軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18章 帝都 ~武闘大会~  40

『 影獄(えいごく) 』というスキルで動きの鈍った俺。

その周囲を回るように駆けまわり、何度となく長剣を閃かせてくるモメンタル青年の攻撃を、俺はなんとかメイスと盾で 凌(しの) いでいた。

青年が『衝撃波』の範囲に入ってくれればなんとかなるのだが、彼は明らかに警戒して『衝撃波』の範囲に入らないよう、巧みに左右に動いている。

青年の長剣の切っ先が何度か俺の鎧に届いてくる。ドラゴンの鱗は辛うじてそれを弾くが、しかし傷は残るので長くはもちそうもない。

「粘りますね。それならこれで!」

いきなり何か、強烈な力が背後に集中するのがわかった。例の爆発魔法――そう思った時には身体を前に投げ出しつつ、可能な限り盾を後ろに向けた。

凄まじい衝撃だった。辛うじて『不動不倒の城壁』が半分以上防いでくれたが、それでも全身に強い衝撃が叩きつけられてくる。しかし『不動』『 不撓(ふとう) 』『鋼幹』『安定』、そういった身体安定化スキル群が、俺の身体を床に縫いとめる。

体勢を立て直し、青年の斬撃に備えてメイスと盾を身体に引き付ける。右に気配。見ることなくメイスをそちらへ突き出す。微かに手ごたえがあり、青年が大きく姿勢を崩すのが見えた。

だが俺が次の打撃を繰り出すより早く、青年も体勢をたてなおして長剣と盾を構え直す。

「『エクスプロージョン』でも崩せないとはまさに化物です。しかしその力、その身体、 欲(・) し(・) い(・) ですね」

「欲しい、だと?」

「ええ、欲しい、です。この身体もすばらしいのですがね。その身体もとてもよく使えそうだ。イスナーニの言っていたとおりにね」

「やはり『冥府の燭台』か」

『イスナーニ』は、メカリナンのジゼルファ王に協力していた魔導師のような男だ。『冥府の燭台』の名もその男から聞いたものであり、さらに言えば、彼は俺を『死体にして持ち帰る』と言っていた。つまり目の前のモメンタル青年は、もしかしたら『持ち帰られた』後の姿なのかもしれない。

「ふふっ、もしかして私の周りに う(・) る(・) さ(・) い(・) のがちらちらと増えたのは貴方のせいですか? ならばやはり、ここでその身体をいただいておく必要がありそうです。これだけの戦いなら、偶然やり過ぎてしまっても仕方がないですからね」

「なるほど、確かにそうかもな。ところでその身体はもう死んでいるのか?」

「そうですね。死んでから使えるようにした、という感じです。今まで貴方が見た者も同じですよ」

「なんだと……?」

つまり俺が『イスナーニ』だと思っていた魔導師も、大聖堂での一件の時の神官も、どちらも『持ち帰られた』あとの身体だったということか。死体を泥人形のように変質させて操っているとかそんな感じなのだろうか。考えただけで鳥肌が立つような邪悪さだ。

「……ならばこちらも手心を加える必要はないということか」

「おや、面白いことを言いますね。まあしかし、そういうことです。この身はもう帝国で知られているモメンタル・ファルクラムではありませんので」

そう言うと、モメンタル青年――中身は別のようだが――は、虚ろな、そして邪な気に満ちた笑みをその顔に貼り付けた。

彼我の距離は5メートルほどか。『疾駆』持ちが相手だと、この距離はかなり厄介なのだとようやく理解した。『衝撃波』を使おうにも一瞬で範囲外に出られてしまうからだ。

「『影獄』の効果はあと一刻ほどは続きますからね。徐々にその体を切り刻んであげましょう。まあいつかは、その心臓に一突き入れさせてもらいますが」

そう 嘲(あざけ) るように言って、青年は『疾駆』を発動、俺の周囲に高速移動で張り付きつつ、無数の斬撃を繰り出し始めた。

俺は先ほどと同じように、盾とメイスで致命的な一撃だけは避けていく。

身体は重いが動体視力はそのままだ。モメンタル青年の動きは速く鋭いが、それでも俺が今まで戦ってきた『黄昏の眷族』のザイカルや、Aランクのレアボスほどのレベルにはない。

とは言っても、身体の反応が遅れれば防ぎきるのは難しい。竜鱗の鎧も無敵ではなく、俺の身体は何か所も切り裂かれ血が流れ始める。『再生』によって傷自体はすぐに塞がるが、流れた血が消えるわけでもない。

「なるほど、高レベルの『再生』持ちですか。伊達に英雄などとは呼ばれていない。ますます欲しい身体です」

青年がさらに動きを早める。『疾駆』をかなりの頻度で使っているが、体力が切れる様子もない。持久戦は意味がなさそうだ。

「さて、そろそろ止めと行かせてもらいましょうか。鎧の方もいい感じで壊れてきましたしね」

青年の顔に張り付いた笑みが、その虚ろさを濃くした。歪んだ口元に比べ、その瞳には一切の心が、魂が映っていなかった。

そして妙な話だが、その時になってようやく俺は、目の前の青年が死体として操られているのだという実感を得た。

ああ、これは 来(・) る(・) な(・) ――

モメンタル青年とは、生前に知り合ったというわけでもない。だが目の前の状態が、彼にとってはどうしようもなく理不尽であるということは理解できた。

そしてその理不尽さが、俺の持つ倫理観、道徳観、そしてなにより感情を強く刺激するということも。

瞬間目の前が真紅に染まる。

全身にみなぎる、一つの衝動とともに。

「……許せよ」

口から出たのは、意外にも静かな言葉だった。

それに反して俺のメイスには、たぎり切った感情がうねっている。

その感情は圧倒的な力となり、『影獄』とかいう ち(・) ん(・) け(・) なスキルを完全にねじ伏せた。

虚無の笑みとともに、長剣の切っ先を俺の左胸に伸ばしてくる、元モメンタル青年。

その脇腹に、オリハルコンの多面体がめり込んだ。

「ギョブッ!?」

彼の身体が辛うじて四散しなかったのは、それでも『影獄』が効いていたからだろう。

しかし全身をひしゃげさせた青年の亡骸は、水平距離50メートルほどを、放物線を描いて舞台の外まで飛んでいった。

『……っ!? 勝負ありっ! 勝者『ソールの導き』のソウシッ!』

試合終了のコールが響くと同時に、会場の端から5人の人間が走ってくる。

彼らは青年の亡骸の元に走っていくと、生死を確認するような素振りを見せたあと、その体を見えないように布で包み、担架に載せて運んでいった。

係員に見えたが、彼らは王家に関わる特別な人間たちだろう。こういう状況を想定してあらかじめ準備されていたに違いない。

俺はなんとなくそうしなければならない気がして、青年が運ばれていった方に向かって一礼した。

そしてざわついている会場を後に、控室へと戻るのであった。