軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

授業妨害する君の名は

入学式からひと月ほど経ったある日。エルグランダーク家のティールームにジャンルーカが遊びに来ていた。

「魔法の勉強、とっても楽しいです」

そう言ってニコニコと笑うジャンルーカの声は弾んでいる。ティールームには、ジャンルーカの他にカインとディアーナ、そしてアルンディラーノがそれぞれ好きな席に座って好きなお茶を飲んでいた。

「クリスに聞いたけど、ジャンルーカはすっごい魔法が強いらしいな」

「強いって……」

焼き菓子を頬張りながら、アルンディラーノがジャンルーカを褒める。凄いでもうまいでもなく、『強い』という褒め言葉のチョイスにジャンルーカは思わず苦笑いをしてしまう。

「一組じゃなくて二組になっているのが不思議なぐらいだって言ってたぞ」

「入学式の時には、カインに教わった基本的な魔法しか使えませんでしたから。来年は一組になれるように勉強中ですよ」

ディアーナとアルンディラーノはそれぞれ自宅から、ジャンルーカは学生寮から学校に通っている。そして、貴族なので学校の玄関まで馬車が迎えに来る為前世の学生みたいに「一緒に登下校する」という習慣が無い。魔法学園は時間割も割とアバウトなので、組が違うと昼食時間が異なることもあってジャンルーカとディアーナ・アルンディラーノの間で情報交換が難しい。ということで、ジャンルーカに相談されたカインがこの場をもうけたのだ。

「ジャンルーカ殿下。何か不便とかは無いですか?」

カインが聞けば、ジャンルーカは小さく首を横に振った。

「ディアーナ嬢が、お友達に私を『友人』として紹介してくれたおかげで、ケイティアーノ嬢やノアリア嬢にとても親切にして貰っています」

ジャンルーカの言葉に、ディアーナがグッと親指を立てて応えている。

「僕もちゃんとクリスに頼んでおいたぞ」

「はい。クリスも良く声をかけてくれるので助かっています。ありがとう、アルンディラーノ」

そんなディアーナに対抗したアルンディラーノの言葉にも、ジャンルーカはニコニコと笑顔で返している。魔力を持っていても差別されない、のびのびと魔法を使える生活が楽しくて仕方が無い様子に、カインもほっと胸をなで下ろしている。

ゲームド魔学の『隣国の第二王子ルート』は、言葉や文化の違いに戸惑い、家庭教師による基礎教育が前提の授業について行けずに悩んでいたジャンルーカが「平民だから魔法は一からの習得だし貴族の文化には慣れていないから」という共通点のあるヒロインと行動を共にしたり励まし合ったりして仲を深めていくというシナリオになっている。

現実のジャンルーカは、ディアーナとアルンディラーノを介して友人が出来ていて、ちゃんと学校になじめているのであれば『隣国の第二王子ルート』のヒロインと特別に仲良くなる可能性は限りなく低くなる。もちろん、同学年なのでヒロインと普通に仲良くなることはあるだろうが、唯一無二の相手にはならないだろう。

父親に無理矢理留学させられて、ディアーナと離ればなれになってしまったときはどうしようかと思っていたが、こうして楽しそうにしているジャンルーカの様子をみれば、結果オーライだったといえるだろう。

「今日のお茶は、特別うまいな」

「いつもと同じ茶葉ですが」

「気分の問題だよ」

「そうですか、おかわりは?」

「貰うよ」

楽しそうにおしゃべりをしているディアーナとジャンルーカとアルンディラーノを眺めながら、イルヴァレーノが入れ直したお茶を口にする。

マクシミリアンは教師にならなかった。ジャンルーカはしっかりと学園の同級生達になじめている。こうなれば、当面の問題は『同級生魔道士ルート』の攻略対象者、ラトゥールだけである。『腹黒後輩ルート』については、来年になってから改めて考えるしか無い。

「ジャンルーカ様、二組は今どの辺をやっていらっしゃるの?」

「魔力技術論は、魔力の体内循環の効率化について習いました。来週から実践と言うことになっています。魔法操作については、基本呪文の教科書が二十ページぐらいまで進んだ感じですね。ディアーナ嬢、一組はどのような感じですか?」

「一組は、基本呪文の教科書は二十五ページまで進んでいますけど、魔力技術論はちょっとそちらより遅れているようです」

「一組はアウロラ嬢以外はみんな貴族だったんで、基本魔法の呪文はほとんどの生徒が暗記済みだったんだ。たぶんそれで、二組よりも進みが早いんだと思う。ただ、魔力技術論がなぁ……」

それまで楽しそうに会話をしていたのに、授業の進み具合の話になってアルンディラーノの顔が曇った。

魔力技術論というのは、魔法の素である『魔力』を使う為の技術について学ぶ授業の事だ。自分の体内にある魔力の感じ方や、体内を巡らす方法と言った基本的なことから、体内魔力の育て方や蓄積方法、魔石へ魔力をためておく方法などの応用方法まで、文字通り魔力を扱うための技術について教わる。

アンリミテッド魔法学園に通うような貴族家であれば、入学前に魔法の家庭教師を付けていることが多いのだが、その家庭教師が『感覚派』だったりするとこの授業で苦労するらしい。

ちなみに、ティルノーア先生は『超感覚派』だったのでディアーナはとっても新鮮な気持ちで学校の授業を聞いている。カインは四年生への転入なので教科書をさらっと読んで知識としてだけ頭にいれてある。

「ジャンルーカ様は、魔力技術論の授業を受けて、どう思われましたか?」

アルンディラーノの言葉を受けて、ディアーナも表情を曇らせつつ、ジャンルーカに質問をした。

「魔力技術論、体内に魔力を循環させるのに右回りにするか左回りにするか個人差が出るというお話が面白かったです。それまで全然意識していなかったんですが、授業で聞いてから意識してみたら私は右回りでした」

「無意識に巡らせる方法と、効率が良い方向は違う場合があるってのは習ったか?」

「昨日教えて頂いたのがそれですね。休息日明けの実践で逆回転をやって見ることになっています」

「それの授業内容を聞いて、ジャンルーカ様はどう思われました?」

「え?」

アルンディラーノとディアーナから交互に質問攻めにされ、ジャンルーカの顔に戸惑いが生まれる。

「どう、と言われましても。そうなのか、僕はどちらだろう? としか思いませんでしたが……」

困惑した顔で、ジャンルーカがディアーナとアルンディラーノの顔を交互にうかがう。カインも、三人の会話を微笑ましく見守っていたのだがどうにも雲行きが怪しい。

「アルンディラーノ殿下。ディアーナ。魔力技術論の授業で何かあったの?」

どう答えて良いか迷い、困っているジャンルーカに代わってカインが二人へと問いかける。

組み分けテストで優秀な生徒が集められている一組であれば、家庭教師が『感覚派』だった生徒が多い可能性が高い。優秀な魔法使いほど感覚で魔法を使っていることが多いからだ。

そのせいで魔力技術論の授業が遅れることもあるか、と思って聞いていたのだが、アルンディラーノも『超感覚派』のティルノーアに習ったディアーナも授業で詰まっている様子はない。

「うーん。なんて言えばいいのかしら」

「魔力技術論の授業中、いちいち教師の説明にツッコミを入れて議論になるヤツがいるんだよ。そいつのせいで授業が全然進まないんだ」

ディアーナが言葉を選んでいるうちに、アルンディラーノが口をとんがらせて文句を口にする。ジャンルーカへの質問は、教師に習ったことに疑問を持ったりしたかを聞きたかったらしい。

「わからない事があって質問することが多い、とかじゃなく?」

カインが質問を重ねれば、

「「違う!」」

とディアーナとアルンディラーノの声がそろった。

「右回り、左回りという言い方は不足がある。体が立体である以上は上下左右、前後といった動きが魔力にもあるはずだとか言っていたな」

「効率の話をするのであれば、体全体を一周させるのでは無く体の部位毎に分け魔力を回転させるべき。なんてことも言っていましたわ」

二人の説明を聞いてカインは理解した。その生徒はおそらく頭が良すぎるのだ。体内に魔力を循環させるときに意識する方向を立体的に意識するとか、体全体を一周させるのでは無くて腕なら腕だけ、足なら足だけで魔力を循環させた方が場合によっては効率的であるとか、それは四年生で習う内容なのだ。カインがちょうど学校で習っている内容である。

理屈がわかっていればいきなりそうした高度な考え方、複雑なやり方をやったって良いとは思うが、学園の授業には手順という物があるのだ。算数の授業で三足す三を教えている教師に「それは三かける二の方が効率が良い」と指摘しているようなものなのだ。

「その生徒って、なんていう名前なんですか?」

ジャンルーカが困った様に二人に問えば、アルンディラーノとディアーナは二人で顔を見合わせて、そしてそろってジャンルーカの方へと身を寄せた。

「「ラトゥール・シャンベリー!」」

息ぴったりに叫んだ二人の様子に、ジャンルーカは目を丸くしながら「二人は息ぴったりですね」と言って、カインを含めた三人から声をそろえて否定されたのだった。