作品タイトル不明
19章 『黄昏の眷族』を統べる者 10
倉庫を後にした俺たちは、次に侯爵邸敷地内にある練兵場へと向かった。
練兵場にはすでに兵士たちが整列している。数は100人ほどだが、彼らは冒険者からの転向者らしい。ランク的にはD以下がほとんどだが、もちろん領軍を率いる将軍はAランク、ほか幹部クラスはBランクが複数いるとのことだ。もちろんこれは侯爵領の全軍ではないが、他は一般兵となるようだ。
彼らにはすでに俺たちがどのような人間かは伝わっているらしく、隊列の前に行くと熱のこもった視線が多数向けられた。
ライエンタル青年が将軍と思われる中年男性に声をかける。
聞こえてきた言葉によると、どうも『冥府の燭台』関係の調査とは事前に伝えていなかったようだ。もっとも抜き打ちの調査でないと意味がないので仕方ないだろう。これから調査をすると伝えると、将軍は「よろしくお願いします」と言って下がっていった。
幸い兵士たちの中に、フレイニルの『聖者の目』スキルやラーニの鼻に引っかかった者はいなかった。兵舎の中も一通り見て回ったが、特に怪しげなものは見つからなかった。
「ソウシさま、あちらの方から少し怪しい気配がいたします」
そう言いながらフレイニルが俺を見上げてきたのは、練兵場の脇を通って侯爵の館へと戻る途中であった。
フレイニルが指さしているのは、広い練兵場の端にある、土手のように土が盛り上げられた一角だ。
「調べてみよう。ソーグラン様、あれはなんでしょうか?」
「恐らく土嚢を作るための土だと思います」
と話をしながら、その魔法の的である盛り土の前まで移動する。
「あっ、ソウシ、ここ微かにあいつらのニオイがする。なにか埋まってるのかも」
ラーニも鼻をヒクヒクさせているのでどうも間違いなさそうだ。
ライエンタル青年の指示で兵士たちが10人ほどやってきて、ラーニが指摘した場所をスコップで掘り返し始める。
「領主様、なにかあるようです!」
「慎重に掘ってくれ。もしかしたら危険な魔道具かもしれない」
その怪しげな物体は、すぐに兵士たちの手によって掘り出された。
それはやはり石板だった。大きさは事務机の天板くらいか。表面に魔法陣のようなものが描かれており、いかにもなにかを召喚する感じのものである。
「フレイ、これはアンデッドを召喚する石板だと思うか?」
「はいソウシさま。アンデッドを呼びよせるものと同じ力を感じます。そして……この石板はすでに動いているようです」
「なに……?」
見ればたしかに、石板の表面に描かれた魔法陣の真ん中あたりが淡く発光しているようだった。ただ今すぐ起動するような感じにも見えない。
「破壊しておいたほうがいいか……?」
俺がそう口にすると、ゲシューラがしゅるしゅると音を立てて近づいてきた。
「これは先ほど倉庫にあったものに比べるとかなり高度なものだ。できれば破壊せずにこのままの形で持ち帰り、少し研究をしてみたい」
「いや、そう言われてもな……」
俺の困惑をよそに、ゲシューラは石板の表面を触りしきりにうなずいたりしている。
「フレイが言うとおり、この魔導具はすでに起動しているようだ。恐らく魔法の力を流せば決められた動作を行うはずだ」
「なにが起きるかはわからないか?」
「そこまでは……いや、文字が書いてあるな。デュラハン召喚4体、だそうだ」
デュラハンというとヴァーミリアン王国の王都で出てきた首なしの鎧騎士だ。Aランクのボス級モンスターなので、それがこんなところに4体もいきなり出現したら恐ろしいほどの被害が出るだろう。
「『冥府の燭台』はつくづくロクなことをしないな。だがデュラハンなら召喚させて倒してしまったほうが早いか」
「あっ、賛成! 準備運動に丁度いいよね!」
「そうですね、私たちは武闘大会に参加してませんでしたし、少し戦いたい気がします」
ラーニとスフェーニアが気軽に答え、他のメンバーもうなずいている。サクラヒメだけは最初「え……?」と少し驚いた顔だったが、すぐに「そうでござるな」と納得したようだ。
「ソーグラン様、この石板はすでに起動してしまっているようなので、わざと動作させて、現れたモンスターを倒してしまいたいと思います。よろしいでしょうか?」
「は、え、ええ、オクノ伯爵様がそうおっしゃるなら……」
と要を得ない表情でライエンタル青年が答える。
「ではやってしまいます。済みませんが、あちらの方にお下がりください。一応兵士たちに守ってもらったほうがいいと思います」
「わ、わかりました」
ライエンタル青年と兵士たちが兵舎の方に下がっていき、俺は石板を練兵場の真ん中に置いた。
『ソールの導き』のメンバーは全員が準備できている。俺も『万物を 均す(なら) もの』と『不動不倒の城壁』を取り出す。
「では始めるぞ」
ゲシューラが石板に手をかざすと、石板の表面の魔法陣が強い光を放ち始め、すぐに周囲の地面に4つの大きな魔法陣が現れた。
ほどなくしてデュラハン――馬にまたがった首無しの鎧騎士が、左わきに兜を抱え、右手に赤い槍を持った姿で出現した。
遠巻きに見ていた兵士たちが悲鳴に近い声を上げる。元冒険者であれば、デュラハンがどれだけ危険なモンスターであるかはよくわかっているだろう。
「よし、片付けよう。一体は俺がやるからあとは頼む」
メンバーが3チームに分かれて向かったのを見届けて、俺は目の前の一体を『衝撃波』の一撃で吹き飛ばした。