軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4章 新たな街へ  07

翌日軽く汗を流してから商人ギルドに行くと、獣人族夫妻のガシとナリが待ってくれていた。彼らは行きは生活用品などをマネジの町に運ぶようで、荷物で満杯になった荷車も一緒である。

合流してそのままエウロンの町の外に出て、一路街道をマネジの町に向かった。

エウロンの町の周辺は畑があちこちにあり、非常に牧歌的な景色が広がっている。

ガシたちと世間話をしながら歩いていると、日暮れ前には中継地点の農村に着いた。

「また前みたいにムーンウルフが出たりしてな」

村の外れにある旅人用の小屋の中で、ガシがそんなことを言った。

すでに互いに酒が入っている。ナリは横になって半分眠っている感じだ。

「ギルドの討伐依頼をざっと見ましたが、こちらの地域では依頼は出てませんでしたね」

「そっか。まあそんな依頼が出てるようなら俺もさすがに来られねえけどな」

「道中に明らかにモンスターの危険がある場合は討伐されるまで待つんですね?」

「普通はそうだなあ。ただ急ぎの場合とか、冒険者を雇って護衛をしてもらうこともあるんよ」

「ああ、なるほど」

冒険者には討伐依頼のほかにそういう仕事が回ってくることもあるとは聞いている。特に貴族の護衛などはよくあるようだ。

もちろんそういう仕事を頼まれるのはコネや信用がある冒険者に限られるだろう。

「もしかしたらソウシさんにはそのうちお願いするかもしれねえな。遠出する時はどうしても護衛は必要になるからなあ」

「自分は一人ですから護衛には不向きだと思いますが」

「もちろん遠出する時は隊商になるから冒険者も複数雇うんさ。ムーンウルフを一人で倒せる冒険者がいてくれるとそれだけで安心度が違うってもんよ」

「そうなんですかね。まあその時はよろしくお願いします」

と言っておいたが、ムーンウルフってそんなに強い扱いなんだろうか。無愛想な受付嬢はそんな反応はしてなかったし、ガイドにもレアモンスターの情報はそこまで載ってないんだよな。

まあ街道沿いはよほどのことがない限り高ランクモンスターは出ないらしいし、それくらいで十分という意味なのかもしれないな。

依頼を受けるというのも面白そうだし、対人リスクがある程度読めてきたら受けてみるのもいいだろう。

何事もなく夜が明け、俺たちは早朝に村を発った。

街道を進んでいくと、昼頃になって遠くに大きな湖が見えてきた。その湖のほとりに小さな町が見える。マネジは湖で取れる水産物を主な産業にする町らしい。

さらに一時間ほど歩いて町に着く。マネジの町は一応柵のようなもので囲まれていた。門も扉がついているしっかりしたものなので、もしかしたらフィールドモンスターが時々出るのかもしれない。

門をくぐったところでガシ達とは別れた。彼らはこのあと荷物を積みかえて明日にはエウロンに戻るそうだ。

俺はEとFクラスのダンジョンを両方踏破する予定なので、最低でも4日はいることになるだろう。

ガシに聞いた宿に部屋を取って、俺はひとまず冒険者ギルドに向かった。

トルソンの町と同じ程度の規模だが、冒険者の数は少ない。ダンジョンが少ないのでこんなものなのだろう。

受付のカウンターには男性の職員がいた。挨拶をしてガイドの閲覧許可を取る。

資料室にはめずらしく先客がいた。若い女性……というか少女だ。『覚醒』するのが15歳~25歳がほとんどということなのでおかしくはないのだが、その横顔はどう見ても15歳には届いていない感じを受ける。

まあ『覚醒者』は見た目と中身は別だしパーティを組んでいるなら問題ないのだろうが、どうしても大丈夫なのかとは思ってしまう。

「失礼しますよ」

と棚の前でガイドを真剣に見ている少女に声をかけて、俺は棚からもう一冊の冊子を手に取った。

「あ、すみません……」

「いえ、大丈夫ですよ。熱心ですね」

と言うと、その少女は恐る恐るといった感じで俺の方を見上げた。

そこで気付いたのだが、彼女はとても可愛らしい少女だった。金髪碧眼はこの世界ではそこそこ見かけるが、左右で結っている髪にはまったく癖がないのは珍しい。顔立ちはよく整っていて人形のよう、気弱そうな目元はモンスターと戦う冒険者のそれとは思えなかった。

服は白を基調とした簡易ドレスみたいなものの上に厚手のベストを着ているだけで、無理に見れば魔導師系の格好に見えるか……という感じである。

ガイドを見ているということは『覚醒』したばかりなのかもしれないが、逆にこのどこぞの良家の子女にしか見えないこの娘が『覚醒』したというのは少し残酷な話ではないだろうか。

「……はい、これまで冒険者のことを何も知らなかったので」

「つかぬことをうかがいますが、『覚醒』したばかりなのですか?」

「はい、2日前に」

ああ、やっぱり。こんな娘さんでも無作為に選ばれてしまうのはやはり問題があるよな。

「それではパーティ……お仲間もまだいないのですか?」

「はい。ギルドの方が声をかけてくださっているそうなのですが……」

なるほど、さすがにギルドの側でも放っておいたりはしないか。俺みたいなおっさんとは違うからな。

「実は私もまだ冒険者になって一月ちょっとでしてね。急にやれと言われても困りますよね」

「そうなんですか? やっぱりお一人で?」

「ええ、今のところは何とかやっていけていますよ。ただお勧めはできませんね」

「そうですよね、私もモンスターと戦うなんて考えたこともなくて……。自分にできるとも思えなくて、どうしたらいいか分からないんです」

初対面の俺にそんなことを言うのはよほど不安を感じているからだろう。この娘さんが見た目通りなら、いきなりダンジョンに潜ってモンスターを倒して生活しろと言われてもできるはずがない。

もっとも10代後半くらいの少女は冒険者では多くいるし、彼女らも同じ道をたどってきているのかもしれないが。

「怖いとか不安に思う気持ちは分かりますよ。よければFクラスダンジョンのお話を少ししましょうか? いきなり行くよりは気が楽になるかもしれません」

「えっ、それは……とてもありがたいことですけれど、ご迷惑ではありませんか?」

「自分も冒険者になったばかりですからお気持ちは分かりますし、ガイドにも書いてないこともありますので」

他人事にも思えなかったので、その少女にFクラスダンジョンについて知っていることを話すことにした。

情報を知っていれば多少は紛れるかとも思ったからなのだが……話し終えた時の彼女の様子からすると、どうも余計に不安にさせてしまったようだ。

「お話を聞くほどに、自分にはできそうもないとしか思えません……。済みません、せっかくお話しいただいたのに……」

「いえ、むしろ怖いと思う方が当たり前だと思います。でも人間いつかは慣れるものですよ」

「慣れなければ生きてはいけませんしね」とはさすがに言えなかった。しかし結局はそういうことである。生きていけないものはどこかで 野垂(のた) れ死にするだけだ。その程度にこの世界は厳しいというのはすでに感じている。

少女はその後はふさぐようにしてまたガイドに没頭しはじめた。

それ以上かける言葉もなく、俺はガイドに一通り目を通してからギルドを後にした。