軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

良いこと考えひらめいた! (だいたいろくな事では無い)

翌日、魔法学園の学生食堂にて。

「魔の森に、魔王を倒しに行こうと思うの」

ディアーナが突然切り出した話に、アウロラが「ブーッ」と飲みかけていた紅茶を吹き出した。

「ディちゃん。何突然。どうしたの。早くない?」

むせつつ、アウロラが慌ててディアーナの袖を掴む。

アウロラの前世の記憶では魔の森へ魔王討伐に向かうのはクリスのルートのみだった。しかも、ヒロインの好感度とスキル数値によって変わってくるが、魔王討伐イベントが発生するのは五年生か六年生の秋のはずなのだ。まだ一年生の夏の終わりだし、言い出したのが悪役令嬢であるはずのディアーナというのは大分おかしい話である。

「魔の森に、魔王いるのか!? ……いるんですか?」

「多分、居る!」

クリスが話に乗ってきた。

ディアーナは自信満々に魔王はいると言い切り、アウロラは頭を抱えた。

「魔の森は王都の城郭の外だが、徒歩でも行けるような場所だぞ。そんなところに魔王がいたら陛下や王妃殿下の所に話が来ない訳がない」

アルンディラーノは冷静に、パンをちぎりながら反論する。平民に対して箝口令が敷かれていたとしても、それだけの重大事項であれば王子であるアルンディラーノに話が入ってこないはずがない。つまり、アルンディラーノは自分はそんなこと聞いてないぞと言いたいのだろう。

「魔王。そんなの……居ない」

ラトゥールも自分の意見をぼそりとつぶやいたが、声が小さすぎて誰の耳にも入らなかった。

「魔王といえば、魔族を束ねる王でしょう? その存在が居るとなれば、魔族の国との通路がどこかで開いてしまったと言うことになりますから、凄い大事になりますよ」

自国に、魔族の国に通じる穴を封じたと言われる場所があるだけあって、ジャンルーカは魔王について少しだけ詳しかった。が、肝心の魔族の国や魔族がどういったモノなのかはよくわかっていなかったので、そこで口をつぐんだ。

「これは、私が独自ルートで極秘に仕入れた情報なのだけどね」

ディアーナがテーブルに身を乗り出し、声を潜めた、釣られた残りの五人はディアーナの話を聞こうと同じようにテーブルに身を乗り出した。

「魔の森に、黒いドレスの女性が居たっていう目撃情報があるらしいんですの」

ディアーナのこの言葉に、アウロラ以外の全員が目を見開いた。

夏休みにジャンルーカの見送りを兼ねてネルグランディ領に行った者達は、その話を聞いている。魔獣をけしかけてくる、黒いドレスの女の話だ。

「同じ人物なのか?」

「そんなこと、わからないわ。でも、魔獣が出るような森にドレス姿で目撃されるなんて普通じゃないもの」

「まぁ、そうだけどさぁ」

アルンディラーノが疑うような目でディアーナを見つつ問い詰めるが、ディアーナは平然とした顔で受け流す。

「私考えたんだけど、本来魔獣って人や動物に襲いかかってくるばかりの存在でしょう? その魔獣を引き連れて、けしかけてくるって事は黒いドレスの女性は魔獣を操れるっていう事なのよ」

ピッと人差し指を立てて、ディアーナが持論を披露する。

「魔獣は魔族ほどでは無いけれど、魔に寄ったイキモノでしょう? と言うことは、きっと黒いドレスの女性は魔族なのよ」

ムフーと満足そうに鼻息をはいてディアーナは顔を上げた。

「つまり、魔族ではありそうだけど王かどうかはわからないから、『多分』なんだな」

アルンディラーノも顔をあげ、乗り出していた身を引いて腕組みをした。ゆっくりと椅子の背もたれに背を預けると、少し上の空間をにらみつけた。

「どっちにしろ、エルグランダーク嬢の領地に魔獣の出現が増えていた原因じゃないかと言われてる女だ。倒しておけば大手柄ってことだよな」

クリスは身を乗り出したまま、さらにディアーナに近づくようにテーブルの上に身を乗せて聞けば、

「もちろん。魔族というだけでも倒せばすっごい褒められるに違いないですわ」

クリスの問いに、ディアーナもフンフンと鼻息荒く同意する。

魔獣をけしかけてくるから魔族。すごい短絡的で理屈も理論もあったモノでは無い。それでも、黒いドレスを着ている女性、という言葉から想像する人物像が、クリスとディアーナそれぞれの中でいかにも魔族という感じのあくどい姿で想像されていた。

「お兄様に知られたら止められちゃうわ。お兄様は……本当は私にお嫁に行ってほしいらしいから……」

「? 嫁とかわからないけど、確かにカイン様はディアーナ嬢に危険なことをやらせたくないだろうな」

「だから、今度の休息日に、このメンバーだけで魔の森に行きましょう。私たちだけで魔王を倒して、私たちのお手柄にするのよ!」

「そうだな! それだけの手柄を立てればきっと『聖騎士』の称号だって得られるはずだ!」

ディアーナとクリスの中で、白い騎士団礼服を着て王様から勲章を授与される自分の姿が思い浮かんでいる。想像の中ではカインも「さすがディアーナ! 心配いらなかったね! 僕の妹は最強だ!」と絶賛するし、アルンディラーノは「やっぱり僕の護衛はクリスしかいないよ!」と抱きついて喜んでくれていた。

「魔王なんていない。私は行かないよ。森の中を歩くぐらいなら図書館で本が読みたい」

ディアーナとクリスが盛り上がってる隣で、ラトゥールが小さく手を上げて不参加を表明した。

「……うぅー。うぁあああ。行きます。治癒魔法使える人が居ないとヤバそうなのでついて行きます」

どこから響いてきたのかわからない程の低音でうなったアウロラは、葛藤の末について行くと宣言した。本当は行くのをやめさせたかったが、クリスとディアーナのノリノリな勢いを止められる気がしなかったので、せめて死なせないように、とついて行くことに決めたのだった。

「面白そうだからついて行く。が、僕が行くとなるとエネルかファビアンが付いてくる事になるが」

アルンディラーノがそう言い、アウロラが「希望が見えた!」という顔をした。

エネルとファビアンは、近衛騎士の中でも王太子であるアルンディラーノの警護に良く就く二人の名前だ。ファビアンは副団長で、クリスの父である。

「だ、ダメに決まってるだろう! 父上にバレたら絶対怒られるし、そもそも行かせて貰えないぞ!」

「そうよ! 大人が付いて来ちゃうと、大人に手柄を取られてしまうわ!」

「そ、そうか。では、当日は護衛を捲いてから合流しよう。……結局全てが終わった後に怒られる事には変わらないだろうけど……」

クリスとディアーナに勢いよく反対されたアルンディラーノが、若干引き気味に承諾した。捲くことが出来なかった場合は合流を諦める、と言って待ち合わせを切り上げる時間について手早く決めた。

「で、ジャンルーカはどうする?」

アルンディラーノが隣に座るジャンルーカへと話を振る。ここまで黙って話を聞いて、黙々と食事をすすめていたジャンルーカ。ぐるりとテーブルに着いている面々の顔を順に見渡していく。

最後に、斜め前の席へと視線が行くと、泣きそうな顔をしたアウロラと目があった。

好感度とスキルレベルが全然足りていない現時点で挑めば、負けイベントとなることが確実だと思っているアウロラは、生き延びるため、とにかく魔王に会ったら体を乗っ取られるより前に逃げ出す事を考えていた。

それには、戦力が一人でも多い方が良い。ジャンルーカは騎士の国から来ただけあって剣技は巧いし瞬発力もある。その上、アウロラはジャンルーカの精神年齢がこの場にいる男子達より若干高いと評価しているので、冷静に撤退の判断をしてくれると信じていた。

「私も行きましょう。カインにはお世話になっているし、倒すまで行かなくても正体がわかればネルグランディ領のお役に立てるでしょうし」

アウロラが必死に涙目に込めた懇願は、無事にジャンルーカに届いたようだった。

「よーし。魔王討伐隊は、次の休息日にミッションを実行します!」

「お手柄とって、聖騎士に任じてもらうぞ!」

オー! と元気よく拳を振り上げるディアーナとクリスとアルンディラーノ。ジャンルーカは控えめに手を上げて、ラトゥールは他人のふりをしてそっぽ向いて居たし、アウロラは頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。

連帯感の無い魔王討伐隊が、こうして結成された。