軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16章 王都騒乱  17

そこで一旦会談は休憩となった。

なにしろ情報の洪水である。さすがに俺の頭ではすぐに整理ができそうもない。

フレイニルはどうかと思って見ると、彼女も俺の方を見ていたようだった。

「なにか気になることはあったか?」

「いえ、お話を聞くのが精一杯で。ただ経典については一度読んでいたはずなのですが、やはり忘れてしまっていたことが多くて恥ずかしく思いました。やはり私は聖女には向いていないのだと思います」

「そんなことはないさ。本の内容なんて何十回も読めば自然と覚えるものだし、逆に言えば一度二度で覚えるようなものでもないだろう」

「そうなのでしょうか。どちらにしても私はもう聖女候補ではなく『ソールの導き』の一人ですから……」

と話をしていると、そこに教皇猊下が近づいてきた。

「話をしているところ申し訳ないね。フレイニル、できれば私としてはあなたにもう一度教会に戻って欲しいと願っているのだが、それを聞き届けてくれるつもりはあるだろうか?」

急な申し出……と言っても『神属性魔法』さらには『神霊魔法』まで見られた以上、予想できる話ではあった。ただこのタイミングだとは思わなかったが。

フレイニルも驚いた顔はしたが、すぐに意を決したように凛とした表情になって答えた。

「いえ、教皇様、私はもう冒険者のフレイニルです。こちらのソウシ様にどこまでもついていくと決めています。教会に戻るつもりも、家に戻るつもりもありません」

よどみなく答えるフレイニルの姿を見て、教皇猊下は目を細めながらも、静かにうなずいた。

「そうか、フレイニルは居場所を見つけることができたのだね。そうであればこれ以上は言うまい。今回の件はホロウッドがやったことではあるが、もちろん教会全体の、そしてそれを導く私の不手際でもある。後ほど相応の賠償はさせてもらいたいのだが、どうか受け取ってはくれまいか」

その申し出にフレイニルは俺の顔を見る。俺が「フレイの思う通りで」と言うと、再び教皇猊下に顔を向けて、

「承知いたしました。お受けいたします」

と答えた。

「ありがとう。フレイニルが冒険者としてこの後も活躍することを祈っていますよ」

そう言うと、教皇猊下は静かに席に戻った。

さすがにそれで終わりだとは思っていなかったので、俺はつい口を出してしまう。

「恐れながら猊下、聖女様については今後どのようになさるおつもりなのでしょうか?」

「そうですね、ファランシーノ、今の聖女ですが、彼女にまだ続けてもらうことになります。もともとは彼女が体調を崩したのが聖女交代の儀の理由だったので、彼女が回復した今、その必要もなくなりましたので」

「猊下や聖女様の体調不良の原因は例の神官の術ということでしたが……」

「ええ。結局はそれもホロウッドの 謀(はかりごと) だったようです。実際になんらかの術をかけたのは例の神官ですが、フレイニル様が『神の後光』をお使いになった時にその術が破られたのです」

「ああ、なるほど。するとミランネラ様は、それと『至尊の光輝』はどうなるのでしょうか?」

「ミランネラに関しては聖女候補であることは見直すことになるでしょう。彼女についてはホロウッドが動いたこととはいえ、一度教会で正式に決まったことなので簡単には変えられないことですが、先日の言動を考えれば彼女が聖女に 相応(ふさわ) しいとは到底思えませんので。それと『至尊の光輝』は……」

そこで教皇猊下も少し目を伏せ、苦しそうな顔をした。

「リーダーのガルソニアがどうやら精神に変調をきたしてしまったようでこれ以上の活動は不可能でしょうね」

「ガルソニア少年が……? 確かに様子がおかしかったようには見えましたが」

昨日の会場でのガルソニア少年は、明らかに別人のような雰囲気だった。傲慢な自信家という雰囲気はまったくなく、それどころか 憔悴(しょうすい) した様子ではあったが……

「彼は『天運』という特異スキルをもっていまして、長ずれば名のある冒険者になる素質はある少年だったのです。ただ『天運』はその分保持者に厳しい試練を課すスキルであるとも言われておりまして、その試練を越えられなければ容易に命を落とすスキルでもあるのです。彼はホロウッドからかなりの援助を得て活動をしていて、ある程度は力をつけていたようなのですが……。先日サクラヒメを失いかけた戦いで心が折れてしまったらしいのです」

教皇猊下の言葉に、ギルマスのドワイト氏も静かにうなずいている。

『天運』スキル……なるほど確かに俺にとっても思い当たる節が多々ある話である。俺は『悪運』と呼んでいたが、確かにこのスキルは持っている者に高いハードルを与える代わりに成長の機会を設けてくれるスキルには違いない。しかも時折図ったように特殊な状況にめぐり合わせてくれる。保持者の能力や判断力とうまくかみ合えば、確かにその人間を英雄に仕立て上げることも可能なスキルになるのだろうが……しかしかみ合わなければ文字通りの『悪運』、すなわち悪い運命を引き寄せる、ろくでもないスキルにしかならないだろう。

「ガルソニアはもとは貴族の子弟なので、今後はそちらに戻って荒事とは無縁の生活を送ることになるでしょう。もちろん『至尊の光輝』も解散となります」

「では『救世の冒険者』というものは?」

「もちろんなかったことになるでしょうね。しかし幸運なことに本来の意味での『救世の冒険者』は生まれつつあるようですから、問題はないでしょう」

そこで教皇猊下は、目元を緩めて俺とフレイニルを交互に見やった。

後ろではドワイト氏が手で口をおさえているが、目が笑っているのは隠しきれてない。

俺としても彼らが言わんとしていることは理解できなくもない。ただそれを素直に受け取るには俺はいささか歳を取り過ぎている。

「私としては自分の力でできることは最大限やりたいとは思っています。ただしパーティの存続を最優先にはすると思いますが」

「もちろんこちらから何かを申し上げることではありません。ただそうですね……はるか昔モンスターの大群を退け、この地に国を作った冒険者がいましたが、彼も『自分はやれることをやっただけだ』とおっしゃっていたそうですよ。奇妙な一致があるものですね、ふふふ……っ」

さすがに大集団のトップ、どうも役者としてはまったく相手にはなりそうもない。

しかし『至尊の光輝』がそのような最後となってしまったというのはなんとも言いようがない話ではある。残念ながら俺自身としてもいいイメージのないパーティではあるが、彼らが背負わされたものを考えると大人としては多少は同情の余地もあるのかもしれない。