軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣術訓練 4

翌週の水曜日、アルンディラーノは自分の侍従としてゲラントを魔法学園へと連れてきた。

「学校を休ませてすまないな」

「いいえ、殿下のお役に立てるのであればこれほど光栄なことはございません」

ゲラントの腕には、『一年一組アルンディラーノ・エルグランディス』と大きく書かれた腕章がピンで留められていた。名札であれば何でも良かったのだが、アルンディラーノがカインのマネをしたかったのでこうなった。

「私の名前で広めの使用人控え室を借り受けました。殿下の授業中に中の家具類を壁に寄せて片付けておきましたので、心置きなく………とは行かないかもしれませんが打ち合うことは可能かと思います」

「うん。ありがとうゲラント」

放課後になり、両側に偽物の窓が並ぶ廊下を進んでいく。ゲラントが申請した控え室も、イルヴァレーノとサッシャが連名になっているのでその二人はゲラントがいなくても部屋のドアが見えるはずである。

「ここですね」

ゲラントが立ち止まり、壁に向かってドアノブを掴むような仕草をすると、壁に隙間が出来てドアが現れた。開いているドアはアルンディラーノにも見えるのでするりと室内へと入り込むと、そこにはすでにディアーナが立っていた。

動きやすいように髪を一つに結び、制服の上着は脱いでシャツだけになり、下はズボンを履いていた。

「お待ちしておりましたわ、アル殿下。故事にある『わざと遅れて対戦者を苛つかせる』作戦でしたかしら?」

「バカを言うな。そんな卑怯な戦法取らなくったって今度は負けないからな」

アルンディラーノも上着を脱いでゲラントに渡し、シャツの袖をめくりながら部屋の中央へと進んでいく。

「今回は止めてくださる副団長様はおりませんのよ? どうぞお怪我なさらないようにお気を付けくださいまし」

「いい加減その世間を欺く言葉遣いをやめたらどうだ。ここには親しいモノしか居ない」

クリスから木刀を受け取り、軽く振って調子を見る。アルンディラーノが木刀をにぎったのをみたディアーナも、木刀を杖のように立てて体重をかけていた姿勢を正して木刀を握り直した。

「この口調も大分身について参りまして、最近では真の姿でもこんな感じでしてよ」

ソファーやテーブルが壁に寄せられ、広く床が広がっている使用人控え室。その中央に、三メートルほどの距離を置いてディアーナとアルンディラーノが対峙した。

壁際には、カインとジャンルーカとクリスとアウロラ、イルヴァレーノとサッシャが並んで見守っていた。

「今回は、使用人控え室としては広いものの、剣術の試合をするには狭い場所です。最初にひと太刀入れた時点で勝負ありにします。防具を着けていないので、寸止めを心がけてください」

ゲラントが二人の間に立ち、二人に今日の試合のルールを説明していく。

「カイン様の侍従であるイルヴァレーノ様と、アル様とディアーナ嬢のご友人のアウロラ嬢が控えています。お二人は治癒魔法が出来るので来ていただいたのですが、それで大けがして良いということではありませんからね」

「わかったわかった。ゲラント、早くはじめてくれ」

アルンディラーノの言葉に苦笑いをひとつこぼし、ゲラントが片手をまっすぐ上に上げた。

「正々堂々と、騎士道に恥じぬ試合を望む」

ゲラントの宣誓の声に、ディアーナとアルンディラーノが木刀を構えた。

「はじめ!」

号令とともに、ディアーナは体を倒すように前傾姿勢になり、同時に床を強く蹴った。腕力では男子に勝てないディアーナは、常にスピード勝負を仕掛けていく。

八年前にはそれで負けているアルンディラーノは、今回は木刀を頭上に振り上げるようなことはせず、ディアーナの手元を凝視して、予備動作を見逃さないように集中している。

ディアーナの低い位置から胴を狙う一撃を、かろうじてアルンディラーノが木刀で受けた。ディアーナはそのまま通り過ぎると壁際まで突進し、くるりと反転して壁を蹴る。アルンディラーノも足を開いてしっかりと地を踏みしめて、振り返る勢いを利用して木刀を振り抜いた。

軽い体と運動神経を使ってスピードで仕掛けてくるディアーナの攻撃を、アルンディラーノは動体視力とディアーナよりは長い手足を大きく動かすことで受け止め、流している。

木刀同士で打ち合うこと三合。ディアーナが下からすくい上げるように振り上げた木刀を、アルンディラーノが上からたたきつけるようにして打ち返す。お互いに握りの近くを叩かれたことで木刀が手から離れて飛んで行ってしまった。同時に近くに落ちた方の木刀を拾い、そのまま相手に突き出した。

「そこまで!」

ゲラントが試合を止めたとき、ディアーナの木刀はアルンディラーノの喉元を突くように、アルンディラーノの木刀はディアーナの首を横から薙ぐように添えられて、止まっていた。しかし、ディアーナの腕はすでに伸びきっていて、さらに踏み出さないとアルンディラーノの喉には届かないという位置にあった。アルンディラーノは寸止めだが、ディアーナは踏み込みが足りなかったのだ。

「限りなく引き分けに近いですが、アル様の勝ちですね」

ゲラントの言葉で、二人は木刀を手放してその場にしゃがみ込んだ。

試合時間は三分も無かっただろうが、集中していたせいで二人の顔には玉のような汗がうかんでいた。息も荒い。

壁に控えていたカインが、手をパチパチと打ちながら二人の元に歩いてきた。

「見事な試合だったよ。二人ともちゃんと寸止め出来て偉かったね」

カインが動いたことで、クリスはタオルを持ってアルンディラーノの元に駆けつけ、サッシャはディアーナの元に駆けつけた。

カインはしゃがみ込む二人の間に跪くと、まずはデレデレの顔でディアーナの頭を撫でた。

「ディアーナ強くなったねぇ。ジャンルーカ殿下とやったときよりも強くなってるんじゃ無い?」

「お兄様もイル君もいない間、サッシャが付き合ってくれたんですのよ」

にこにこと笑いながら、素直にカインに頭を撫でられていたが、サッシャがタオルで汗を拭き、髪を整え直すというのでカインは手を離して振り向いた。

「アル殿下。お強くなられましたね」

「カインが留学中も、ずっと近衛騎士団で訓練していたからな」

「ディアーナのお転婆が周囲にばれないようにご配慮いただき、ありがとうございます」

そう言って、カインは跪いたままゆっくりと頭を下げた。

「僕は、どうしてもディアーナと戦いたかったんだ。本領発揮もできないまま勝ち逃げされてたんじゃ気が収まらなくてさ」

「そうですか」

「僕がモヤモヤするだけだから、我慢してればだれにも迷惑かけないし、時間がすぎれば気にならなくなったかもしれないけどさ」

「はい」

頭を下げているカインの肩に、アルンディラーノがそっと手を置いた。

「昔カインが、我慢をしちゃダメだって言ってくれただろ。我慢をしなくて良い努力をするべきだって。だから僕、だれにも見られない場所で、だれにも知られないように試合が出来るように場を用意したんだ。クリスやジャンルーカにも手伝って貰ったけど」

アルンディラーノのその言葉を聞いて、カインは本当に嬉しそうに、柔らかい笑顔を顔に浮かべた。

「過去と決着を付けるために、ディアーナと試合がしたいとちゃんと僕に言ってくれてありがとう、アルンディラーノ殿下。君が我慢をせずに済んだことが、僕はとても嬉しいです」

「僕がディアーナに勝ったことは、ここにいる人にしかわからないし、今後も広まることは無いけれど。それでも、僕はこれでもっと前に進めるよ。カイン」

そう言って、アルンディラーノはクリスから渡されたタオルに顔を埋めてしまった。体が小さく震えているけれど、アルンディラーノは顔の汗を拭いているだけ。

みんなでそういうことにしてそっぽを向いて見てないフリをした。