軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意地っ張りな魔法使い見習い

体に霧をまとわせ、魔力を体に巡らせるのと合わせて霧を動かしてみせたラトゥールに対して、カインはあっさりと褒めた。

「口だけじゃなかったんだね。きちんと実践出来ていて偉いじゃ無いか」

そう言って、ラトゥールのぼさぼさ頭をぐりぐりと撫でた。

「右回りですわね」

「右回りだな」

その後ろで、侍従コンビがコソコソとしゃべっている。コソコソしているが、きっちりカインにもラトゥールにも聞こえる音量でしゃべっているのがわざとらしい。

「ラトゥール。魔力の体内循環に関して立体を意識するのは二年生で、腕や足といった部位を意識するのは三年生、それらを総合して全身を効率よく巡らせるのは四年生で習う内容なんだよ」

頭をぐりぐりと撫でながら、優しい声でカインが諭す。

「君は、すでに四年生で習う範囲のことを理解しているみたいだけど、クラスの他の子にはそうじゃない子もいるんだ。教師の解説はそういう子達に譲ってやってくれないか」

「……」

ラトゥールはおとなしく頭を撫でられつつも、口をキュッと結んで開かない。

「私も、ちゃんと四年生で習う事が出来てるって事ですわね?」

そう言ってディアーナも頭を差し出してきたので、カインは空いてる方の手でディアーナの頭も優しく撫でた。

「ディアーナは天才だからなぁ。ティルノーア先生の感覚派な説明でそれを身につけちゃったから、なぜそれが効率が良いのかとか、理屈の方が追いついてないんじゃないかな」

「でしたら、ちゃんと授業を受けて学ぶべきですわね」

カインに頭を撫でられつつも、うんうんと大げさに頷いたディアーナは、次にラトゥールの方へと向き直った。

「ラトゥール様。自慢ではありませんが、私は家庭教師の先生とお兄様に恵まれたおかげで魔法のお勉強は大分進んでおりますの。学園の授業で物足りない所については、私とお話しませんこと?」

「エルグランダーク嬢と?」

「ええ。その代わり、授業中はおとなしく先生のお話をきくんですの」

ディアーナとラトゥールの頭に手を置いているカインを挟んで、二人で次の約束の話をしている。もちろん、カインは二人きりで会話などさせる気はないが、空気を読んで今は黙って様子を見ている。

「もちろん、お兄様も参加してくださいますわよね? 四年生の意見をお伺いしたいわ」

「もちろんだよ!」

ディアーナの方からカインを巻き込んできたので、結果オーライである。

「そろそろ、授業が終わりますわね。教室にもどりませんと」

「この部屋は、エルグランダーク家使用人用として継続的に借りるように申請しよう。そうだなぁ……。確か、ディアーナ達の組は水曜日の午後が早くおわるんだっけ」

「そうですわね」

「じゃあ、水曜日の放課後にここで魔法の勉強会をしようか」

次の約束をしたところで、カランカランと軽い鐘の音がなる。ディアーナ達一年一組の授業がおわった合図だった。

それを機に、ディアーナとラトゥール、そしてサッシャは使用人部屋を出て教室へと戻っていった。

カインとイルヴァレーノの二人だけになった部屋は静かで、心なしか照明も暗くなったようにみえる。

「結局、用意した物はつかいませんでしたね」

イルヴァレーノが、はさみやアイロンを鞄にしまおうと手を伸ばすが、

「次か、その次か……。近いうちに使うからそのまま置いておいて」

とカインが止めた。イルヴァレーノはそうですかと答えて道具をそのままにし、冷めてしまったお茶を入れ直すために茶器をテーブルの上から片付けはじめた。

「カイン様、よく怒りませんでしたね」

「イキッてるだけのガキだもん。かわいいもんじゃないか」

「イキる?」

魔法道具の湯沸かしポットからお茶を入れ直し、カップをカインの前に置いたイルヴァレーノは先ほどまでラトゥールが座っていたソファーへと腰を下ろした。

自分の分のカップを持ち上げて、ふぅふぅと息を吹きかけている。

「氷入れる?」

「薄くなるじゃないですか」

カインが指先を凍らせながら聞けば、イルヴァレーノは眉間にしわを寄せてカップをカインから遠ざけた。

「シャンベリー家はさ、騎士一家なんだよ。そんな中で一人だけ魔法使いになりたくて、独学で魔法を学んできたんだ。家族を説得してようやく入学した魔法学園の授業が思ったより低レベルで、がっかりしたんだろうな」

「そんな情報、どこから仕入れてきたんですか」

「クリスから聞いたんだよ」

「あぁ、ヴェルファディア家も騎士一家ですもんね」

嘘である。ラトゥールの情報はクリスから聞いたのではなく、ゲームをクリアして仕入れた情報だ。

代々騎士として国に仕えているシャンベリー家は、当然のように息子達も騎士になると思っている。両足で立てるようになる頃から木刀を振らせているとかいないとか。

そんな中、ラトゥールだけは魔法使いに憧れ、魔法使いになりたいと願ったのだ。最初はただの我が儘だと無視して木刀を握らせていた両親だったが、稽古の合間に本を読み、寝る時間を削って本を読み、ついには寝不足で倒れたラトゥールを見て、一旦は魔法使いを目指すことを認めたのだ。

しかし、魔法に関して知識も伝手もないシャンベリー家が雇った魔法の家庭教師は質が悪く、ラトゥールはしばらく魔法を使うことが出来なかった。性格の相性も悪く、ラトゥールは家庭教師と大げんかをした上で解雇してしまった。それを受けて両親はラトゥールを叱り、自分で追い出したのだからと次の魔法の家庭教師を雇ってくれなかった。

いつか諦めて騎士を目指す道に戻ってくるだろうと、ほっておかれたのだ。人間不信気味になったラトゥールは、それ以降は独学で魔法を勉強し、独学で火と水の魔法を極めた……というのが、ゲームの設定である。

「とにかく、家族は全員騎士だし魔法の家庭教師もいない状態だったんだ。魔法について語り合える人が居なかったんだろうな。なのに、学園に入ってみても教師が低レベルの授業をしているし周りの生徒は真面目にその話を聞いているんだ。自分と話の合うヤツがいないって思っても仕方が無いさ」

「改めて習うとなれば、基本から始まるのはあたりまえだろうに」

呆れたような声で相づちを打ちつつ、カップに口を付けて「あちっ」っとカップをまた遠ざけていた。

「基本から順番に教えてくれる人がいなかったんだ。仕方が無い」

「それで、教師の代わりに話し相手になってやろうって?」

おやさしいこって、と皮肉な表情をつくってイルヴァレーノが鼻で笑う。カインもニコーっとわざとらしい笑顔を作って人差し指をカップに向け、イルヴァレーノのカップに氷を落っことした。

「天才を、一般人に落としてやろうって事だよ。やさしくなんかないさ」

背もたれに腕をかけ、天井を見上げた。使用人用の部屋でさえ、天井の中を鳥の影が通り過ぎていく。もしかしたら、あれは監視カメラの役割をしているのかもしれないとふと思った。

イルヴァレーノやアルンディラーノのように、ラトゥールも幼少時代から出会う事ができていれば、ひねくれる前に手を差し伸べることができただろうか。

例えば、ラトゥールが魔法の家庭教師を解雇してしまった後に、一緒に魔法の勉強をしようと手を差し伸べ、魔法について語らう友となっていれば、必要以上に魔法にのめり込む事も人間関係を諦めることも無かったのではないか。

ソコまで考えて、カインは静かに首を振った。

「たらればを言い出したら切りが無いよな」

カインの独り言になれているイルヴァレーノは、そのつぶやきを聞き流してぬるくなったお茶を静かに飲み干した。