軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14章 魔の巣窟  05

翌日朝、俺は再びギルドを訪れた。

俺の顔を見て、昨日の受付嬢がすぐに声をかけてくる。

「あ、ソウシさんでしたね。ギルマスが昨日の件について詳しい話を聞きたいそうです。奥へ来ていただけますか?」

「分かりました」

俺は受付嬢の後についてギルマスの執務室へと入った。

メカリナン王都の冒険者ギルドのマスターは、40前後の男だった。いかにも元冒険者といわんばかりの 強面(こわもて) の、男くさい雰囲気の人物である。

しかしその顔には、豪快な顔つきには不似合いな陰があった。頬もこけているのだが、彼がもし国に抱きこまれているなら飯が食えないというのはおかしい気もする。

「お前がソウシか。俺は冒険者ギルド、メッケナ支部支部長のダンケンだ。悪いが昨日の話を詳細に聞かせてほしい。おっと、そっちにかけてくれ」

俺が応接セットに座るとギルドマスターのダンケン氏は正面に腰を下ろした。受付嬢は水を給仕してすぐに部屋を出て行った。

「じゃあ『悪魔』とやらの話をもう一度話してくれ。できるだけ詳細に頼むわ」

「分かりました。ただし少々信じられないような話が混じりますのでご承知おきください――」

オーズの『異界の門』調査からここまでに至るまでの話をもう一度する。話が進むにつれダンケン氏の眉間にしわが寄っていく。

俺が一通り話を終えると、ギルマスは目をつぶり深く息を吐いて背もたれに体重をあずけた。

「『悪魔』については大体わかった。その『異界の門』とやらは調べたいところだが……正直今そこまで手が回るかはわからねえな」

「それは冒険者が少ないからですか? どうもロビーには普通の冒険者が少ないように見受けられましたが」

「ああ、まあそういうことだ。冒険者が別の領に散っちまっててな」

「あの黒い服の集団は冒険者ではないのですか?」

「あれは王家の『特務兵』ってやつだ。そこはあんま触れないでくれると助かるわ」

言いながら、ダンケン氏は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。王家直属の冒険者ということなのだろうが、『特務兵』と言うのなら彼らは兵士なのだろう。冒険者兼兵士という存在が許されるのかどうかからして怪しいところだが、ダンケン氏の様子から今は深入りするところでないと判断する。

「しかし放っておくと間違いなく『悪魔』が出現すると思います。Bランク以上でないと苦戦する相手ですのでご注意ください」

「分かった。ま、実際に『悪魔』が現れたら王都の守備隊とも連携してことに当たるさ」

「よろしくお願いします。私もこの街にいれば協力はいたします」

「おう、その時はよろしく頼む……と言いたいんだがな」

そこでダンケン氏は前かがみになり、俺を探るような目で見てきた。

「ソウシはあのソウシでいいんだよな。『ソールの導き』のリーダー、『トワイライトスレイヤー』『ドラゴンスレイヤー』のソウシで」

「は……、ええ、その通りですが」

「なんかゴツい武器を持ってるって話だが、見せてもらえるか?」

「はあ、分かりました」

『アイテムボックス』からメイスを取り出して見せる。ダンケン氏はその異形のメイスに目を丸くしてから、にやっと笑った。

「なるほど。これはようやく運が向いてきたみたいだぜ。驚かせて悪い、お前の話はギルドの情報網で共有されてるからギルマスなら誰でも知ってんだ」

「それはマリアネ……専属職員から聞いてはいますね」

「おう、そういや専属付きだったな。さて、そうなるとお前さんにはちょっと秘密の依頼がある。今の話だとお前さんは早くオーズに戻りたいだろうができれば聞いてもらいてえ」

「どんな依頼でしょうか?」

「それは……っと、誰か来たみたいだ。ああこりゃ面倒だな」

ダンケン氏が言う通り、3人の人間が近づいている気配があった。

その気配たちはノックもなく扉を開くと、ずかずかと我がもの顔で部屋に入ってきた。

先頭の中年男は明らかに高位の貴族の出で立ちだ。後ろの2人は護衛である。

「これはメルトーネ伯爵様、わざわざ足を運んでいただいて申し訳ありません。なにか御用でございましょうかね」

ダンケン氏が立ち上がって応対すると、「メルトーネ伯爵様」と呼ばれた貴族服の男が、口髭を 痙攣(けいれん) させるようにして答えた。

「私がなんの用でここに来たのかわからんのか? 本当にわからんというのなら、貴様はよほどの無能ということになるが」

「もしや『召喚石』のことですかね。指定の数は納めてると思いますが」

「先日数を増やせと指示したはずだ。近々アレが大量に必要になるというのは、よほどの愚か者でもなければ気付くであろう」

「そうはいっても冒険者の数も減ってますからね。Bクラスダンジョンの深部に潜れる奴もあまりいないんですわ」

ダンケン氏の言葉が気に食わなかったらしく、伯爵は口を曲げて憎々しげな顔をした。

「それは貴様のギルドマスターとしての能のなさのせいであろうが。言い訳をするぐらいならさっさと人を集めんか。ラーガンツのところに冒険者などいくらでもいるであろう」

「他領から冒険者を引っ張るのは素材の買取額を戻してもらわないと無理ですわ。それより伯爵様、どうやら例の『悪魔』が近々この周辺に現れるという情報が入りましたんでご注意いただきたいんですが」

「なに……? そんなものはそっちで対処しろ。国の兵が動くものではない」

「できれば伯爵様配下の特務兵にお願いしたいんですけどね。冒険者は必ず動くってものじゃないんで」

「黙れ。貴様はそんな口がきける立場か。せいぜい国王陛下の逆鱗に触れぬよう言われたことをやっていればよいのだ。いいか、召喚石の数を今の倍にしろ。さもなくば――」

「分かりましたよ。できる限りのことはしますんで」

ダンケン氏が両手をあげて降参のポーズをすると、伯爵は「礼もわきまえぬ下郎が」と吐き捨ててそのまま去っていった。ちなみに最後まで俺の方は見なかった。というか存在すら関知されていなかったようだ。

「悪いな、変な所を見せちまって」

ダンケン氏は座りなおしながら皮肉気に笑った。

「いえ。しかしギルドに貴族様があんなことを言いにくるのは問題があるのではありませんか?」

「そこは色々事情があってな。それについては諸々が終わったら俺も清算するつもりだが……まあ今はそこじゃねえ。さっきの話の続きだ」

「依頼の話ですね」

そこでダンケン氏は再び俺を探るような目で見た。

「実はある人物を、秘密裏に南の侯爵様のところまで連れてってもらいたい。ただしこの依頼はギルド内でも特に信用の高い人間にしか頼めねえし、しかもトラブルがあったときはすこぶる面倒なことになる。正直俺にとっても賭けみたいな依頼なんだが……できればこの国のために受けてくれねえか」