軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カイン救出作戦 3

「良し、今だ!」

黒カインの足のふらつきを、魔力ギレの兆候と判断したティルノーアが叫ぶ。黒カインに対していたディアーナ達は、一斉に背を向けるとダッシュして距離を開けた。捕食対象である人間が範囲内からいなくなり、攻撃欲求が急激に下がっていく。

「くそ。譲るか……。譲らぬぞぉっ」

体を二つ折りにし、自分の身を抱える様に腹を抱く姿勢で何かを押さえつけるようにしていた黒カインだが、

「うあああああ」

叫びとともに腕を力強く開いた。

「転移!」

叫ぶと同時に、ほんの三メートル先にもう一人のカインが現れる。自分の中にある自分の魂を体から押し出し、次の体へと入っていく感触を確認する。

「っしゃおらぁ!」

髪の毛も洋服も新品の様に新しい姿のカインが、気合いとともにガッツポーズを取る。

「ディアーナぁ~! イルヴァレーノ! 成功した! 成功したよ!」

スキップする勢いのカインが洞窟と反対側へと走り出す。もう、自分の中に別の何かの存在を感じない。狭苦しい、胸が圧迫されるような不快感も無い。意味のわからない無気力感も眠気も無かった。

「健康ってすばらしー!」

「カイン様! 後ろ!」

小躍りしそうに喜んでいるカインに、鋭い声が飛んだ。

サッと振り向けば、ボロボロの黒カインが迫っているところだった。

「氷の壁!」

とっさに氷魔法で板状の氷を出して盾にし、カイン自身はバックジャンプで距離を取った。

「……元の体が消えないパターンかぁ」

事前にイルヴァレーノから作戦会議の内容を聞いていたカイン。自分でも色々なパターンを考えていただけに、やっぱりなというがっかり感が襲ってくる。

「魂があると体が崩れないっ! 体と魂そして魔力の関係について学説がひっくり返るかもしれないぞぉ!」

一難去ってまた一難。まだ片付いていないというのに、ティルノーアは嫌に喜んでいた。ラトゥールも心なしか瞳がキラキラと光っている気がする。

「向かってくるなら好都合ではないか! ここで倒しておいた方がよいのであろう?」

カインの横をすり抜け、ボロボロカインに向かって思い切り剣を横振りする。もうカインの魂が抜けた後なので、殺しても構わないのだ。

「うーむ。いくら角が生えていようが、カインの顔をしておるとやりにくいなぁ!」

言いながらも、容赦なく腕や足、胴を切りつけているジュリアンである。

「風の弾丸!」

アウロラが、指先から圧縮された空気弾をボロボロカインへと打ち込んでいく。ジュリアンの邪魔にならないタイミングを計っているようで、あたる場所も正確になっている。

「エイム命!」

「交代!」

さすがに連続の大ぶり剣術は疲れたのか、クリスとアルンディラーノに攻め役を交代してジュリアンが下がってくる。

「ふぅ。ギリギリ間に合って良かったわ」

袖で額の汗を拭きつつ、ジュリアンはカインの隣に立った。

「聞こえておったかわからぬから、もう一度言うておくな。あとで一緒に謝ってくれ。そして一緒に怒られてくれ」

「はぁ。誰にですか?」

国を黙って出てきたとかで、サイリユウムの側妃様とかだろうか? とカインは気のない返事をした。

「この国の王にだ」

「はぁっ!?」

「飛竜で越境してしまったのだ。ゆるせ」

「はぁああ!?」

余裕が出来た途端、軽口を叩くジュリアンに付き合わされているカイン。その時、後ろから鋭く声が掛けられた。

「カイン様! ジュリアン殿下!」

とっさに左右に分かれて飛び、身を伏せた。

黒いドレスの女が、背中に黒い羽を広げて飛んでいる。どうやら羽織っていたボレロが翼に変形して飛んでいるようだった。その腕の中にはぐったりとしたボロボロ黒カインが抱かれている。

「今日のところは引き上げるわ。ボロボロになってしまったけれど、素敵な体が手に入ったしね!」

「氷の矢!」

「風の刃!」

「風の弾丸!」

対空戦の魔法を一斉に空中へと発射するが、その時はすでに黒いドレスの女とボロボロの黒カインは遙か空の上だった。

こうして、カインの救出は半分成功、半分失敗という結果に終わったのだった。

その日の夜に、みんなが各家庭でしっかりと怒られ、翌日は王宮に呼ばれて皆まとめてめちゃくちゃに怒られたのだった。

王宮の、関係者以外誰もいなかった謁見室から退出し、アルンディラーノとクリスは並んで歩く。この先の王宮の居室空間へと向かう廊下と、王宮を退出する玄関へと向かう廊下。その分かれ道までが、アルンディラーノとクリスが今一緒に並んで歩ける距離だった。

最後の分かれ道の手前に、ディスマイヤが立っていた。また、さらに怒られるのかと気を引き締めながら歩いた二人の前に、ディスマイヤは跪いた。

「本当はいけない事だったけれども。ウチの子の為に頑張ってくれてありがとう」

そう言ってディスマイヤは、深々と頭を下げた。隣にアルンディラーノが居るとは言え、クリスは立場的には平民に近い立ち位置だ。それなのに、筆頭公爵が頭を下げたのだ。

「どういたしまして。カイン様は俺にとっても大切な友だちだから」

「面をあげよ。カインは友だちだから、当然のことをしたまでだ」

クリスとアルンディラーノ、二人そろってディスマイヤからの感謝を受け取った。玄関側の廊下から足音が聞こえてくると、ディスマイヤは立ち上がり、もう一度小さく頭をさげると謁見室の方へと去って行った。