軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19章 『黄昏の眷族』を統べる者  15

『彷徨する迷宮』、その最下層の間で、女吸血鬼ライラノーラは語り始めた。

「まずこの星……いえ、この世界と言った方がわかりやすいでしょうか、この世界そのものは、自然の摂理に従って生まれたものです。ここにいる皆さんも、一人を除いては自然に生まれてきた存在ですわ」

「一人を除いて……?」

「ええ、そちらにいる方ですわ」

ライラノーラが指さしたのは、俺ではなくゲシューラだった。

「それは……『黄昏の眷族』は後から作られた種族だということでしょうか?」

「そうなりますわ。つまりこの世界には、自然の中に、後から色々な存在を付け加えることができた者がいたのです。貴方がたの言葉で言えば『神』という概念がもっとも近いかもしれませんわね。あくまで近いというだけで、そのものではありませんが、ここでは『神』としておきましょう」

「……」

「問題は、『神』が後から付け加えた存在が、自然に生まれた者たちの生存を脅かすようになったことですの。さすがにそれは、『神』も望むところではありませんでした。そこで『神』は、自然の営みそのものに干渉をして、自然に生まれた者たちに力を与えようとしました。その力を与えるための体系が『最古の摂理』なのですわ」

「後から作ったのに『最古の摂理』と呼ぶのはなぜです?」

ドロツィッテの問いは、俺も疑問に感じたことだった。

「『神』が過去にさかのぼってその『摂理』を付け加えたからですわ。この世界にとっては後付けの体系なのですが、時系列的には確かに『最古の摂理』なのです」

「本当に『神』のような力を持っている存在というわけですね」

ドロツィッテがため息交じりに言う。

しかし一方で、俺はそれほど驚いてはいなかった。正直俺からしたら、この世界は『神』がいると言われた方がしっくりくるのもたしかだった。

「そうなりますわね。そしてその『自然に生まれた者に力を与える体系』というのは、貴方がたがまさに『冒険者』と呼んでいる、その存在に関わるものすべてということになります」

「『覚醒』という現象と、それからダンジョンで得られるスキル、そのあたりを指すと考えていいのですね?」

「その通りですわ。そしてわたくしの存在もまた、その『最古の摂理』の一つになります。貴方がた『自然に生まれた者』に力を与える体系のうち、上位のものと位置づけられておりますの」

その話を聞いて、メンバーの反応はさまざまだった。ラーニやカルマ、シズナは首をかしげているのでよく理解していないようだ。ドロツィッテやスフェーニア、マリアネ、ゲシューラは一応理解しているように見える。フレイニルとサクラヒメ、マリシエールはなんとか理解しようと頑張っている感じか。

そして俺としては、今のライラノーラの話は、とても腑に落ちる感じを持った。冒険者やダンジョンといったシステムがどことなくゲーム的なものに感じるのも、まるで人間を助けるために用意されたもののように感じるのも、どちらに対しても説明がつく話だったからだ。

「なるほど、なんとなく理解できたように思います。しかしその話を聞くと、さらに色々と聞きたくなることが増えますね。その『神』は今どうしているのかとか――」

「それについてはまたの機会にいたしましょう。どうやらこの地にとても強い力が近づいてきているようですわ。貴方がたとしても急がないといけないのではなくて?」

ドロツィッテの言葉をさえぎって、ライラノーラが玉座から立ち上がった。

彼女の言う「とても強い力」とは、間違いなく『黄昏の眷族』たちのことだろう。だとすれば確かにこれ以上話を聞いている時間はなさそうだ。

俺はうなずきつつ、『万物を 均(なら) すもの』と『不動不倒の城壁』を持つ手に力を込めた。

「そうですね。では今回も試練をお願いします」

「ふふ、試練、ですか。そうですわね、これは力を持つにふさわしい者かどうかを確かめるための『神』の試練ですわ。 此度(こたび) も見事、乗り越えてくださいませ」

ライラノーラが両手を広げ、アンデッド召喚のポーズを取る。

俺たちはいったんライラノーラから離れ、陣形を整えた。フレイニルやスフェーニアたち魔導師組はなにも言われずとも精神集中を始める。

「そちらが11名なら、これくらいは用意してもよろしいですわね」

ライラノーラの前面に黒い霧が現れ、視界を妨げるほど濃くなっていく。そしてその墨のような霧が消えると、首のない黒馬にまたがった、首なしの鎧騎士が10体、ずらりと並んで現れた。全員が左わきに兜、右手に赤い槍を持っている。

「この数の『デュラハン』を一度に召喚したというのですの!? なんと凄まじい!」

驚きの声を上げつつ、『運命を囁くもの』を構えるマリシエールの口元には笑みが浮かんでいる。ドロツィッテの方は一瞬顔が引きつっていたが、すぐに元の余裕のある表情に戻る。

もちろんフレイニルたちは完全にいつもどおりの落ち着きようだ。デュラハンもすっかり戦い慣れてしまった感がある。

デュラハンの列の向こうで、女吸血鬼ライラノーラが右手をこちらに向けた。

「では参りますわ。よい戦いを」

デュラハンの黒い馬が、身体をわずかに低くした。突撃の体勢、だがその前に、周囲が淡い光のヴェールに包まれる。

フレイニルの『神の後光』によって一瞬気勢の削がれたデュラハンに、スフェーニア、シズナ、ゲシューラ、ドロツィッテの魔法と、ラーニ、カルマ、マリシエールの『飛刃』がまとめて襲いかかる。

攻撃を受けたのは左右の2体ずつのデュラハンだ。虫の息の1体を除いて、3体が黒い霧に還っていく。

「ふんッ!」

メンバーが正面の6体を残してくれたのは、俺への配慮だ。

俺が横薙ぎに放った『衝撃波』が、突撃を始めた瞬間のデュラハンをまとめて吹き飛ばし、その後ろのライラノーラまで、玉座ごと奥の壁に叩きつけた。

「やはりソウシ様のお力は お(・) か(・) し(・) い(・) ですわね! もしかしたら、『神』が想定していた上限以上の力を手に入れつつあるのかもしれませんわ」

『衝撃波』を受けたライラノーラだが、ダメージは軽微なようだ。

壁を蹴ってこちらに向かってくる美しい肢体には、血のような真紅の渦がからみついている。

「上限を超えると、『神』にとって都合が悪いのでしょうか?」

「どうでしょうか。すでにこの世界から『神』は去っていますので、問題はないと思いますわよ」

ライラノーラのまとう真紅の渦から真紅の槍が次々と射出される。

『 血槍(けっそう) 』という彼女得意の飛び道具だが、俺の『吸引』スキルと『不動不倒の城壁』の前にすべて無効化される。威力は前より増している感じがするが、こちらのスキルも強化されているため、むしろ前回より受け止める負担は少ないくらいだ。

「相変わらずの硬さですわ。『 血牙(けつが) 穿山(せんざん) 』は破られましたから、今回は――」

「させぬ」

新しい技を出そうとしたライラノーラだが、ゲシューラの雷魔法がほとばしり、構えをとったその身体を激しく打ち据えた。

「『ラーヴァサイクロン』!」

動きを止めたライラノーラの足元から、溶岩を含んだ竜巻が巻き起こる。スフェーニアが研究して生み出した魔法らしい。

発動が遅い範囲魔法だが、このコンビネーションは有効だ。大抵のモンスターならこれで勝負ありだが――

「どちらも初めて見る魔法ですわ。ここまで強力なパーティは初めてかもしれません」

溶岩の竜巻の中から、真紅の渦をまとったライラノーラが飛び出してきた。