軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

へんなひと

内見も終わり、入居するのに問題がなくなったのでエリゼとディアーナは一度宿へと戻ることになった。

屋敷の売買契約も使用人たちの雇用契約も済んだので、ここからの采配は執事であるダレンが仕切る。

エリゼの連れてきた使用人の意見を聞きつつ、バランスよく差配しているようで、スムーズに宿から荷物を運び出していっている。

宿から退去するための荷造りなどでばたばたしているため、エリゼとディアーナは客室ではなく宿の食堂で昼食をとり、先に荷物を運び出して空っぽになっていた寝室を使ってお茶会用のドレスへと着替えると、王宮へと向かって出発した。

「残念ながら、今日のお茶会には二人の王女殿下は参加しないそうよ。でも、同じ歳のジャンルーカ殿下はいらっしゃるそうなの。仲良くなれるとよいわね、ディアーナ」

エリゼが手元で開いている茶会の招待状をみながらそういうと、

「はい。ジャンルーカ殿下とはお手紙の交換もしているから、お会いできるのが楽しみですわ。お母さま」

ニコリと笑ってディアーナがそう答えた。

ディアーナとジャンルーカは、カインの夏休み後あたりからジャンルーカのリムートブレイク語の勉強のために文通をしている。

書く事と読む事の訓練なので本来ならディアーナはリムートブレイク語で返事を書くべきなのだが、自分の勉強にもしたいから、と言ってサイリユウム語で返事を書いていた。

エリゼとイルヴァレーノもジャンルーカと文通をしているが、こちらはリムートブレイク語で返事を出していた。ちなみにディアーナほどの頻度ではない。

この件に際して、サッシャは当初「仲間外れにされた!」とカインに対して憤ったのだが、よく考えてみれば年齢が半分もない男の子と文通しても何も書くことがないことに気が付いた。

貴族女性とのやり取りの練習としてエリゼ、同性相手としてイルヴァレーノ、同じ年の友人としてディアーナが相手になっているのだと思えば、サッシャが対応するカテゴリーはない。カインが指名しなかったのは単純にそれだけなのだと今は納得している。

エリゼとディアーナで、お手紙でこんなやり取りをしたけど今はどうかしら、その後のお話を直接聞けるわね、とお茶会に向けて楽しく会話をしているうちに、馬車は目的地へとたどり着いた。

先に降りたイルヴァレーノのエスコートで二人が馬車から降りると、豪華なドレスに銀色の小さなティアラを頭に乗せた女性が待ち構えていた。

「お待ちしておりましたわ。遠い所から良く来てくださいました。サイリユウム王国王妃のディーデリィドです」

いきなり王妃が出迎え、挨拶をしてきたことにエリゼは驚いた。しかし、筆頭公爵家夫人として顔には出さず、スカートをつまんで腰を少し落としつつ、上体を傾げて挨拶をした。

「お初にお目にかかります。エリゼ・エルグランダークと申します。ご尊顔拝し奉り恐悦至極でございます。隣国貴族である私共に、ご配慮いただき感謝の念に堪えません。本日は茶会へのご招待誠にありがとうございます」

エリゼの挨拶に、王妃は鷹揚に頷いた。

それを見て、エリゼの斜め後ろに控えていたディアーナが一歩前に出てエリゼに並んだ。背筋を伸ばし、母と同じようにスカートをつまんで腰を少し落とし上体を傾げる。

「お初にお目にかかります、王妃殿下。エリゼの娘、ディアーナ・エルグランダークでございます。ご尊顔拝し奉り恐悦至極でございます」

「まぁ」

ディアーナの丁寧なあいさつを受け、王妃が目をまるくした。ディアーナの世を忍ぶ仮の姿は完璧である。

「あらあらまぁまぁ。サイリユウム語で丁寧なごあいさつ、ありがとう。まだ小さいのにこんなに流暢にこちらの言葉で話せるのね。今日はとっておきのお茶やお菓子を用意してあるのよ、楽しんで行ってちょうだいね」

筆頭公爵家夫人となれば、まぁできるだろうと思っていたサイリユウム語だが、連れてきた小さな女の子も流暢に挨拶をして見せたことで王妃の気分は急上昇した。

自分の国に興味をもち、自ら歩み寄ろうとする第一歩が言語である。この初対面の挨拶をサイリユウム語で行う事で、友好の気持ちをディアーナは表して見せたのだ。

ニコニコと笑顔が深くなった王妃だが、頬に手を添えて少し困った顔をした。

「エルグランダーク夫人、ディアーナ嬢。私から招待したのですけれど、残念ながら公務が立て込んでおりますの。本日はこちらの第二側妃がホストとなってわたくしの代わりに歓待いたします。ゆっくりと楽しんでいらっしゃってね」

「お忙しい中、ご挨拶させていただけてうれしゅうございました。ご無理なさらず、ご自愛くださいませ」

王妃が指し示す先には、すっきりとしたドレスを着た女性が立っていた。第二側妃と紹介されてわずかに会釈してやさしく微笑んだ女性は一歩前に出るとエリゼをエスコートするように手を差し出した。

「ではね」

王妃はくるりと体を返すと、王宮の奥の方へと去って行ってしまった。

エリゼとディアーナは第二側妃につれられて温室庭園へと案内された。

「お茶会の開催が急なことだったので、王妃殿下は予定を空けられませんでした。最上級の賓客として扱う為に王妃殿下の名前で招待いたしましたが、そう言った理由で王妃殿下は茶会には欠席となります。申し訳ございません」

案内の道すがら、第二側妃はそういって申し訳なさそうな顔をした。しかしエリゼは優雅に微笑みつつ首を横に振った。

「承知しておりますわ。王都に到着して三日しかたっておりませんのに、ご招待いただけたのですもの。むしろご挨拶させていただけたのにも驚いたぐらいですもの」

「ご理解感謝する。かたじけない」

ディアーナは、王妃様が呼んでくださったお茶会なのに王妃様いないのかー。と思っていたのだが、今の側妃と母の会話からすると「王妃がお茶会に呼ぶような要人なんだぞ」というのを周囲に知らしめるために王妃名義で招待したけど、急いで開催したから王妃様本人の予定はあわなかったよ、ということらしいと理解した。

なるほど、これが貴族の大人の世界かと感心していたディアーナだが、先ほどから気になることが他にもあった。

第二側妃のドレスである。上半身は体にそって細いぴったりとしたデザインで、ボレロのような丈の短い上着を着ている。

そしてスカート部分は前後左右に深くスリットが入っていて、その下にもスリット部分がずれて入っている布が重なっているのだが、歩くたびにちらりちらりとスリットとスリットの間から足が見えるのだが……。

「第二側妃様。なんとお呼びしたらよろしいでしょうか」

勇気を出して、ディアーナは名前を聞いてみた。本当に聞きたいことを聞く前に、まだ名前を聞いていない事に気が付いたからだ。

「ああ、すまない。まだ名乗っていなかったね。早くくつろいでいただこうと案内するのに気が急いていたようだ」

そういって立ち止まると、第二側妃は一旦エリゼの手を離してディアーナの前に跪いた。目線を合わせて二コリとわらい、ディアーナの手を取って手の甲を自分の額につけた。

「わたしは、サイリユウム王国国王陛下の第二側妃、シグニィシスだ。ディアーナ嬢、よろしくたのむ」

「ディアーナ・エルグランダークです。よろしくお願いいたします、シグニィシス様」

ディアーナの前に跪いたことで、ディアーナの目にはっきりと見えた。シグニィシスはスカートの下にゆったり目のズボンをはいているのだ。

ディアーナは挨拶を返しつつも、シグニィシスの足元が気になって仕方がなかった。

シグニィシスは立ち上がると、今度はエリゼの手を取って頭を下げ、手の甲を自分の額につけた。

「名を聞かれたので、ディアーナ嬢へと先に挨拶をした無礼おゆるしください。第二側妃のシグニィシスです。本日は心からもてなすつもりですから、どうぞ楽しんでいってください」

「え、ええ。楽しみにしておりますわ……」

シグニィシスのした挨拶は、男性が女性にする挨拶である。それを教養として知っていたからこそ、エリゼは困惑している。もしかして自分の勉強してきたことが間違っていたのかしらぐらい思っていた。

「シグニィシス様、そのドレスの下はズボンですか?」

「よく気が付かれましたね、ディアーナ嬢。そうです。下にズボンをはいております。このドレス、スカート部分にも深くスリットが入っておりますでしょう? とっさの折に、このまま馬に乗れるのですよ」

「まぁ! 素敵!」

サイリユウム王国の第二側妃はちょっと変な人だ。とエリゼは思ったし「まぁ素敵!」じゃないよ我が娘。とも思った。

その後、エリゼをエスコートしつつもディアーナと乗馬や馬上槍の振り方などについて盛り上がるシグニィシスに連れられて、一行はお茶会会場である温室庭園へと到着したのだった。