軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

うまくやりなさい

刺繍の会での一件は、王宮の法務棟で勤務中のディスマイヤ・エルグランダークへとコッソリ伝えられた。

「元々はうちの子が悪いんだからお咎めなしの予定よ。あんまり怒らないであげてね」という王妃直筆のメモ用紙を通りすがりの侍女から受け取ったのだ。

急用が出来たと部下に伝えて急いで邸に帰り、エリゼから事情を聞いたディスマイヤはなんとも 趣深(おもむきぶか) い顔をした。

「アイツそんなに?」

「イル君が来てから、ディと遊ぶのをイル君に譲っていたりもしたから、少しは妹離れ出来ているのかと思ったんですけどね…」

「ていうか、いつの間に魔法とか使えるようになってたの。カイン」

「ディと違って、出来るようになっても自慢しに来てくれないのよね、あの子…。今度ちゃんと、家庭教師の方達から進捗を聞いておくわ」

「そうしてくれ…。大人しくて出来る子だからって、ほったらかしにしすぎたかね」

とにかくちゃんと叱ってくださいね、とエリゼに言われながらカインの部屋へと訪れたディスマイヤは、コンコンと部屋の戸をノックする。

しばらく待つが返事がないのでもう一度ノックするが、やはり返事がない。

仕方なく「入るぞ」と声をかけながら戸を開けば、そこにカインはちゃんといた。

王宮から帰った服のままソファにうなだれて座り、手は軽く開いたまま時折指先がピクピクと動いていた。

「カイン?」と声かけても返事もしないし顔も上げない。

エリゼは、カインは部屋で勉強か読書かバイオリンの演奏でもしているんじゃないかと思っていた。

ディアーナと遊ぶか食べるか寝るかしている以外は、隙間なく勉強か鍛錬をしているイメージがカインにはあったのだ。謹慎を言い渡したところで、部屋から出ずにやれることはたくさんある。

帰りの馬車でも自分を廃嫡しろと言って不敵に笑う位だから反省も何もしてないだろうと思っていたのだ。

だからこそ、ディスマイヤにキツく叱って貰わねばならないと考えていたわけなのだが。

ディスマイヤは部屋に入りローテーブルをずらすとソファに座るカインの前に 跪(ひざまづ) いた。

俯いていて表情が見えない顔をペチペチと手の甲で軽く叩く。

「カイン、カイン。まずは返事をしなさい」

ピクリと肩を揺らして、頭がわずかだけ持ち上がった。

「お父様」

「うん。ただいま」

「……おかえりなさいませ」

カインと会話が出来ることがわかると、ディスマイヤは脇に手を入れてカインを持ち上げ、そのまま立ち上がって抱き上げた。

「おぉ。いつの間にかこんなに重たくなっていたんだな。もしかしたら、お前を抱き上げたのなんて生まれた直後以来かもしれないな」

一度抱き上げた後、よいしょと声を出して尻の下と背中を支える形に抱き直す。

されるがままに担ぎ上げられたカインは、ディスマイヤの肩にぐでんと頭を乗せて寄りかかっている。

ディスマイヤはそのまま、背中をポンポンと叩きながら部屋をゆっくり歩き出した。

「こめかみを挟んで炎魔法なんか使ったら、脳みそが焼けて最悪死んでしまうよ。治癒魔法士では焼けた内臓の復活は難しいからね。治癒魔法士では治せない怪我を負わせたら、 デ(・) ィ(・) ア(・) ー(・) ナ(・) と(・) 同(・) じ(・) 条(・) 件(・) で(・) は(・) な(・) く(・) な(・) っ(・) て(・) し(・) ま(・) う(・) よ」

「……」

「私は、法を司る仕事をしているのは知ってるね?」

カインは、ディスマイヤの肩に頭を乗せたまま、コクンと頷く。

「私に、息子の罪を裁定させないでくれ」

「……」

「わかるかい?カイン。 上(・) 手(・) く(・) や(・) り(・) な(・) さ(・) い(・) と言っているんだよ」

「お父様……」

「やぁ、やっと顔を上げてくれたね」

カインは頭を起こして父の顔を見た。抱かれているので見下ろす形になっている。少し下からカインを見上げるディスマイヤはパチンとウィンクした。

「お父様。僕を廃嫡にしたら、その後僕をこの家で雇ってください。庭師のお爺さんの弟子でも門の警護見習いでも、洗濯メイド見習いでも、厨房の雑用係でも。頑張って仕事を覚えます。仕事が出来る人間になったらディアーナの侍従にしてください」

「都合の良いことを言うね」

ディスマイヤが苦笑する。カインを廃嫡にする事で、ディアーナを王家に嫁がせない作戦についても、エリゼからすでに聞いていた。

「カインは、ディアーナを殿下の婚約者にしたくないんだね?」

「はい…」

「今回の件、恐らく表向きにはお咎め無しになると思うよ」

「そうですか」

「むしろ、カインが大袈裟にしたせいで『怪我をさせた責任をとって嫁に貰う』とか言い出すかもしれないよ?」

「そんな!?」

カインは焦ってディスマイヤの肩を強くつかむ。その可能性を回避するにはどうしたらいいのか、考えようとして目が泳いでいる。

「カイン。私は、息子といえども法を犯せば罰する事に躊躇しない。ごまかしも庇いもしないよ。どうか、そんな悲しい事にならないようにして欲しい」

「お父様……」

「もう一度いうよ。カイン、上手くやりなさい」

そう言うと、カインをソファに下ろしてワシャワシャと頭をかき混ぜるように強くなでた。

ぐちゃぐちゃになった頭を抱えて顔を上げたカインは、呆然と父の姿を見上げるしかなかった。

「王宮から沙汰があるまでは、カインは部屋で謹慎。家庭教師もお休みだし、ご飯も食堂へ来ないでひとりで部屋で食べること」

ビシッと指をカインに突きつけて、そう言い放つとくるりと背を向けて廊下へと歩き出すディスマイヤ。

エリゼを伴って部屋を出たところで、もう一度振り返った。

「あと、ディアーナとも面会謝絶だからね」

「お父様!?」

最後の最後で一番つらい罰を言いつけられてしまい、悲鳴を上げたカインだった。