軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18章 帝都 ~武闘大会~  34

一試合を挟んで、本日最後の試合となる。

マリシエール殿下は、昨日と同じように長剣を携えて、凛とした姿で舞台に立っていた。紫に輝く銀髪をたなびかせ涼しげな顔でたたずむ様子は、『 玲瓏(れいろう) たるマリシエール』の二つ名にふさわしい美しさがある。

対戦相手は高位の魔導師と見える、アイガという名の男性の冒険者だ。昨日の戦いでは圧倒的な物量の魔法攻撃で圧勝していた。観客から漏れ聞こえてくる話ではジェイズと並ぶほどの実力者らしい。

『始めよ!』

開始と同時にアイガは距離を取り、いきなり最大に近いであろう量の魔法を放った。火と氷と岩の槍、合計100本を超えるであろう飽和攻撃である。

「『多重魔法』と『充填』、『範囲拡大』、射撃系のスキルも多く持っていますね。対冒険者の魔導師としては完成系に近いでしょう」

と言いながら、スフェーニアが身を乗り出す。

迫る魔法の槍の弾幕を前に、マリシエール殿下は驚くことに全く回避行動をとらなかった。

魔法が命中するかと思われた時、その剣『運命を囁くもの』が突如として閃いた。

恐らく高レベルの『翻身』持ち、もしかしたらその上位スキルかもしれない。無数の魔法の槍を、縦横無尽に駆ける長剣がすべて弾いていく。

斬るのでも、防ぐのでも、撃ち返すのでもなく、弾く。

軽く刃に触れた魔法の槍はそれだけで軌道を変え、すべてマリシエール殿下の後方に逸らされて地面に着弾した。どちらかというと、マリシエール殿下がなにかしたというより、魔法が勝手に避けていったようにすら見える、恐ろしい技の冴えだった。

「信じられません。あのように魔法を弾くことができるものでしょうか? ソウシさんのように力で押し返すというならまだ分かるのですが」

とむしろ呆れたように言うスフェーニア。魔法使いならその驚きは一層大きいのだろう。

マリシエール殿下は、そのままゆっくりとアイガに向かって歩きはじめた。前の試合で『疾駆』持ちと分かっているが、それを使わないのは魔法を弾くことに自信があるからか。

アイガはその後も魔法を連続で放つ。『遠隔』も持っているようで、魔法の槍は四方八方からマリシエール殿下に襲い掛かるが、そのすべては弾かれて、舞台の石の床に刺さるだけである。

そんな中、両者の距離があと10メートルほどに縮まった。マリシエール殿下が一瞬構えを見せる。『疾駆』を使うか――そこでアイガが魔法の杖を強く突き出した。

「『先制』でタイミングをずらしましたね。決める気でしょう」

アイガの杖からほとばしったのはなんと『聖光』だった。それも5本だ。確かに『聖光』はレーザー光線のように一瞬で対象に届く。その分威力は対人だとそこまで望めない。だからこそのカウンター狙いなのだろう。

「……えっ!?」

スフェーニアが言葉を失う。

俺も目を見張った。当然直撃すると思われた5本の光線がすべて、マリシエール殿下の直前で軌道を変えて後ろに逸れているのだ。

確かに直前、マリシエール殿下が『運命を囁くもの』を閃かせたようには見えた。

だがそれだけで5本の『聖光』が軌道を変え、しかもその状態を維持するなどということがあるだろうか。

と言いたいところだが、一つだけある。それはもちろん、自然の摂理すら捻じ曲げる『スキル』の力である。

その後は一瞬だった。『疾駆・瞬』によるマリシエール殿下の一撃で、アイガは舞台に倒れ伏す。

「……今のがマリシエール殿下のスキルだというのは疑いないでしょう。しかしどのようなスキルなのか、理解が及びませんね」

「見たままだと攻撃を逸らすだけのものに見えるが、そんな単純なものではない気はするな」

「もしソウシさんの攻撃ですらあのように弾いて逸らせられるなら恐るべきことですね」

「そうだな。しかも一撃で決めてしまうから、攻撃の手の内がまったく見えないのも困る」

「それはソウシさんも同じでは?」

「……確かにそうか」

などと話をしているうちに、大会3日目も幕を閉じた。

この場にドロツィッテ女史が来なかったところを見ると、裏ではいろいろと警備などがなされているのだろう。結局ファルクラム侯爵関係でも動きはない。

やはりモメンタル青年が試合に負けるまでは、このままで行くつもりなのかもしれない。

そう考えると明日のカルマ戦は要注目となる。あの妙な魔法さえ食らわなければカルマの勝ち筋は十分あるだろう。

いや、その前に俺の試合だな。ソミュール女史は今までで一番の強敵となるはずだ。まずは彼女に勝ってから考えよう。

翌日、三回戦の日となった。ベスト8などという響きは高校生の時の部活以来久しぶりに聞く。

意外にも俺は落ち着いていられたが、朝からラーニとカルマはそわそわしていた。

緊張しているのかと思ったが、そのことを指摘すると、

「早く戦いたい!」

ということで、獣人族のメンタルの強さを再確認した。まあ彼女たちが特別なだけかもしれないが。

いつもの通り馬車で闘技場に向かうが、さすがに準々決勝ということで、闘技場周りの盛り上がりもすさまじい。道端で寝ている者までいるが、昨日屋台で酒を飲んでそのままという感じらしい。

俺が控室で軽くウォーミングアップをしていると、扉がノックされてグランドマスター・ドロツィッテ女史が入ってきた。

「やあやあ、やはりソウシさんはここまでは楽勝だね。実力の1割も出していない感じじゃないのかな」

「さすがにそこまでは。ただ余力があるのは確かです」

「相手をした2人だって大会の常連に近いのに、それをこともなく下すんだから大したものさ」

「今日は苦戦しそうですけどね。ソミュールさんは一筋縄ではいかなそうです」

「『睡蓮の獅子』のサブリーダーだからね。パーティ内でもマリシエール殿下に次ぐ実力だから、帝国でも間違いなくトップの一人さ。まあそれでもソウシさんが相手だと……っと、今日はそういう話をしに来たんじゃないんだ。実は例の侯爵の件でね」

ドロツィッテ女史は訳あり顔をすると俺に近づき、声を低めた。

「今のところこっちでは目立った動きはないんだけど、やはり自分の領地での戦の準備はかなり手を抜いているそうだよ。皇帝陛下も少しつついたみたいなんだけど、『十分に行っています』と言うだけみたいだ」

「外部との接触などはないのでしょうか?」

「『冥府の燭台』らしき者の姿は周囲には全く見られないらしい。先のメカリナンや教会でも、怪しい人物以外の協力者は見つかっていないんだろう?」

「そうですね。どちらも『冥府の燭台』関係者は一人だけ、それも人形のような奴が一体だけでした」

「とすると、基本的にはその一人に強い権限が与えられている可能性が高いね。誰かと連絡を取っていることはやはりなさそうだ、という結論にこっちも至っているところさ」

「とすると、闘技場でも何か独自に仕掛けてくる可能性が高いと?」

「そういうことも言えるね。モメンタルが負けた時が怪しいというのはずっと言っている通りだから、今日からちょっと気が抜けないんだ」

「分かりました。私も試合が終わってから観客席には行かないようにします」

「そうだね。舞台の上でなにかする可能性もある。一番に駆け付けられるのは選手だから、そこはソウシさんにお願いするよ」

「力は尽くします」

ドロツィッテ女史は満足そうにうなずくと「よろしく頼むよ」といって去っていった。

去り際に人差し指で軽い投げキッスのような仕草をしたのだが、舞台女優のような雰囲気の彼女には似合っていた。

そうこうするうちに係員が呼び出しにくる。

俺は『万物を均すもの』と『不動不倒の城壁』を手に、舞台へと向かった。