軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

裸族なの!?

アンリミテッド魔法学園に、いよいよ夏休みがやってきた。

ド魔学の夏休み前最後の日は、通知表が配られたりロングホームルームで「盛り場には近寄らないように」と注意事項が通達されたりすることも無く、時間割通りに授業が進められた。生徒達はそわそわと上の空で授業を聞いていたが、教師達はお構いなし。いつも通りにのんびりと解説をしたり鬼のような板書をしたり若手の助手に任せてひなたぼっこをしたりして授業を進めていた。

変わったことと言えば、その日の最後の授業で教師が口にする言葉が「ではまた明日」ではなく、「ではまた休暇明けに」だったぐらいで、なんてこと無い一日として終了した。

普段通りの授業が行われたということは、授業終了時点ですでに午後になっていると言うことであり、寮住まいの学生達の大多数は領地への帰省は翌日に持ち越す事にしたようだった。王都内に家のあるアウロラや、エルグランダーク家に前泊する事になっているジャンルーカとラトゥールはその日のうちに寮から退出するので、部屋を綺麗に片付けた後は鍵を寮監に預けて退出となった。

「寮内も大分賑やかでしたね」

小さなカバンを一つ足下に置いて、アウロラが寮を見上げながら言った。

「今日はいつも通り寮に泊まって、明日の早朝から帰省する生徒も多いみたいだからね。今から部屋の掃除をする生徒もいるらしいよ」

アウロラの隣に立ち、おかしそうに笑うジャンルーカの荷物は大きなボックス型のカバンが四つ。後ろにサイリユウムから付いてきていた小間使いがひっそりと気配を消して立っている。

「長期休暇の、前だからって……なんで掃除するのか、わからないな」

ジャンルーカの少し後ろに立つラトゥールは、制服のポケットに小型の魔法図録と魔石図鑑をいれているだけで、特に荷物などは持っていなかった。

「ラトゥールは、もうちょっと普段から部屋の掃除をしたほうがいいと思うよ?」

「?」

「私の部屋に、まだ君の本が置きっぱなしなんだよ?」

「ありがとう」

そうじゃない、そうじゃないよ! という顔を後ろに控えているジャンルーカの小間使いがしているのを、アウロラだけが目にしていた。ジャンルーカは困った年下の兄弟でも見るかのような目でラトゥールを見つめて、肩を竦めるだけで済ませてしまった。

「ところで、ラトゥール様は荷物無いんですか?」

アウロラがジャンルーカの肩越しにラトゥールに話し掛ける。制服の両方のポケットに一冊ずつ小型の辞書を入れている以外に、手荷物の様な物を何も持っていない。ラトゥールはどさくさ紛れに入寮した経緯があるので元々荷物が多くない事はアウロラにも予想ができるのだが、それにしても手ぶら過ぎると思ったのだ。

「あるけど」

ラトゥールはそう言ってポケットを軽く叩いて見せた。そうじゃない、そうじゃないよ! という顔を今度はジャンルーカとアウロラがする羽目になった。

そんな感じに三人で談笑をしている所に、寮の門から一台の馬車が入ってきた。ディアーナ自慢の白い馬車である。エルグランダーク家の紋章がドアに立体的に取り付けられており、装飾も美しい大きな馬車だった。

「おまたせ! 学園前の車寄せが混雑しちゃって、出てくるのに時間掛かっちゃった」

馬車の窓を開け、ディアーナが大きく手を振った。アウロラも大きく手を振り返し、ジャンルーカはひじから先だけを持ち上げて上品に手を振り返した。ラトゥールはもじもじしながら体の横で手首から先だけを小さく振ってみたのだが、誰も気がついていなかった。

「ラトゥールは荷物ないの?」

エルグランダーク家の御者であるバッティとイルヴァレーノ、ジャンルーカの小間使いで手分けしてジャンルーカの荷物を馬車に積み込んでいく様子をみながら、カインが首をかしげた。ラトゥールが先ほどアウロラにしたように制服のポケットを叩いてみせると、カインとディアーナが目を丸めて同じ顔をして驚いた。

「いやいやいや、今日ウチに泊まって、明日から四日間の馬車の旅だよ? その後もネルグランディ領の城でジャンルーカ様のお迎えが来るまで過ごすんだよ?」

「私服はどうするんですの? 換えの下着は? 走れる靴や戦える服装も無いと遊べませんわよ?」

カインとディアーナがそろってラトゥールに詰め寄れば、ラトゥールは慌ててジャンルーカの背中にピョッと隠れてしまった。

「夜、洗って……朝、乾くから」

「え! ラトゥール様って寝るとき裸族なの?」

ジャンルーカの背中に隠れてぼそりとこぼしたラトゥールの言葉を、アウロラが拾ってひっくり返す。「KWSK!」と鼻息も荒くジャンルーカの背中をのぞき込むアウロラに、「今の何語ですの?」と反対側からのぞき込んでアウロラにツッコミを入れるディアーナ。

「荷物積み終わりましたよ」

とイルヴァレーノにカインが背中を叩かれたのを切っ掛けに、わちゃわちゃとした会話を一旦終了して皆で馬車へと乗り込んだ。ジャンルーカの小間使いとイルヴァレーノは御者席へ、カインとディアーナ、ラトゥールとジャンルーカとアウロラは馬車の中。アウロラは職人街の近くで下ろすことになっている。

白くて大きな馬車がゆっくりと学園寮の敷地から出ていく。入れ違いに学園から寮へと戻っていく学生とすれ違うのを、知り合いでもいたのかジャンルーカが手を振って見送っていた。

学生達がここに戻ってくるのは、約二ヶ月後の事になる。