軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

復讐に燃えるクリス

ラトゥールはまず、家に帰るのをやめた。

入寮するには親の承諾がいるので正式な寮生ではないのだが、ジャンルーカの部屋が必要以上に広いということでそこに転がり込んでいる。

「兄上とカインみたいな、寮の同室って憧れていたんですよね。王族と言うことで気を遣っていただいて個室にしてくださったんでしょうけど、それだけが残念だったんです」

と言って、ラトゥールが居候することを歓迎していた。

下校時間となってうやむやになってしまったラトゥール君会議だったが、翌日から昼食の時間に少しずつ開催されていた。

「カインは昼食時間が一年生とは違うんじゃないの?」

とアルンディラーノに聞かれたが、カインが答える前に

「お兄様は前から私がお友達とお昼ご飯を食べているのを見守ってくれていたもの。時間一緒なのですよね?」

ディアーナの無邪気な笑顔に、カインはにっこりと微笑みで返事をした。

「……バレてるじゃないですか」

小声で文句を言うイルヴァレーノに、カインはディアーナから見えない位置で足を踏んづけてやった。

「僕の持論、そしてティルノーア先生も賛成してくれてるんだけど、魔法使いにも体力は必要なんだよ。魔力をギリギリまで使い切ったとき、最後に踏ん張れるかどうかはやっぱり体力。そして、でかい魔法を使ったときなんかは自分の魔法で自分が吹っ飛ぶ事もあるからね。騎士になる必要はないけど、体力は付けた方が良い」

「クリスみたいに、魔法剣士を目指してみたらどうだ?」

カインの提案に、アルンディラーノが便乗してくる。

「クリスは、本当はゲラントと同じ騎士学校に行きたかったらしいんだけどな、剣を振り抜く事で風魔法の衝撃波を打ち出すって技が出来るせいで魔法学園に入学させられたって経緯があるんだ」

最初は荒れていたが今は楽しそうだぞ、とアルンディラーノが付け加えている。

剣と魔法が使えるから、というのもあるだろうが、おそらくアルンディラーノの護衛をかねてこちらの学園に入学することになったのもあるんだろう。

クリスが楽しければ、アルンディラーノの罪悪感も減るというものだ。

「体が小さくて、軽くて、腕力が弱くても勝てる剣術でしたら、私もコツをお伝えすることができますわよ」

ディアーナもノリノリで乗っかってくる。

「そういえば、ジャンルーカ殿下は早起きして寮の周りを走っているみたいだ……」

居候をはじめて初日は、歩いて通っていたときの習慣で朝早く目が覚めたラトゥール。同室のジャンルーカを起こさないようにと静かに起き上がったら、走り終わって汗まで流したジャンルーカに『おはよう、早いですね』と声をかけられて驚いたので記憶に残っている。

「サイリユウムは騎士の国だし、ジャンルーカ殿下はそこの王子様だからね。魔法使いの体力のためではなさそうだけど」

「でも、せっかくの同室ですもの。ジョギングをご一緒にしていただくようにお願いしてみたらいかがかしら。一緒に走る人が居ると、長続きするものですわ」

ディアーナは「ねっ」と振り向いて、後ろに控えていたサッシャに同意を求めた。サッシャはすました顔で「そのとおりでございますね」と答えている。

「ジャンルーカ殿下のお部屋のソファーは、私の実家のベッドより寝心地良いです」

ジャンルーカの寮室に居候するようになってから、ラトゥールの顔色は良くなってきていた。

朝と夕飯は寮の食堂に紛れて食べているらしいのだが、読書に夢中になっているラトゥールをジャンルーカが無理矢理引っ張って食べさせているらしい。

「最初はね、こっそり二人分頼んでラトゥールの分だけ部屋に持って帰るとかしていたんです」

おかしそうに、ジャンルーカが話す。

「でもね、よくよく聞いてみると、正式に寮生じゃない生徒が結構紛れてるみたいなんですよ。親と喧嘩して帰りたくないとか、没落寸前で家に帰ってもあんまり食べられないとか、理由はそれぞれですけど。寮側は異性を引っ張り込むとかでなければその辺寛容みたいなんで、今ではラトゥールも食堂で堂々と食べてますよ」

「実家だと本を読んでるといつの間にか夜中で、もう飯も残ってないとかあったんだけど、ジャンルーカ殿下が時間になると本を閉じてしまうから」

そう言ってはにかむように笑うラトゥールの血色は良い。

放課後に行われている、剣術補習にもラトゥールは参加するようになった。最初は木刀を握るのも躊躇していたみたいなのだが、魔力で強化する練習をする際に

「この丸太を意地悪な兄ちゃんだと思って思いっきり叩けよ」

とクリスに言われてから、めちゃくちゃ張り切って剣を振っているらしい。

最初は木屑を魔力で強化するのがうまく行かず、丸太を叩くと木剣が粉々に砕けていたのだが、やはり魔力操作が上手く魔法に関する勉強や考察が苦にならないラトゥールである。すぐに丸太の方が欠けるような強化が出来るようになっていた。

魔法学園に教師として派遣されている王宮騎士はラトゥールの兄や父よりも教えるのがうまいようで、段々と木刀を振るのも苦痛ではなくなって来たようだ。

また、王宮騎士は何人かの持ち回りで教えに来てくれているのだが、あるときやってきた騎士はラトゥールの二番目の兄と知り合いだったようで、

「シャンベリーの弟なのか、弟は全然ダメだ、センスがないとか言っていたけどそんなことないじゃないか」

と褒めてくれた。

「アイツは何でもかんでも根性論と精神論で片付けようとするからなぁ。グッと握ってバッと振りかぶって、ズバーッと切りつけろ。みたいな指導してたんじゃないか?」

「はい、父も二番目の兄もそんな感じでした。騎士の訓練というのはそういうものではないんですか?」

騎士の言葉に、同意の返事をしたところ。

「そんなわけねぇじゃん!」

と、否定の声を上げたのはクリスだった。クリスも、アルンディラーノ達と一緒に近衛騎士団の訓練に混ざる前は副団長である父や家に遊びに来る部下の騎士達に剣を教わっていたが、そんな雑な教え方をしてくる騎士はいなかった。

「基本中の基本、立ち方から教えてやる! そんな騎士として雑なヤツ、やっつけてやろうぜ!」

なぜか、尊敬する父を含めて騎士全体を馬鹿にされたように感じたクリスが、ラトゥールの復讐に人一倍燃えるようになった。