリハルコンの塊だ。
地下15階は広大な空間が広がっていて、無数の『レギオンアント』、すなわち全長3メートルほどの巨大アリがうごめいていた。最奥に全長10メートルはありそうな女王アリが見え、それがそのままこの階層のボスである。
レギオンアントは軽く500匹くらいはいるだろうか。気が遠くなる数ではあるが、『ソールの導き』としては驚くほどではない。
「前に来たときは50体くらいでしたのに、この数は笑うしかありませんわね」
と口元に笑みを浮かべるマリシエール。他のメンバーもやる気に満ちている。
「正面は俺がすべて叩く。左右からくる奴をやってくれ」
と指示を出すと、皆もすでに慣れたように左右に分かれて迎撃の用意をする。
初手の『神の後光』が決まると、後衛組の広範囲魔法が絨毯爆撃のように群の中に撃ち込まれ、瞬時に100体以上を黒い霧に変えた。
それでも怯まずに、巨大な顎をカチカチと鳴らしながら黒い津波のように迫ってくるレギオンアント。それを俺を含めた前衛組が迎え撃つ。
俺はひたすらに中央で『圧壊波』を連発するだけだ。それだけで黒光りする巨大アリは粉々になってまとめて消えていく。
左右から迫るレギオンアントはラーニ達の刃の前に一太刀で次々と屠られていく。たまに後ろに抜けるものも、シズナの『精霊』の鉄人形に殴られて叩き伏せられていく。
10分ほどで戦いの大勢は決した。動いているレギオンアントは数えるほどで、奥に座るボスの女王アリも、さらなる魔法の斉射を受けてもう虫の息だ。数で押すタイプのボスで、単体ではそこまで強いわけではないらしい。
「ソウシ、『強奪』できそう?」
「いや、その感覚はないな」
「だったら止め刺しちゃうね。みんな、行くよ」
ラーニが気楽そうにそう言って、前衛組とともに女王アリを解体するように討伐してしまった。
「あ~、銀箱ってことはレアボスじゃなかったんだ」
「単に兵隊の数が多いだけだったようだのう」
残された宝箱を見てラーニとシズナがつまらなそうな顔をする。
といっても大群を倒したからか20以上の宝箱が出現していた。入っていたのはすべて粘度の高そうな液体が入った、バスケットボール大の半透明の球だ。しかも一つの箱から5個出てくるので、全部で100以上になる。
「なんだこれは?」
「これは『レギオンアントの蜜玉』ですわ。超高級な食材ですわね」
マリシエールが即答すると、ドロツィッテもどことなく嬉しそうな顔で弾んだ声を出す。
「帝都の高級菓子に使われる蜜だね。身体にもいいという評判で、その味以上に需要のある甘味だよ。もちろんその味も天上の甘露と言われているくらいのものだけれどね」
「もしかしたら私たちも知らないうちにすでに食べていたりするのでしょうか?」
フレイニルが質問すると、マリシエールがうなずいた。
「帝城のパーティで出てきたお菓子に使われているものがあったはずですわ。ただ城の料理人は材料を自慢するようなことはしないので、それとなくという感じでしょうけれど」
「お城のお菓子は香りが違う気がしたのですけど、もしかしたらこの蜜のものかもしれませんね。ソウシさま、今日の夜はこちらを味見してみてもいいでしょうか?」
「パンにつけるなりして食べてみてもよさそうだな。もちろんそれくらいの贅沢はしていいと思うぞ」
「はい、ありがとうございます!」
今まで気づかなかったが、フレイニルは甘味が好きなのかもしれない。食が細そうに見える彼女だが、冒険者である以上普通の人間よりは食事量は多い。食に楽しさを求めるのは大いに結構なことだろう。
ともあれセーフティゾーンで休憩し、俺たちは地下16階へと下りていった。
地下11~15階は虫系のモンスターが出現したが、地下16~20階はスライム系のモンスターが出てくる階層らしい。
16階に下りて少し進むと、確かに白い通路を覆いつくすように半透明のゲル状モンスターがたむろしていた。しかも床だけでなく壁や天井にも張り付いていて、さらにはぎゅうぎゅうに密集しているので数えようもない。
「ソウシ様申し訳ありません、これはもはや完全にわたくしの知っている16階ではありませんわ」
マリシエールは微妙に顔を引きつらせているのはスライムが苦手だからだろうか。
彼女の助言がなくてもやることは一つしかないので問題はない。
「スフェーニア、火属性魔法で焼き払えそうか?」
「ええ、問題ないと思います。シズナも火魔法なら上級が使えますし」
というわけで、後衛陣に魔法を存分に使ってもらい先に進むことにした。
なお16~17階で出てくるのは『クリスタルスライム』という、防御力に非常に優れたスライムらしい。マリシエールや、彼女が所属していた『睡蓮の獅子』のソミュール女史ですら一撃で核を破壊できないほどだそうだ。魔法も効きづらいとのことだったが、そこは『ソールの導き』の面々。フレイニルの『神の後光』の効果、俺の『将の器』の効果もあって、文字通り凄まじい『火力』であっという間に通路を掃除してしまった。
残されたのは、おびただしいほどの魔石と、ドロップアイテムの『水晶球』。『水晶球』は魔道具製作に欠かせない素材だが、ゲシューラは「この『水晶球』はとても品質がよい。これだけあれば私の研究も捗りそうだ」と言いながら尻尾を器用に使って集めていた。彼女が嬉しそうなのは珍しいので、大変だったが全部拾いながら『アイテムボックス』に放り込む。
地下18~19階は同じスライムでも、液体金属のような見た目のものが出てきた。見た目は床にこぼした水銀そのものだが、大きさは一抱え以上あるものだ。
非常に不思議な見た目だが、その銀色の身体は猛毒を含み、しかも魔法がほとんど効かないのだという。
「こいつらはすぐに逃げたりとかはしないのか?」
「いえ、モンスターですからそのようなことはありませんけれど……なにか気になることがあるのですか」
俺のつまらない質問に、マリシエールが不思議そうな顔をした。
「いや、なんとなくそう思っただけだ」と誤魔化して、俺は『圧壊波』ですべて吹き飛ばして退治した。アホなことは言うものではないな。
ドロップアイテムは銀塊。装飾品としてはもちろん、この世界では魔道具の素材としての価値も高い金属である。