軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

刺繍の会子どもメンバーはとても仲良し

秋も深まり、寒さが強くなってきたある日。

王宮の半分がガラス張りの温室のようになっているいつものサロンにて、隔月で開催されている王妃様主催の刺繍の会が開かれている。

アルンディラーノの友人作りのためにと開かれた子ども連れ開催時からすでに七年が経っており、当初よりも子ども世代の参加者は減っていた。

「去年の神渡りはカインが居なくてさみしかったけど、今年の神渡りは帰ってこれるんだろう?」

「今年は、魔獣討伐訓練も夏前にあったと言っておりましたし、実技系授業もすでに六割以上の日数を出席済みとのことですから」

「じゃあ、向こうの建国祭からこっちに帰ってこれるんだな」

十一歳になり、アルンディラーノは大分身長が高くなっていた。騎士団との剣術訓練や時間があいた時に行っている走り込みのせいか、体もがっちりとたくましくなってきている。

そんな、発展途上ではあるががっちりとした体つきの少年が、ちまちまと真面目に刺繍に取り組みながら、同じテーブルで作業をしている女の子達とおしゃべりを楽しんでいた。

「それが、おそらく今年で留学最後だろうから、今年の建国祭の騎士行列には出て欲しいって言われたらしくて、建国祭が終わってから向こうを出発するんですって」

アルンディラーノの向かいの席に座ったディアーナが、色替えの為に刺繍糸をパチンとはさみで切りながら答える。気心知れた友人しかいない場なので、ディアーナの言葉はラフになっている。

「まぁ、それでは神渡りギリギリの帰国になる感じかしら?」

「今年は寒いですし、雪が降るのが早そうというお話ですの。帰国が遅くなると雪で馬車が動かなくなってしまいますの」

「雪の当たり年らしいですもんね」

ケイティアーノ、ノアリア、アニアラがそれぞれ刺繍の手を止めて、サロンのガラスの天井越しに空を眺める。

「十年おきに大雪が降るっていうあれか? 迷信じゃないのか」

「えー、アル殿下は夢がないんじゃないかしら」

「私、雪で遊んでみたいんですの」

「雪遊びは楽しいですもんね」

「雪が降らなきゃ良いなんて言ってないだろ」

「雪と言えば、ディちゃん。サイリユウムの神渡りって全然ちがったんでしょう?」

「そういえば、二年前の神渡りはディちゃんは隣国にいたのですもんね」

「そうなのー」

おしゃべりをしつつも、五人の手は止まらない。

アルンディラーノ世代で、未だに刺繍の会に参加し続けているのはこの五人だけとなっていた。刺繍の会は隔月開催だが、毎回結構な量の課題が出る。それをこなせなくて来なくなった子もいるが、ディアーナ達はそれをこなしてここまで来ているので、しゃべりながらでも手は自然と針を刺したい通りに刺していける。

アルンディラーノが続けているのだからと、しばらくの間は何人かの男の子も残っていたのだが、乗馬や剣術など、他にやりたいことが出来た子から順に来なくなってしまい、男子で残っているのはアルンディラーノだけになっている。

「神渡りの鐘ってなんだ?」

アルンディラーノの、動き続けていた手がふと止まった。

隣国の神渡りは全然違う行事だったという話をした流れで、リムートブレイクの神渡りで庶民の行事である鐘を鳴らすのにお忍びで参加しているという話になったところだった。

「あら? アル殿下はご存じないのかしら」

若干勝ち誇ったような顔でケイティアーノがディアーナの腕を取る。

「私、去年はディちゃんと一緒に鐘を鳴らしに行ったのですわ」

「私はおととし、アーニャちゃんと鐘を鳴らしたんですの」

「おととしは小さな方の鐘しか鳴らせませんでしたもんね。今年は大人の鐘を鳴らしたいですもんね」

ノアリアとアニアラも顔を見合わせて「ねー」と楽しそうにはしゃいでいる。

「だーかーら! 神渡りの鐘ってなんなんだよ」

女の子同士がきゃっきゃするばかりで教えてくれない事に、思わずアルンディラーノが声を荒げた。

「王宮前広場に、大きな鐘が設置されるんです。神渡りで帰って行く神様を送り出して、やってくる神様が道に迷わないように一晩中鐘を鳴らすって意味があって、皆で順番に紐を引いて鐘を鳴らすんですよ」

ケイティアーノを腕にぶら下げたまま、ディアーナが仕方が無いなぁという顔でアルンディラーノに説明した。

「今年もあるのか?」

「平民向けですけど一応神事ですの。毎年やっているんですから、今年もきっとやるんですの」

ノアリアの返事に、アルンディラーノは拳を握った。

「じゃあ、今年は僕も鐘を鳴らす」

ディアーナ達の話を聞いて、とても楽しそうだと思ったのだ。毎年、王宮内前庭で行われる貴族がそろった立食パーティに出ているアルンディラーノは、貴族からの挨拶を聞いたり侍女や侍従がガチガチに周りを固めているため抜け出すなんて思いもしなかったのだ。時々友人達がふっと居なくなる時があると思っていたが、みなそんな楽しそうなことをやりに行っていたのかと、悔しくも思った。

「王太子殿下が平民に混じって鐘を鳴らす行列に並ぶんですの?」

「警備が厳しくなってしまいますもん。楽しくなくなってしまいますもん」

「アル殿下が抜け出したら、王宮の前庭が大騒ぎになってしまうじゃない」

「王族の自覚をちゃんと持った方がよろしいんじゃ無いかしら」

じゃあ皆で行きましょうか、という言葉を期待していたアルンディラーノは、女の子達から総反対されてがっくりと肩を落とした。