軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19章 『黄昏の眷族』を統べる者  12

元冒険者で構成された帝国軍の精鋭部隊が約2000、高ランク冒険者を中心とした現役冒険者が約2000、それ以外に一般兵が3万。

そう聞くと皇帝の親征軍としては小規模に思えるが、特に相手が『黄昏の眷族』となれば一般の兵などいくらいてもほぼ意味をなさない。せいぜい『黄昏の眷族』が使役する『黄昏の猟犬』をぎりぎり相手にできるくらいだろう。それでももし戦うとなったら大きな被害がでるはずだ。

となれば冒険者と元冒険者、つまり『覚醒者』をどれだけ揃えられるかというのが重要なのだが、その数が合計4000というのは動員数として多いのか少ないのか、俺には判断できないところだ。

しかし『黄昏の眷族』が3000は来るというのを知った今では、明らかに足りないと言わざるを得ない。『黄昏の眷族』はその多くがAランク冒険者を超える力を持ち、しかも各々が『黄昏の猟犬』を10体前後召喚できる。つまり向こうは実質3万3000の軍勢ということになるのだ。

「と思っているのだろうけど、明日にはザンザギル家ほか各領からも元冒険者部隊の援軍も来るからね。ある程度は安心して大丈夫だよ」

そう言いながら、ドロツィッテ女史は笑みを浮かべた。

ここはファルクラム侯爵邸の一室。部屋にいるのは俺とドロツィッテ女史、それに皇帝陛下とマリシエール殿下の四人である。

「それならよいのですが。しかし『黄昏の眷族』を相手にできるのは実質Aランク以上、ギリギリBランクまででしょう。その数はどうなのでしょうか」

「ソウシさんはなかなか厳しいところをついてくるね。たしかにAランクは帝国全土を探しても1000はいない。王国の方にも打診をしてなんとか1000というところかな。Bランクはその5倍はいるけど、ここに来るのは3000くらいだろうね」

「数はそんなに少ないのですね。いや、こんな事態でなければ多いと思ったかもしれませんが」

俺の言葉に、ドロツィッテ女史は首を軽く横に振った。

「正直、ソウシさんが事前に聞きだしてくれた『黄昏の眷族』の数はかなり絶望的なものだよ。今まで1体を相手にするにも複数のAランクパーティが必要だと言われてきた存在だからね」

「ゲシューラの話によるとこの大陸に単騎で渡ってくるものは力自慢が多く、平均的にはもう少し力は弱いという話でした。それでも厳しい相手には違いないでしょうが」

「正面から馬鹿正直に当たったら分は非常に悪いだろうね。だからこそ――」

「ソウシ殿の力に頼る部分が大きくなると思うのですよ」

言葉を継いだのは皇帝陛下だった。

大器を感じさせる若き皇帝も、今日はさすがに普段の余裕は少ない。

「もちろん全力は尽くします。それが冒険者として、そして帝国の貴族としての務めですから」

「ソウシ殿にそう言っていただけると頼もしいですね。ところでマリシエールも単騎で『黄昏の眷族』と渡り合えるのですが、ソウシ殿はどのくらいの数を相手にできるのでしょうか?」

その質問に、マリシエール殿下もドロツィッテ女史も興味深そうに目を向けてくる。

俺としては最初から複数相手が前提なのを指摘したいところだが、それは求められていないのだろうな。

「私の『衝撃波』を全力で放てば、恐らく『黄昏の眷族』も一撃で倒せるでしょう。相手がまとまっていればそれだけで数十体は倒せるとは思います」

「凄まじい話ですね。やはり闘技場では全力ではなかったということでしょうか」

「『衝撃波』に関しては全力ではありませんでした。闘技場ごと破壊する可能性がありましたので」

「なるほど。そうすると相手の陣形や出方次第の部分も大きくなりますね」

「できれば早い段階で向こうの総大将であるレンドゥルムに一騎打ちを申し込むつもりです。それに勝てれば、少なくとも『黄昏の眷族』の半数は戦意を失うそうですので」

その意見には、皇帝陛下だけでなく、マリシエール殿下もドロツィッテ女史も目を見開いた。

「……それはずいぶんと乱暴な策に思えますが……。向こうは一騎打ちを受けるのでしょうか?」

「『黄昏の眷族』を力でまとめている王のようですので、挑まれれば断れないだろうとのことです」

「例のミギティマという『黄昏の眷族』のお話ですね。信じられるのでしょうか?」

「ゲシューラによると十分信用できる人物のようです。どちらにしろ、もともとそうなるだろうとは思っていましたので問題はありません」

「帝国の存続がソウシ殿の双肩にかかることになりますね。皇帝として非常に心苦しく思います。しかし……」

「これは誰かがやらないとならないことです。それがたまたま私だっただけですから、陛下が気に病まれる必要はございません」

これは少し格好をつけすぎたかもしれないが、しかし本当のところでもある。望むと望まざるとに関わらず、今冒険者で最も強いのが俺であるなら俺がやるしかない。いささか『悪運』スキルに流されすぎている感もあるが、少なくとも自分より若い人間に全責任を負わせるという話はない。たとえ相手が皇帝であってもだ。

「ありがとうございます。私も戦場にあって、ソウシ殿の戦いの行方を見届けさせていただきます。マリシエール、やはりソウシ殿は立派な方だね。例の件は私も異存はないから、この戦いが終わったら好きにしていいよ」

「兄上、なにもこのようなところでそのお話をなさらなくても……」

赤くなって下を向きつつ、俺の方を上目遣いに見てくるマリシエール殿下。

なぜか急に戦前とは思えない雰囲気になるが、まあ深刻そうな顔を並べているよりはいいのかもしれない。

高貴な兄妹が仲のよさを見せているところで、やはりニヤリと笑っていたドロツィッテ女史が、真面目な顔に戻って言った。

「ところでソウシさん、実はあの闘技場で『冥府の燭台』を相手にしていた時の話だけど、あの後ジェイズたちが『妙に力が湧いてきた』と口々に言っていてね。ソウシさんのスキルの効果かなと思うんだけどどうなのかな?」

「たぶん『将の器』の効果でしょうね。メカリナンでも同じことを言われましたので」

「そうすると今回の戦いでも効果が出ると思っていいのかな?」

「恐らくは。その時になってみないとわかりませんが」

「それなら一度確かめさせてもらえないかな? 何組かパーティを呼んで、一緒に身体を動かしてみればわかると思うんだけど」

「ええ構いませんよ。ぶっつけ本番というわけにもいきませんね、たしかに」

と2人で予定をしていると、マリシエール殿下が不思議そうに声をかけてきた。

「今のはなんのお話でしょうか?」

「実は私は『将の器』というスキルを持っていまして、それでパーティも大勢で組めるのですが、そのスキルは仲間の力を増やす効果もあるようなのです。メンバーに聞くと3割くらいは力が増しているとか」

「まあ。言われてみればあの闘技場でもソウシ様と共に戦った時は力が増したような気がしたのです。やはり気のせいではなかったのですね」

「ええ、そうだと思います」

いつのまにか俺の呼び方が変わっているがそれは気付かないふりをする。 藪蛇(やぶへび) は避けるが吉だ。

「しかしそのようなスキルまでお持ちとは、やはりソウシ様は 古(いにしえ) の『伝説の冒険者』の再来なのですね。ますます出会えたことを運命に感謝しなくてはなりませんわ」

「それは私も同じです。殿下と知り合えたことを運命に感謝いたします」

咄嗟(とっさ) にそう返して、それから自分が藪の蛇を引きずり出していたことに気付いてしまった。

真っ赤になったマリシエール殿下を見て皇帝陛下がさも楽しそうに笑い、ドロツィッテ女史が「私に出会えたことも感謝してもらえないかな」などといじってくる。

その後一応は、『ソールの導き』を中心に冒険者たちをどう配置するかみたいな話も出たのだが、終始なごやかムードになってしまったのは果たして良かったのだろうか。

映画とかだとこういうやりとりはバッドシーンにつながる前振りだったりするのだが……まあこちらは運命には慣れているからな。マリシエール殿下との戦いではないが、余計な運命は握り潰していきたいところだ。