軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意外と子煩悩

室内にいる、ハッセを除いた全員からの視線をあつめたジュリアンは、ぐるりと室内を見渡し、エメリッヒに視線を落とし、また室内をぐるりと見渡した。

「ふむ」

そうして、一つ頷くとソファーのフチに頭を載せるようにのけぞってハッセを見上げると、

「ハッセ、前に来て跪け」

と命じた。

ジュリアンの言葉に何も言わずに従い、ソファーを回り込んでひざまずいたハッセは、視線をジュリアンに固定して次の命令を待っている。

「ハッセ、赤子を抱いてみよ」

「ハッ!」

片膝を立てた状態でひざまずいているハッセは腕を伸ばし、ジュリアンからエメリッヒを受け取ると、両手でしっかりとエメリッヒを抱きしめた。

長くて太い腕で、しっかりと頭と尻をホールドしていて安定感のある抱き方だった。

「…………なるほど、ジャンルーカ様の時と同じ感じがしますね」

「やはりそうか」

ジュリアンの返答に自分の役目が終わったと理解したハッセは、そのままエメリッヒをジュリアンに返すと、またソファーの後ろへと回り込んで直立不動の姿勢に戻った。

「本当に魔力かどうかは知らぬ。ただ、ジャンルーカを抱いた時に感じて、ファルーティアやフィールリドルを抱いた時には感じなかった感覚だったのでな。この赤子を抱いて『ああ、魔力だったのか』と思ったのだ」

ジュリアンの言葉に、カインはそんなこと考えてる場合ではないとは分かっていつつ「ジュリアンって弟妹の子守してたんだ」という意外性に驚いていた。

「リムートブレイクでも、赤子を抱いてこのような違和感を感じる現象は聞いた事がないのです。原因が不明な為に乳母や母なども長時間面倒を見ることができずにおりまして」

キールズが悲痛な顔で訴える。これを切っ掛けに、何かわかれば解決策が見つかるかもしれないという希望を掴みたいのだろう。

「妻のスティリッツもすっかり痩せこけてしまいました」

「……ふむ。確かに顔色は悪そうであるな、心痛お察し申し上げる」

スティリッツは元々がぽっちゃり体型だったために、初めて見る人からすれば却って健康そうな貴族女性の体型に見える。しかしジュリアンは気をつかってその点には触れずに顔色の悪さをねぎらった。

「しかし、ここはリムートブレイクでも国境を守る辺境領であろう? 城に魔導師部隊など魔法の専門家がおるのではないか?」

「原因が魔力かどうかも分かっていなかったんですよ。医者や子育て経験者なんかには聞いて回ったんですが、魔法の専門家に聞くとか思いもよりませんでした」

ネルグランディ領騎士団の中に、魔導師部隊も当然存在している。しかし、魔力が原因などとは思いも寄らなかったためその方面から調べるという頭がなかったのだ。

「今、可能性が出てきたわけであろう? 疾く聞いて参れ」

ジュリアンが偉そうに顎を上げた。

キールズはシャキッと立ち上がると、「御前失礼致します!」と挨拶をしながら部屋を出て行った。

「赤子の名前は何というのだ?」

「エメリッヒと申します」

出て行ったキールズに興味はないのか、ジュリアンはにこやかな顔でエメリッヒの顔をのぞき込みながら誰とも無く赤ん坊の名前を聞き、スティリッツがそれに答えていた。

エメリッヒも、ジュリアンに抱かれているのは気持ちが良いのかご機嫌であぅあぅと笑っている。

「キールズ殿のご子息となれば、将来はエルグランダーク子爵となる可能性が高いのだな。隣国の次期王(仮)としては、未来の辺境伯代理と親睦を深めておかねばならぬな!」

そう言ってジュリアンは、ソファーに座ったままだがエメリッヒの抱き方を変えて高い高いと持ち上げてみたり、膝の上に座らせて万歳させたり拍手させたりと、一通りエメリッヒと楽しそうに遊んでいた。

その後、魔導師部隊と話を付けてきたキールズがエメリッヒをジュリアンから受け取り、部屋を出て行くまでエメリッヒと遊びまくったジュリアンは「ジャンルーカが到着するまで滞在させて貰う」といって、ゲストルームへと去って行った。

夕方、離れの子守部屋へと帰ってきたキールズは、カインが作らせたテーブル付きの幼児椅子にエメリッヒを座らせて離乳食を与えながら皆に成果報告をした。

「魔力過多症かもしれねぇってさ」

「魔力過多症?」

カインは聞いた事の無い症例だった。

カインの交友関係は決して広くは無く、ディアーナやティアニアの子育てについても頼ったのは前世の知識であってこの世界のママ友や育児知識ではなかった。そのため、魔力に関する病気についてはまったくのノータッチ状態である。

ただ、ゲーム配信者であり、サブカルオタクであった前世知識的にも『魔力過多症』という名前から、それがどんな病気であるかぐらいは想像が付いた。

「そんなの、普通にありそうっていうか……半年間もあちこちに聞き回って『誰も知りません』ってことにならなそうな病名だけど」

「病気ではない……が、うーんなんていうか」

カインとディアーナも、ティルノーアから「普通より魔力が多い」と言われているし、おそらくアウロラも平民としては飛び抜けて魔力が高い人間であろう。

しかし、子育てに苦労したという話は聞いた事が無い。そもそも、エメリッヒがこの状態であることを叔父のエクスマクスがカインの父であるディスマイヤに相談していない訳がないのだ。

カインやディアーナの魔力が多くてエリゼが抱っこ出来ないという事があれば、そう伝えているはずである。

そうでないのならば、カインやディアーナの時にはこういった症状は出なかったということだ。

「肉体という器と、内包する魔力のバランスが取れていれば起こらない。体に対して内包する魔力が多すぎる時に発症する症状で、成長して体が大きくなっていけば制御出来る様になっていくものなんだと」

いやいやするエメリッヒに、何とか口を開けさせようとしながら、キールズが淡々と説明してくれる。ひとまず、成長につれて収まる症状ということであれば、問題はなさそうだとカインはホッとした。

であれば、症状が治まるまで大人達が工夫をしながら踏ん張るだけである。

収まるまで寝不足を覚悟しなければならないとはいえ、心配することはないと分かったにしてはキールズの顔は浮かない。

「……他になんか心配事でも?」

「……魔力過多症って、貴賤結婚の子に出やすいんだってさ」

魔力は、平民と貴族であれば貴族の方が圧倒的に多い。そして、貴族の中でも王族に近い血筋の方が魔力は強い傾向にある。

つまり、魔力差のある男女が結婚して子をもうけた場合に、魔力の低い人間に体質が、魔力の強い人間に魔力量が、それぞれに似た特性を引き継いだ子に出やすい症状ということなのだろう。

「あちこちにこの症状を知らないかって聴きまくちまっただろ? そのせいでスティリッツが色々言われたらやだなって思って」

キールズのしょんぼりする背中を見て、『そんな症状聞いた事も無い』という答えばかりが返ってきた理由が分かり、どこに向けたら良いのか分からない怒りを感じたカインだった。