作品タイトル不明
19章 『黄昏の眷族』を統べる者 11
「オクノ伯爵様がなぜ英雄と呼ばれるのか、恥ずかしながらようやく理解いたしました」
館の応接の間に戻ると、ライエンタル青年の表情はさきほどまでに比べて格段に明るくなっていた。どうやらデュラハン退治は若き領主代行の不安を解消する効果があったらしい。青年はしばらく興奮したように俺たちを褒めまくっていた。
どうにもいたたまれなくなってきたので、挨拶もそこそこに侯爵邸を後にすることにした。礼をすると言われたので、標準的な冒険者の依頼料をもらっておいた。
街に戻ると昼過ぎになっていたので、手近なレストランに入って食事を取ることにする。
こちらは9人の大所帯な上に、下半身が蛇のゲシューラもいるので大きめの店でないと入れない。とはいえ俺が伯爵なので、高級な店を選べば大きめな個室を取ることができる。
席に着くと、話は自然と侯爵邸でのできごとに移った。
「結局『冥府の燭台』の工作員みたいのはいなかったわね。でも、そうするとあの大量の召喚石とかどうやって使うつもりだったんだろう」
ラーニの疑問にスフェーニアが答える。
「侯爵自身に化けていたわけですから、兵士などに命じて使わせるつもりだったのでしょう。あれがアンデッドを召喚するものだというのは見ただけではわかりませんから、誤魔化しようはいくらでもあります」
「あ~そういうことか。それとは別にデュラハンも呼び出して、なんてなると大変なことになっていたわね」
「本当に恐ろしいことを考えるものです。王都でも同じことをしていましたし、またどこかで同じようなことをするでしょう。ソウシさん、『黄昏の眷族』の件が片付いたら、本格的に『冥府の燭台』を追う必要があるのではありませんか?」
「俺もそのつもりだ。今回の件で召喚石が運び込まれたルートがわかれば足取りが追えるかもしれないしな」
「ソウシさまのお力があれば、すぐにでもあの者たちのいる場所がわかると思います。あの者たちだけは絶対に許してはいけません」
フレイニルの言葉には、俺への信頼とともに、『冥府の燭台』に対する強い怒りが含まれているように感じられる。
「本当にその通りだねえ。『黄昏の眷族』なんてさっさと片付けて、そっちもとっちめてやらないとね」
とカルマがうなずくと、シズナが楽しそうに笑い出した。
「『黄昏の眷族』がすでに敵にならないような感じがするのが面白いのう。『ソールの導き』に入るまでは、『黄昏の眷族』なぞ到底相手にできぬような恐ろしい悪魔のように感じておったのじゃが」
「ゲシューラもいるし、この間の奴らも話がわかる連中だったからねえ。それにレンドゥルムとかいうのをソウシさんがやっちまえばいいだけならもう終わったも同然さね」
カルマの軽口にマリアネがふっと笑い、他のメンバーも「そうですね」と言ったりうなずいたりする。
「そうは言っても戦だからな。気は抜かず全力でことに当たろう」
「それがしは大きな戦も『黄昏の眷族』を相手にするのも初めてで心もとないところがあるのだが、皆はどうなのであろうか?」
唯一心配そうな顔をしていたサクラヒメがそう言うと、隣に座っていたカルマが肩を抱いてニカッと笑った。
「なに言ってんだい。ダンジョンでさんざん大群相手に戦ってきただろ。あれと大して変わりゃしないよ」
「そうそう。私たちはいつも戦してるみたいなものなんだし、なんてことないから大丈夫。『黄昏の眷属』だってビックリするくらいは強くないから。せいぜい武闘大会の出場者よりちょっと強いかな、くらいだし」
ラーニがそう言うと、サクラヒメは多少安心したような表情を見せた。
「言われてみればそうでござるな。それにソウシ殿のスキルの効果もあるゆえ力も増える。確かに『黄昏の眷族』恐るるに足らず、でござるな」
「そうそう。そういえばサクラヒメの言葉で思い出したけど、ソウシが他の冒険者と一緒に戦場にでるなら、他の冒険者もソウシのスキルの影響を受けるのよね?」
ラーニが俺を見ると、全員の視線が俺に集まった。言われてみれば自分もそのことを忘れていた気がする。
「メカリナンで戦ったときも効果があったと言っていたし、今回も同じになるだろうな」
「それってさあ、かなりすごいことにならない? だって武闘大会に出た人たちとかマリシエール殿下まで3割増しで強くなるんでしょ? 逆に『黄昏の眷族』の方が可哀想になるくらいだけど」
「そうなるとますますソウシさんの名声が高まっちまうねえ。『将の器』って名前のスキルなんだし、いっそのこと将軍にでもしてもらったらいいんじゃないのかい?」
「うむ、やはりソウシ殿はオーズで『精霊大将軍』の位につくのが一番じゃな」
「エルフの奥里でも将軍に相当する位はありますので」
メンバーたちは相変わらずだが、しかし今回もし俺の『将の器』スキルが極めて有用などと判断されたら、ますます周囲からなにか言われそうな気がするな。
あの皇帝陛下ならその辺りも配慮はしてくれそうだが、つくづく身に過ぎたスキルを得てしまったものだ。もっともこれによってメンバーを守ることもできると思えば、文句があるということもないのだが。
翌日から、早速俺たちは周辺のダンジョン攻略を開始した。
領都周辺にはB~Eクラスダンジョンが一つずつあるということで、CDEクラスは一日ずつで踏破した。
このクラスはもう全員が既得のスキルのレベルアップにしかならないが、それでも戦を前にしての能力の底上げは重要である。なお各クラス最下層ボスがすべて複数で、合計7体を倒すことになった。おかげで耐性スキルが一気に上がってしまった。
Bクラスは15階層のものであったが、『黄昏の眷族』がいつ来るかわからないのでダンジョン内での一泊は避けたかった。そこで一度10階層まで一日で下りて一旦戻り、大体の感じをつかんだうえで翌日一気に攻略した。普通のパーティでは絶対にできない強行軍だが、『ソールの導き』には容易にできてしまうところが恐ろしい。なおBクラスでは最下層にレアボスが2体出現し、高位の既得スキルのレベルアップができたのは大きかった。
そしてBクラスダンジョンを踏破した2日後、ついに帝都からの軍が到着した。
しかもその軍の総大将は、マリシエール殿下と親衛騎士に守られた、皇帝陛下その人だった。