軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

享楽の魔法使い

「何か、何かあったんだったらどうしよう。ディアーナが僕に嘘をついて出かけるなんて」

「カイン様だって、昔王太子殿下を連れてこっそり出かけようとしたじゃないですか。そういうお年頃なのかも知れませんよ」

激しい貧乏揺すりをしながら、白くなるほど手を握りしめているカインを落ち着かせるため、イルヴァレーノが昔話を振った。

「アレは……。結局副団長にバレて一緒に出かけたじゃないか」

「ディアーナ様はカイン様の血のつながった妹って事ですよ」

だから、そんなに心配しなくて良いと、イルヴァレーノはカインを励ました。

しかし学園に到着し、休息日でも生徒が入れる場所を巡ってみてもディアーナはいなかった。最後に向かった図書室には、ラトゥールや寮生活をしている数人の生徒が本を読んでいたが、魔法鍛錬所や運動場には誰も居なかった。

「ラトゥール! ディアーナ見なかった?」

広い図書室をぐるっと回り、ディアーナの姿が見つからなかったカインは読書中のラトゥールへと駆け寄った。学園に来たがさらにどこかへ出かけたのか、バッティを巻き込んで学園に来たというのがそもそも嘘なのか。とにかく何でもいいからディアーナの居場所のヒントが欲しかった。

「……。午前中に、来てた。皆と待ち合わせて、……出かけました」

読みかけの本から顔をあげ、迷惑そうな顔を隠しもせずにラトゥールがそう教えてくれる。学園には一度来たようだが、さらに出かけたという。

質問に答えたから、と本に視線を戻そうとしていたラトゥールの頬を、カインが両手で挟んでグイッと顔を向けさせた。真剣な顔でラトゥールの目をのぞき込み、必殺の『美少年顔でおねだり』を炸裂させる。

「誰と? どこに? 行き先聞いてる?」

「……。かお、ちかい」

「誰と、どこに?」

「……」

ほっぺたを淡く染めつつ、ラトゥールはカインの手に逆らって顔を背けようとするが、カインがグッと手に力を入れてそれを阻止している。

「もしかして、口止めされてる?」

「……」

図星らしい。口止めされて、それを守る程度にはディアーナや『皆』と友情が深められているらしい。そのことにカインは一瞬ほっと胸をなで下ろすが、緩みそうになった気を引き締めて問い詰める。

「話してくれれば、僕の師匠にあたる魔法使いを紹介してあげる」

「……」

「魔導士団で結構偉い人だよ? 現場の最前線で働く人に魔法について教わりたくない?」

「……」

「ティルノーア先生っていうんだけど」

「享楽の魔法使いティルノーア! 本当に? 本当に、その人に師事できるのですか?」

いきなり乗ってきた。カインはティルノーアの二つ名を初めて聞いたが、享楽というのは確かに自分の師にあってそうな名前であった。

「忙しいからべったりとは行かないだろうけど、水曜日の魔法勉強会に来てくれるようお願いしてあげるよ」

「ディアーナ嬢や王太子殿下、アウロラ嬢は魔の森に行きました。魔王を倒すって張り切ってましたよ。魔王なんかいるはずないのに……」

ラトゥールはあっさりと口を開いた。ラトゥールは、魔王なんか居ないと思っているし、魔の森も騎士団が定期的に魔獣の間引きをしていることを知っているので、深いところまで行かなければさほど危険は無いと考えていた。魔の森は広いし、日暮れまでに帰ろうとすれば深いところまではいけない。小さな魔獣相手にするなら友人メンバーなら問題ないだろうし、遊んで帰ってくるだろうと考えていたのだ。

しかし、カインは違う。ゲームのシナリオとして魔の森には魔王が出ることを知っているからだ。イベント自体は五年生か六年生で発生するものだが、好感度やスキルが十分あればそれ以前でも発生する事があるのを知っているのだ。伊達にオールクリアはしていない。

「いかなきゃ」

カインはラトゥールのほっぺたから手を離すと、図書室のドアへと駆け出し、そして戻ってきた。

「ラトゥールも来てっ」

カインは座っていたラトゥールの脇に手を突っ込んで抱き上げるように強引に立たせると、抱え込むようにして一緒に歩かせる。

「なんで?」

「戦力がいるんだよ!」

図書室から出たくないラトゥールは、カインに引きずられないように足を踏ん張ってみるが、最後はカインに担がれて馬車へと放り込まれてしまった。

「魔の森へ! 急いで!」

カインとイルヴァレーノも飛び込むように乗り込むと、馬車は学園の正門から大通りへと進んでいった。