軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18章 帝都 ~武闘大会~  15

パーティの後、俺は使用人に案内され、なんと皇帝陛下の私室へと案内された。

部屋に入るとすでに皇帝陛下、マリシエール殿下、そして宰相閣下も揃っていた。

陛下に促がされ、俺は触れるのがためらわれるほどの高級なソファに腰を下ろした。正面に陛下、左右にマリシエール殿下と宰相閣下が同じくソファに身を沈めている。考えてみるととんでもない面子を前にしているものだ。

宰相閣下がテーブルの上にある魔道具を作動させる。

「こちらは声を外に漏らさないための魔道具です」

とのことで、その防音の魔道具が起動すると、皇帝陛下が「さて」と口を開いた。

「ソウシ殿、内密なお話とはなんでしょうか」

「単刀直入に申し上げます。ファルクラム侯爵とそのご子息のモメンタル様は、『冥府の燭台』に関わっている可能性があります」

俺の言葉によって、部屋の空気が一気に張り詰める。

それでも皇帝陛下は表情を動かすことなく聞き返してくる。

「『冥府の燭台』という謎の集団が存在していて、それが活動をしているというのはこちらも情報を受け取っています。一件はメカリナンの王弟に仕えて暗躍していたらしいということ、それからアーシュラム教会の枢機卿に仕えて同じく何か策動していたらしいということ。その『冥府の燭台』が、ファルクラム侯爵に手を伸ばしていると?」

「はっきりと申しますと、証拠は一切ありません。私のパーティのフレイニルが、『冥府の燭台』が化けていた神官と似た気配をファルクラム侯爵とモメンタル様に感じたということ、それから同じくラーニという獣人族のメンバーがアンデッドのにおいを嗅ぎ取ったということ、そして私自身彼らに違和感を感じたこと。怪しむ材料はそれだけです」

「しかしソウシ殿がわざわざ今ここで伝えたということは、確度が高いということですね」

「フレイニルが怪しい者の存在を感知して、それが外れたことは一度もありません。ラーニの鼻も確かです。それから……これはさらにおかしな話をすることになりますが、私は『天運』というスキルをもっておりまして、そういったなんらかの騒ぎの場に居合わせるさだめを持っているようです。それらから捨て置けないと思い報告した次第です」

「なるほど、わかりました」

皇帝陛下は背中をソファにあずけ、目をつぶりながら「ジーノック卿」と宰相閣下の名を口にした。

「ファルクラム侯爵関係で、なにか怪しい動きなどは今までにあったでしょうか?」

「いえ、特にはございませんな。……いや、三日前の報告では……」

「なにかあるのですか?」

「……は。現在『黄昏の眷族』の侵攻に備えて各領に準備を促しているところですが、ファルクラム領のみ大きな動きがないという情報が商人から入っているのでございます。かの領は常に軍備については他領より力を入れているところですので、それが理由かと判断していたのですが……」

「なるほど、判断に困る話ですが、疑うこともできそうではありますね。そういえばファルクラム領の先代は病死でしたね」

「そうですな。亡くなる前に私も何度かお目にかかりましたが、会うたびごとに心ここに有らずといった雰囲気が強くなるように見受けられました。最後は病床に伏したとのことですが、結局どのような病気かはわからずじまいということでしたな」

俺はその病状を聞いて、あの教皇猊下の虚ろな目を思い出してしまった。

「陛下、実はアーシュラム教会の教皇猊下が似たような症状に陥っているのを拝見したことがあります。例の『冥府の燭台』の神官が消え、枢機卿が捕らえられて病状は回復したのですが、もしかしたら……」

「その符号の一致は恐ろしい状況を予感させますね。ジーノック卿、早急にファルクラム領に腕利きを派遣して情報収集を行ってください」

「かしこまりました」

「そういえばマリシエール、パーティ会場でファルクラム侯爵は何の話をしに来ていたのかな?」

「いつもの通りですわ。モメンタルをぜひ婿にどうかという話題で、今度の武闘大会でかならずモメンタルがわたくしに勝つからと宣言をされていました」

「そちらは相変わらずか。しかし今の話を聞くと、別の意味も見えてくる気がするね」

「言われてみれば、勝ったら結婚を考えるのは本当かと何度も確認されていましたわ」

「ますます疑えそうなお話ですね。とりあえずファルクラム侯爵に関しては、情報を集めて背後関係を探っておきましょう。あとはもし『冥府の燭台』が関わっていたとして、なにが目的なのかも知っておきたいところです。前例から考えるとまっとうなことではなさそうですが」

皇帝陛下はそう言いつつ、最後は小さく溜息をついた。

ただでさえ『黄昏の眷族』の対応が待っているというのに、ここでさらに『冥府の燭台』などというイレギュラーが出て来るというのは同情すらしてしまう話である。

俺としても爵位を賜った以上、皇帝陛下には多少なりとも協力はするつもりだが……『悪運』がどういう舞台を整えてくるのか、他人事のように感じてしまうのも確かだった。

さて、皇帝陛下への謁見と爵位の授与、そして叙爵のパーティが終わり、俺たち『ソールの導き』としては公的なイベントはとりあえずすべて終了ということになった。

叙爵されたとなると本来ならこの後大変なあれこれがあるはずだが、名誉伯爵などという例外まみれの爵位のおかげで面倒はない。

とすると、あとは武闘大会のある二カ月後までどう過ごすかということになる。

ラーニやカルマ、シズナは帝城地下にある例の『龍の揺り籠』に入りたがったのだが、『黄昏の眷族』や『冥府の燭台』の件がある以上、3日以上ダンジョンに潜るのは避けることにした。すでに武具に関してはこの大陸でも最高レベルのものを手に入れているので、それよりはスキルを優先したいというのもある。『龍の揺り籠』は一度しか入れないため、全員を万全の状態にして臨みたい。

とすると通常のダンジョンに行くかということになるのだが、大きな行事が終わってすぐにダンジョンというのも精神的に疲れるところだ。なのでまずは帝都観光をするということになった。

なお帝都にいる限り帝城に宿泊していいと言われたのだが、観光を考えてもダンジョンへ行くことを考えても、出入りが面倒な帝城は都合が良くない。そこで城門に比較的近い高級宿を紹介してもらい、そちらへ宿泊することにした。

叙爵パーティの翌日、俺たちは観光と宿への移動を兼ねて全員で街に繰り出すことになった。ちなみにさすがにグランドマスタードロツィッテ女史はギルドへと戻っていった。宿へ行く前に一度冒険者ギルド本部へ顔をだすつもりである。

朝、帝城から馬車で送ってもらい、中央通りで降ろしてもらう。今日は中央通りを南下する形で宿まで行く予定だが、逆に言うとそれだけで一日余裕で時間を潰せるというのだから驚きだ。

帝都の中央通りは、来たときも通ったが恐ろしく広い。

馬車がひっきりなしに行き交い、歩道を歩く人々の数も数えきれないほどだ。前世東京の人通りの多さとほぼ変わらないというのは、この世界の人口密度を考えると相当なものである。

ウチのメンバーもほぼ全員がお上りさんよろしく辺りを見回している。一番はしゃいでいるのはやはりラーニ、そしてカルマとシズナだ。

「うわ~、この人の数は目が回りそうね。店の多さもすごいし、あっちこっちからいいニオイがしててもうお腹がすいてきそう」

「ほんとだね。しかもこれ肉のニオイだよ。さっき腹いっぱい食べたはずなんだけどねえ」

「とりあえず色々と食べてみないことには始まらんのう。城の料理も絶品であったが、屋台の料理もまた違う楽しみがあるからのう」

放っておくとどこかにいってしまいそうなので、遠くに見える冒険者ギルド前を待ち合わせ場所にして、各自自由に見回る形にする。正直この混雑した通りを9人で歩くほうが難しい。

先の食い意地の張った3人は揃って屋台に突撃していき、スフェーニアとサクラヒメ、それとマリアネは服飾店に入っていったようだ。

フレイニルは俺と歩きたいらしく、ゲシューラも一人にはできないので俺と共に歩くことになった。

「ソウシさま、まずはどちらに行かれますか?」

「そうだな。個人的には魔道具を見てみたい気もするな。ゲシューラはどうだ?」

「我もニンゲンの魔道具には非常に興味がある。いい考えだと思う」

「じゃあ行ってみるか。魔道具屋の次はフレイの行きたいところに行こうか」

「私はソウシさまの行きたいところならどこでも」

「じゃあ俺の行きたいところはフレイの行きたいところってことにしよう」

ちょっと意地悪っぽくそう言うと、フレイニルは「ありがとうございますソウシさま」と頬を赤らめた。

屋台に寄ってクレープのような甘味を買いつつ、店の主人に魔道具屋の場所を聞いてそちらに向かった。

勧められた魔道具屋は、5階建ての建物の3階のワンフロアをそのまま店舗にしているところだった。階段を上がってそのフロアに入ると、ガラスケースに陳列された多くの魔道具群に圧倒される。

3人でショーケースを見回っていると、店員らしきカイゼル髭の中年男性が音もなくやってきた。

「本日はお出でくださいましてまことにありがとうございます、オクノ伯爵閣下、レルック魔道具商会の会長レルックでございます。なにかお探しの魔道具などございましたら是非ともご用命ください」

その挨拶を聞いて俺はさすがに驚いてしまった。昨日叙爵されたばかりなのに、すでに帝都の商人が俺のことを認識しているというのは恐ろしいくらいの情報の早さだ。

「私のことをご存知とは驚きました」

「もちろんでございます。今巷でもっとも話題になっている伯爵閣下のことを知らぬとなれば、帝都では商人などできません」

「なるほど、御見それしました。実はこれといって探している魔道具があるわけではないのですが、なにか珍しいものがあれば見せていただけませんか。気に入れば購入をいたしますので」

俺の言葉にレルック氏に目がキラリと光った。上客が来たと思われたか。確かに金は余り気味なので、積極的に使いたくはあるのだが。

「承知いたしました。いくつか伯爵閣下のお眼鏡にかないそうなものがございますので、お持ちいたします。あちらの席にてお待ちください。リーナ、伯爵閣下をご案内してさしあげなさい」

「はい商会長」

奥から美人の店員がやってきて、俺たちを応接セットのある方に案内してくれる。

3人でソファにかけると、すぐにお茶と茶菓子がサーブされる。元庶民としてはこそばゆいくらいの対応だが、伯爵としてはこの手の扱いにも慣れていかなければならないのだろう。

程なくして、レルック氏が若い店員を二人引き連れてやってきた。店員たちはいくつか大小の箱をかかえている。秘蔵の魔道具だろう。

レルック氏は俺の正面に座ると、早速魔道具の紹介を始める。

「いくつかお持ちしましたので、順にご説明をさせていただきます。まずはこちらですが……」

というわけで説明をされた魔道具だが、モンスターの接近を感知するもの、少し離れた場所で通話ができるもの、強烈な光を放つ懐中電灯のようなもの、食品に含まれた毒を感知するもの、望遠鏡のようなもの、録音ができるものなど多岐に渡った。昨日見た防音の魔道具もある。

一部は前世日本でも類似の商品があったことを思い出すものだったが、こちらではすべて貴重な品だ。紹介された魔道具は一番安いものでも三百万ドラムであった。

「これらの魔道具はどこかで製造されているのでしょうか?」

「ものによりますが、今回紹介したものはすべて帝国魔道具 工廠(こうしょう) にて職人の手によって作られたものです。こちらの光を放つ魔道具は比較的貴族様の間で普及しているものですが、専門の職人がひとつ製造するのに一週間ほどかかります。もちろん材料も特殊なものを使用しておりますので、このお値段になります」

「なるほど。そういった職人の仕事には頭が下がりますね」

「伯爵様にそう言っていただけると、職人たちも鼻が高いでしょうな」

俺としてもいくつか興味を惹かれるものがあり、フレイニルも興味深そうに眺めていた。しかし一番食いついていたのはゲシューラだろう。すべての魔道具を手に取って眺めては「ニンゲンも侮れんな」とか「見事な加工精度だ」とか「なるほど、機能を備えるだけでなく、ものそのものの美しさを追求しているのか」とかしきりに感心をしている。

「いかがでしょうか伯爵様、お気に召したものはおありになりましたでしょうか?」

「ええ、いくつか買いたいものがあります。フレイはどうだ?」

「私はこの遠くを見られるという魔道具が気になります」

「じゃあそれも買おう。ゲシューラは……」

「すべて買ってもらいたい。素晴らしい品だ」

まさかの食い気味な反応に俺もフレイも驚いてしまう。まあゲシューラとしても色々とインスピレーションが得られそうなのだろう。

「ではすべて買いましょう。ものは『アイテムボックス』にしまいますのでそのままで結構です。会計は冒険者ギルドのカードで」

俺がそう言うと、レルック氏は目を見開き、そしてすぐに 慇懃(いんぎん) に礼をすると、俺からカードを受け取った。

「かしこまりました、すぐに手続きをいたします。リーナ、すぐに納品書を用意しなさい」

「はい商会長」

やり手の商会らしく、手続きは15分ほどで済んだ。納品書に示された総額は八千万ドルム近かった。前世では家を買うときでも見たことのない数字だ。こんな買い物に慣れるのは危険だと肌で感じるが、今回のものに限っては先行投資の意味合いもある。なぜならゲシューラが、これらの魔道具を元にさらに高性能な魔道具を造る可能性があるからだ。

「この度はまことにありがとうございました。これほどの心地よい取引は、当方としても初めてのことでございます。オクノ伯爵閣下におかれましては、今後ともごひいきにしていただけると幸甚にございます」

最敬礼のレルック氏たちに見送られながら、俺たちは魔道具店を出るのであった。