軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の事ならボクにomakase

三日後、サイリユウムへ帰省するためにジャンルーカがネルグランディ城へとやってきた。

「今回の夏休みは帰国する気はなかったのに……急に迎えに来るなんて何があったんですか、兄上」

子守部屋へと入ってくるなり、ジャンルーカはジュリアンへと詰め寄った。

ジュリアンは、ふかふかのラグマットの上にごろんと横になり、腹のうえにエメリッヒを乗せて昼寝をしているところだった。

「ふぁ……ジャンルーカか。早かったでは無いか」

「兄上っ!」

「そう大きな声を出すでない。赤子が起きるであろう」

「うっ」

あくびをしながらも、ジュリアンは腹の上のエメリッヒを左手で撫でつつ右手の人差し指を立てて唇に添えた。「静かにせよ」というジェスチャーである。

いつもはジュリアンが大騒ぎをして、ジャンルーカが諫めるという場面が多いのに今回はその逆の立場となってしまい、ジャンルーカは少し悔しそうである。

「ジャンルーカ様。遷都も大詰めとなり、ジュリアン殿下は過労気味だったのです。私とシルリィレーア様の我が儘で無理矢理休暇を取らせる為の措置としてこちらに連れ出したのです。お叱りならば、このハッセがお受けいたします」

「……いいよ。ハッセとシルリィレーア姉様が決めたことなら僕も従うよ」

ジュリアンの側に片膝を立てて座っていたハッセが、赤子を起こさないような密やかな声でジャンルーカに今回の出迎えの真意を語る。

ハッセがジュリアンに対して過保護な事はジャンルーカも承知の上なので、ハッセにここまで言われればジャンルーカとしても受け入れるしか無い。

「ところでさぁ」

そのやりとりを、窓際のソファーに座りながら眺めていたカインは、ジャンルーカの後ろ、子守部屋の入り口付近に立つ三人の人間を指差した。

「おまけが多くない?」

「カイン様ぁ! その言い様は寂しいですよぉ~?」

ジャンルーカと一緒の馬車行列でやってきたのは、カインとディアーナの元魔法の家庭教師であり、王宮の優秀な魔道士団員であり、大昔にやらかした攻略対象の一人であるマクシミリアンとつい最近毒親から引き離した攻略対象の一人であるラトゥールの師匠でもある、ティルノーアであった。

「エルグランダーク公経由で、カイン様がお困りだっていうから助けに来たんじゃないですかぁ~?」

「お父様経由で?」

「お手紙出したでしょぅ? 元家庭教師だったのもあるし、ブラックカイン様と関わりがあったのもあって、カイン様やディアーナ様に何かあったときの『カイン様係』になっちゃってるんですよねぇ、ボク」

「……エメリッヒの件ですね」

ティルノーアの説明を聞いて、カインは眉間を揉んだ。

領地に到着した直後、エメリッヒを抱くと具合が悪くなるというのを聞いてからカインはあちこちに手紙を出している。

カインの叔父でありエメリッヒの祖父でもあるエクスマクスからも、エルグランダーク公爵であるディスマイヤには連絡が行っていたはずであるが、カインからの手紙で問題の重要度をあげたらしい。

魔力関係の可能性を考えてティルノーアをよこしてくれたのだろう。

「後ろの二人は何しに来たんですか?」

るんるんでくるくると回っているティルノーアの後ろには、マクシミリアンとラトゥールが立っていた。ラトゥールは、カインとお揃いの『ティルノーアの弟子のローブ』を肩からさげている。

「不肖の弟子と、稀代の弟子見習いだからねぇ。ほったらかしにするわけに行かないでしょう?」

ティルノーアはそう言って肩を竦めた。

ラトゥールは良い。師匠であるティルノーアが留守になるのに王都に置いてきたら、おそらくご飯を食べなくなってしまうだろうから、連れてきて正解だとカインでも思う。

しかし、マクシミリアンはいらないのでは無いか? とカインの顔が渋くしかめられる。

「さてさて。下の領騎士団所属の魔道士に聞いてきましたよぉ? 魔力過多症の可能性があるそうですねぇ~。フフフフフ~。貴族は魔力過多症の子を隠す傾向にあるので、症例を見せていただけるのは嬉しいですねぇ」

そう言って、指先をワキワキと動かしながら部屋の中程へと足を進めてくるティルノーア。

その視線が床に寝そべるジュリアンと、その腹の上ですやすやと寝ているエメリッヒへと向かう。

「ああっ! あの時空から降ってきた人!」

「……あぁ、見覚えがあると思えば、あの時奮戦していた魔法使い殿であるか。赤子が寝ているゆえ、この姿勢で失礼する」

ごろ寝したまま、キリッとした顔でジュリアンがそう挨拶すれば、ティルノーアもローブを翻してぺこりと紳士の礼を返した。

一歩踏み出してジュリアンに近づこうとしたティルノーアの前に、サッとハッセが飛び出してみがまえるが、ジュリアンが「下がれハッセ。カインのお師匠だ」と言って下がらせた。

「さて、魔力が体内に収まらず漏れ出ていて、抱く人に不快感をもたらすって聞いていたんですけど……アナタは大丈夫な感じなんですかねぇ?」

ティルノーアがジュリアンの側にしゃがみ込み、寝ているエメリッヒの顔をのぞき込みながらその下にいるジュリアンに質問を投げかけた。

「チクチクもぞもぞする感覚はあるぞ。しかし、周りの者が言う程の不快感は無いな。耐えられぬほどではない」

「そうですか~。なるほどなるほど」

「ティルノーア先生、ちなみにその方は隣国の第一王子殿下ですよ」

カイン救出作戦の時に顔を合わせてはいたが、ジュリアンの密入国については極秘事項である。ティルノーアにもちゃんとは説明されてはいなかった。

なんとなくの予想はつきそうな物ではあるが、あの場で魔法を使っていなかったジュリアンに対してティルノーアは全く興味を持っていなかった。そのため「アレは誰だったんだろう」という思考すらしていなかった。むしろ、空から降ってきた以外の記憶は残っていなかった。

そのため、カインからの紹介で初めて知ったかのように驚いたのだった。

「ああ! ナルホドですよ! えぇ~~コレは興味深いですねぇ。サイリユウムの人ということは、魔力が無いということですよね? 魔力の無い人は魔力過多症の魔力漏れに対して鈍感である可能性があるってことですよぉ!?」

ワクワクして来たぞ! という楽しそうな顔で、ティルノーアは叫びながら立ち上がった。

拳を振り上げ、るんるんでその場でくるくると踊るように体を回す。

「ふぎゃぁああああああ」

「あぁ……叫ぶから赤子が起きてしまったでは無いか……」

不機嫌そうな顔で、エメリッヒの体を支えながら身を起こしたジュリアン。

ティルノーアはお構いなしでくるくると回りながらまたジュリアンの目の前まで行くと手を差し出して、

「抱かせてくださいませ!」

とこの世の全ての幸せがやってきたかの様な笑顔で言ったのだった。