軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15章 邂逅  17

「これってあいつらボス部屋に入っちゃったってことだよね」

「だろうな。分かっていれば行かせなかったんだが」

ラーニに答えながら、俺は少しばかり後悔の念にとらわれていた。

一回でもザコと戦えば逃げてくるだろうと思っていたのだが、まさかザコ戦なしのボス直通階とは。

しかも扉の前に彼らの姿はなく、扉自体も俺の力で押しても開くことはない。彼らがこの奥に入ってしまったのは明らかだった。

それでも『ライラノーラ』が前に会った時と同じ強さなら、ギリギリ彼らでも勝てなくはないかもしれない。しかしこのダンジョン自体のランクが上がっていることを考えると『ライラノーラ』自身もさらに強化されているはずだ。

ちょっとした面倒を避けるためという、それだけの理由で若者を死地に向かわせてしまったとなれば、さすがに平常心でいることは難しかった。

俺の態度になにかを感じたのか、マリアネがすっと身を寄せてきた。

「どちらにしても彼らがボス部屋に入ってしまった以上、私たちにできることはありません。『 彷徨する(ワンダリング) 迷宮(ダンジョン) 』は普通のダンジョンとは違います。もしかしたら例外的な事態が起きる可能性もあります」

「……そうだな。入れるようになったら入ろう」

随分と待った気もするが、実際は2~3分だったろう。

ボス部屋の扉が微かに震えた。扉が開くようになった合図である。

「よし、行くか。準備はいいな?」

俺は全員の様子を見て、石の扉を押し開けた。

部屋の中は以前と同じだった。

王城の謁見の間のような、荘厳な雰囲気の大ホール。

奥に 雛壇(ひなだん) があり、玉座があり、そこに透き通るほど白い肌の、銀髪の女吸血鬼・ライラノーラが足を組んで座っている。

その玉座に向かう紅のカーペットの真ん中に、灰色の髪の女性が倒れていた。

それは間違いなく『至尊の光輝』の一人、薙刀を持った女武者であった。

椅子に座ったままのライラノーラに目を配りながら、俺は女武者の方に近づいていった。

「これは……もう……」

フレイニルが息を飲む。

女武者の身体には何か所も穴が開いていて、そこからおびただしい血が流れだしている。

恐らくライラノーラの技、『 血槍千舞(けっそうせんぶ) 』を受けた跡だろう。

俺が息を確かめようとしゃがみ込むと、奥からライラノーラの涼しげな声が流れてきた。

「その方は自らの身を犠牲にしてほかの3人を逃がしたようですわ。わたくしも何人もの人間を見てきましたが、なかなかに出来ることではありませんわね」

「逃がした? 扉からは誰も出てきませんでしたが」

「ダンジョンから地上に転移できる魔道具があるのです。彼らはそれを使ったようですわね」

「そんなものが……」

そう言えばガルソニア少年は「奥の手がある」というようなことを言っていた。

そんなことを思い出しつつふと見ると、女武者の身体がピクリと動いたような気がした。

冒険者の身体の強靭さのおかげか、どうやらまだ辛うじて息はあるようだ。

俺は『アイテムボックス』から小さなビンを取り出し、栓を開けて女武者に飲ませた。

「……ん……んく……、うぅ……っ、はぁ、はぁ……」

飲ませたのはもちろん『エリクサー』である。見る間に女武者の身体の穴が塞がり、彼女の顔色がよくなってきた。なるほどたいした効き目である。

「あら、『エリクサー』とは珍しいですわね。しかも迷わずに使うなんて、大した男気がおありのよう。そういうのはわたくしも好ましく思いますわ」

「ライラノーラさんもお待ちいただいてありがとうございます」

「このような場面で礼を言うなんて本当に面白い方ですわね。その女性が死にそうだったのはわたくしのせいですのに」

「貴女は役目を果たしただけでしょう。そもそも戦いを挑んでいるのはこちらですから、殺されそうになったからといって文句を言うのは筋違いというものです」

俺の答えに美貌の女吸血鬼は目を細めた。長い犬歯がのぞく唇が笑いの形をとる。

「ふふふっ、ソウシ様は本当に興味深い方ですわね。さて、その女性も回復されたようですがいかがいたしましょうか。せっかくですので一緒に戦ってもらっても構いませんわ」

「よろしいのですか? ダンジョンのきまりのようなものがあるのでは?」

「ここは普通のダンジョンとは異なりますから多少の例外は問題ありませんの。それに人数に応じてこちらも数を揃えますからお気になさらず」

「分かりました。少々お待ちください」

俺はそう断っておいて、いつの間にか立ち上がっている女武者の方を見た。

近くで見ると、切りそろえた前髪といい、ポニーテールにしているところといい、その和風の鎧といい手にした薙刀といい、日本的な雰囲気の美人である。雰囲気的に20歳少し前くらいだろうか。

死の恐怖を味わったはずだが、その表情には凛としたところが戻っているのはスキルのおかげかもとの精神性ゆえか。ともかく彼女は俺の顔を見て深々と一礼をした。

「死の淵から助けていただいた 由(よし) 、あつく御礼申し上げる。それがしはサクラヒメと申す者。この礼は必ずいたしとう存ずるが、ただ今は旅の身の上にてなにもいたすことができぬ。しばし許されよ」

「『ソールの導き』のリーダーのソウシです。とりあえず助かってよかった、と言いたいところですが、まずはこのダンジョンを出なければそれも意味がなくなります。これからあちらのライラノーラさんと戦いますが、サクラヒメさんも一緒に戦ってくれませんか」

俺の提案にサクラヒメ嬢は一瞬驚いたような顔をしたが、『ソールの導き』のメンバーを見回し、それからライラノーラの方をちらと見てからうなずいた。

「状況を十分に理解できてはおらぬが、ダンジョンボスと戦うというのであれば是非もない。共に戦わせていただきとう存ずる」

「ではよろしくお願いします。皆もいいか?」

見回すとメンバー全員がうなずいた。

サクラヒメ嬢の臨時加入はイレギュラーではあるが、さすがに今はそれを問題にするタイミングではない。

「サクラヒメさんは基本的に後衛の守備をお願いします」

「あいわかった。ソウシ殿たちの連携の邪魔をせぬように気をつけよう。それから『血槍』なる魔法に気を付けられよ」

「ありがとうございます。我々は一度戦っているので大丈夫です」

そう答えるとサクラヒメ嬢は驚いた顔をしつつ、後衛陣の前まで下がった。

見ると、ライラノーラが玉座から立ち上がるところだった。

「お待たせして申し訳ありません。では戦いを始めましょう」

「ええ、よろしくてよ。そちらは8人でよろしいのですね。でしたら少し多めに呼ばせていただきますわ」

ライラノーラが両腕を広げると一帯に黒い霧が立ち上り、12体の鎧剣士『ヘッドレスアデプト』が現れる。

俺たちはその数にも慣れたものだが、サクラヒメ嬢はそうではなかった。

「これほどの『アデプト』を召喚するとは……。先程は本気ではなかったということか。なんと恐るべき存在」

「これくらいは問題ありません。俺が潰し損ねたのを相手にしてください」

「むう……承った」

俺たち全員が落ち着いているからか、サクラヒメ嬢も静かに構えをとる。

こちらは俺を中心に、左右にラーニとカルマ、その後ろにマリアネとサクラヒメ、そしてその後ろにフレイニルとスフェーニアとシズナ、『精霊』の岩人形2体という陣形だ。

「では参りますわ。さらに力を取り戻したわたくしを、見事に倒してごらんになってくださいな」

ライラノーラの指示で、12体の『アデプト』が一斉に滑るように動き出す。半円の陣で包囲するように迫ってくる。

「『後光』いきます!」

フレイニルの『神の後光』が発動し、『アデプト』の動きが一瞬鈍る。

続いてスフェーニアの範囲風魔法『サイクロンエッジ』が発動、右の3体を巻き込んで大ダメージを与える。シズナの『アイスジャベリン』も一体に突き刺さり、こちらは一撃で倒したようだ。

「ふんっ!」

俺は『衝撃波』を3連で放って範囲内の5体を一気に叩き潰す。後ろでサクラヒメ嬢が「なんと!」と声を上げている。

左右外側から接近してきた3体をラーニとカルマ、そしてマリアネが迎え撃つ。サクラヒメ嬢はマリアネの援護に回ったようだが、マリアネは純粋な前衛タイプではないのでいい判断だ。

「『アデプト』ですら一瞬で倒されてしまうなんて恐ろしい方たちですわね」

ライラノーラの美しい顔に不敵な笑みが浮かぶ。

彼女の全身から立ちのぼる陽炎のような『力』を感じ、俺は盾を持つ手に力をこめた。